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第六十八話 死んだネズミ亭
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「そんな、そんな馬鹿げた理由でここまで手間かけて命危険にさらすヤツ始めて見た。ぷぷぷ、あんたいいわ~。こっちついてきて正解だったわ」
「そうか?」
「そうさ。アタイは戦闘はからっきしだけど、鍵開けと罠解除やらなんやら探索者の仕事の腕はあると自分では思ってる。あんたのその……野望の……ぷぷっ、役に立つよ」
「ああ、期待してるぞ、王としてな」
「やめて、これ以上笑わせないで」
フィリパが笑い死にする前に見た顔の男がギルドの入口をくぐった。
広場で演説していたときとは違い、嫌味ではない程度に高価な武具に身を固めている。彼の後ろにはパーティーであろう数名が続いていたが、残念なことに俺の麗しの君は見当たらなかった。
受付の初老の男が軽く手を上げてダンテの注意を引く。
彼らはカウンター越しに話し合い、共同復古戦線のリーダーが振り返って俺を見た。
ミーティアとリゼの二人は、まともな人間ならまず立ち入らないであろうスラム街の奥へと入っていった。
内心不安な様が表に出ないように胸を張って歩きながら、ミーティアはハーフリングのフィリパの言葉を思い出していた。
「ヴォックスに加入するのはそう難しいことじゃないよ。スラムにある死んだネズミ亭ってところに行って、リマーカを注文するの」
リマーカとはアルダン王国では珍しい多肉植物の名前であり、その果汁から作られる度数の高い酒の名前でもある。
「そしたら店主に『川に流れるもの』と聞かれるから──」
「『夜にはその身を涙で濡らさん』って答えればいいんだね」
彼女は意表を突かれたらしく目をパチクリさせた。
「なあんだ、知ってるんじゃない。あとはヴォックスの人間が来るから仲間に入りたい旨伝えれば、それでうまくいくはず。ただ……」
「ただ?」
「幹部はとにかく下っ端はただのチンピラだからね。あんたたちみたいな美人二人組にとっては嫌な思いをすることもあるかも。ま、そんな奴らには強気に出れば案外平気だから。ナメられないようにね」
「アドバイスありがとう」
そばかすのハーフリングは可愛く肩をすくめた。
「そっちの方が大変そうだからね。姫様奪還のためって言ってもジャンの言う通り、やばくなったら逃げるんだよ」
ネズミの死体が描かれた看板があった。悪趣味通り越して連想ゲームで名前をつけられたとしか思えない『死んだネズミ亭』の入口をくぐる。
ジロリ。
バーカウンターに立つ店主含め、店にいる全員の視線が肌に突き刺さるのをミーティアは感じた。
酒と安い食事と男たちの体臭以外に、吐き捨てられた噛みタバコと小便のニオイが鼻を刺激する。
どこかで嗅いだ事があると思ったら、第十三開拓村でアカリの家に行く途中に通った道にニオイが似ていた。
ならば臆する事はない。
わたしは悪人で、ヴォックスの一員になりに来たんだ。そういう顔を作って堂々と胸を張りカウンターの椅子に腰掛けた。
店主は何も言わない。
ナメられないように、ナメられないように。
カウンターに肘をつき、手に顎を乗せて下から店主を睨めつけた。
「リマーカを」
「私も同じので」
横に座るリゼが言う。彼女がいなかったらとっくに逃げ出していたかもしれない。ミーティアはそう思った。
「おいおい、お嬢ちゃんたち」
ボロすぎてジャケットかコートかわからない黒い上着をまとった男がミーティアの隣りに座った。酒臭い息がかかる。
「この店でリマーカを頼む意味が分かってんのか? そんなものよりおじさんの股間の白い膿を吸い出してくれないかな」
ミーティアは腰からナイフを引き抜くと手の中でクルクルと回転させ、酔っぱらいの目の前の木の板に突き刺した。
「ひっ」
男が慌てて後ずさる。
「この店は客の注文も取れないの? リマーカをって言ってんだけど!」
「……」
店主が後ろの店から年季の入った古い酒瓶を取り出すと、ワンショット分ミーティアとリゼの前に注いだ。
店主は斜視の目で二人を交互に見つめる。
「……『川に流れるもの』」
「「『夜にはその身を涙で濡らさん』」」
美少女は溌剌と、美女は気だるげに答えた。
「そうか」
店主が静かに答え、他の客の料理の準備に戻る。
「……で? これでわたしたちはもうヴォックスの一員ってこと?」
ミーティアがそう言うと、店主が面倒くさそうに彼女の方に顔を向けた。
「それは──」
「い~~や、まだだね」
先ほど新米魔法使いに絡んできた酒臭い男が仁王立ちして言った。
「ボスが言ってたぜ、王室じょーほー局とかいうのが入り込んでいるかもしれないって。そしてそのなんとか局は、カラダのどこかに入れ墨をしてるらしい」
口ぶりからしてこの男もヴォックスなのだろう。いや、あるいはこの店の人間全員が。
「それで?」
リゼが男に向き直る。
「私達に何をしてほしいの?」
「へっ、へへへ。服を脱げ今ここでだ」
「なっ!」
抗議しようとしたミーティアをリゼが手を挙げて制する。
「構わないわ。さっさと終わらせましょう。それでヴォックスの、あなたより上の人間に取り次いでもらえるってことでいいのよね?」
「あ、あああ。いいぜ」
店にいる男たち全員の視線が二人に集中している。
「そうか?」
「そうさ。アタイは戦闘はからっきしだけど、鍵開けと罠解除やらなんやら探索者の仕事の腕はあると自分では思ってる。あんたのその……野望の……ぷぷっ、役に立つよ」
「ああ、期待してるぞ、王としてな」
「やめて、これ以上笑わせないで」
フィリパが笑い死にする前に見た顔の男がギルドの入口をくぐった。
広場で演説していたときとは違い、嫌味ではない程度に高価な武具に身を固めている。彼の後ろにはパーティーであろう数名が続いていたが、残念なことに俺の麗しの君は見当たらなかった。
受付の初老の男が軽く手を上げてダンテの注意を引く。
彼らはカウンター越しに話し合い、共同復古戦線のリーダーが振り返って俺を見た。
ミーティアとリゼの二人は、まともな人間ならまず立ち入らないであろうスラム街の奥へと入っていった。
内心不安な様が表に出ないように胸を張って歩きながら、ミーティアはハーフリングのフィリパの言葉を思い出していた。
「ヴォックスに加入するのはそう難しいことじゃないよ。スラムにある死んだネズミ亭ってところに行って、リマーカを注文するの」
リマーカとはアルダン王国では珍しい多肉植物の名前であり、その果汁から作られる度数の高い酒の名前でもある。
「そしたら店主に『川に流れるもの』と聞かれるから──」
「『夜にはその身を涙で濡らさん』って答えればいいんだね」
彼女は意表を突かれたらしく目をパチクリさせた。
「なあんだ、知ってるんじゃない。あとはヴォックスの人間が来るから仲間に入りたい旨伝えれば、それでうまくいくはず。ただ……」
「ただ?」
「幹部はとにかく下っ端はただのチンピラだからね。あんたたちみたいな美人二人組にとっては嫌な思いをすることもあるかも。ま、そんな奴らには強気に出れば案外平気だから。ナメられないようにね」
「アドバイスありがとう」
そばかすのハーフリングは可愛く肩をすくめた。
「そっちの方が大変そうだからね。姫様奪還のためって言ってもジャンの言う通り、やばくなったら逃げるんだよ」
ネズミの死体が描かれた看板があった。悪趣味通り越して連想ゲームで名前をつけられたとしか思えない『死んだネズミ亭』の入口をくぐる。
ジロリ。
バーカウンターに立つ店主含め、店にいる全員の視線が肌に突き刺さるのをミーティアは感じた。
酒と安い食事と男たちの体臭以外に、吐き捨てられた噛みタバコと小便のニオイが鼻を刺激する。
どこかで嗅いだ事があると思ったら、第十三開拓村でアカリの家に行く途中に通った道にニオイが似ていた。
ならば臆する事はない。
わたしは悪人で、ヴォックスの一員になりに来たんだ。そういう顔を作って堂々と胸を張りカウンターの椅子に腰掛けた。
店主は何も言わない。
ナメられないように、ナメられないように。
カウンターに肘をつき、手に顎を乗せて下から店主を睨めつけた。
「リマーカを」
「私も同じので」
横に座るリゼが言う。彼女がいなかったらとっくに逃げ出していたかもしれない。ミーティアはそう思った。
「おいおい、お嬢ちゃんたち」
ボロすぎてジャケットかコートかわからない黒い上着をまとった男がミーティアの隣りに座った。酒臭い息がかかる。
「この店でリマーカを頼む意味が分かってんのか? そんなものよりおじさんの股間の白い膿を吸い出してくれないかな」
ミーティアは腰からナイフを引き抜くと手の中でクルクルと回転させ、酔っぱらいの目の前の木の板に突き刺した。
「ひっ」
男が慌てて後ずさる。
「この店は客の注文も取れないの? リマーカをって言ってんだけど!」
「……」
店主が後ろの店から年季の入った古い酒瓶を取り出すと、ワンショット分ミーティアとリゼの前に注いだ。
店主は斜視の目で二人を交互に見つめる。
「……『川に流れるもの』」
「「『夜にはその身を涙で濡らさん』」」
美少女は溌剌と、美女は気だるげに答えた。
「そうか」
店主が静かに答え、他の客の料理の準備に戻る。
「……で? これでわたしたちはもうヴォックスの一員ってこと?」
ミーティアがそう言うと、店主が面倒くさそうに彼女の方に顔を向けた。
「それは──」
「い~~や、まだだね」
先ほど新米魔法使いに絡んできた酒臭い男が仁王立ちして言った。
「ボスが言ってたぜ、王室じょーほー局とかいうのが入り込んでいるかもしれないって。そしてそのなんとか局は、カラダのどこかに入れ墨をしてるらしい」
口ぶりからしてこの男もヴォックスなのだろう。いや、あるいはこの店の人間全員が。
「それで?」
リゼが男に向き直る。
「私達に何をしてほしいの?」
「へっ、へへへ。服を脱げ今ここでだ」
「なっ!」
抗議しようとしたミーティアをリゼが手を挙げて制する。
「構わないわ。さっさと終わらせましょう。それでヴォックスの、あなたより上の人間に取り次いでもらえるってことでいいのよね?」
「あ、あああ。いいぜ」
店にいる男たち全員の視線が二人に集中している。
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