敗残王と亡国姫、冒険者として再起す  ~王女も聖女も皇女も魔女も、巫女も受付嬢も獣人もエルフも、いい女はぜーんぶ俺のもの!~

春風トンブクトゥ

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第七十五話 VS.グリフォン

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「ヒャハハハハァァアアア!」

 ダンテの剣を盾で受けながらアレハンドロが笑い声を上げた。

「そうともさぁ! グリフォンが来るぞぉぉ! モンスターを制御できる呪文を知っているのは俺だけだ。俺に鏡をよこせ。さもないとお前たちは全員グリフォンの餌だ」

「そうかぁ、なにか面白いネタがあるのかと思っていたけど、そんなものだったか」

「は?」

 ドスッ!
 ダンテのロングソードが鎧ごとアレハンドロの胸を貫いた。

「が……は……」

 元騎士が膝をつき倒れる。

「どうする、つもりだ……グリフォンは……」

 ダンテは両手を上げ空を仰いだ。

「グリフォン? ドラゴンが来ようと関係ないね。僕には天命がある。この国を変えるという運命の必然が。だからそれまで僕も、僕のパーティーも決して敗北はしない。命を薪にして火にくべてでも、前に進み続けるさ」

 その彼に陰を差すように、三匹のグリフォンが飛来した。

 グリフォン。わしの翼と上半身に獅子の下半身を持つこの生き物は、鋭い爪とくちばし、そして一トンはあろうかという質量そのものが武器である。

「エリィ! 盗賊共の倉庫を探してロープを見つけてくれ。ミューラーは前衛の援護。僕とマリアが一匹づつ受け持つ。ジャン……君にも一匹任せても?」

「無論だ」

 ブレイブハートを引き抜いた。
 俺の「気」に当てられたのか、一番大きいのがこちらに向かってきた。
 目の前で翼を大きく羽ばたかせ、地響きを立てて石切り場に着陸する。

「ケェェエエエエエエエエンンン!!」

 鳴き声でビリビリと空気が震える。
 その鋭い眼光はしっかりと俺を捕らえていた。
 フィリパがカリナの手を引いて物陰に隠れる。

「う、うわ。やばい。まじでやばいって。な、何か手伝ったほうがいい?」

「カリナは鏡をそこに置いて、エリィとともにロープを探してダンテに渡してやれ。フィリパは目立たぬようグリフォンから距離を取って大回りし、あの虎獣人の娘を助けてやってくれ。おそらくだが、彼女の手には余る相手だ」

「はい、分かりました」 

「アタイもそれでいいけどよぉ。アンタは大丈夫なのかぃ?」

「俺か? 無論だ。獅子の足が生えようと、いかに大きかろうと、所詮は鳥よ。王に敵う相手ではない」

 俺の言葉を理解したわけでもないだろうが、グリフォンは後ろ足で立ち上がると、前足の四本の爪に体重を乗せて攻撃してきた。ブレイブハートでそれを防ぐ。重い! 鋭い爪がすぐ眼前に迫る。

 大剣を斜めにずらし、体捌きで反対側の爪を躱す。
 空気を切り裂く恐ろしい音がしたが、俺はすでにそこにはいない。体の下に潜ると一閃して後ろ足の付け根を傷つける。少し体勢が悪かったか、切り落とすところまではいかないが、それでも十分に深い傷を負わせることが出来た。

「キィェエエエエエエエンン!!」

 グリフォンは甲高い叫び声を上げると、無事な方の後ろ足で俺を蹴り上げた。

「うおっ」

 大剣でガードしたが、衝撃で体が浮かび上がる。

 その間に怪鳥は高く飛び上がった。逃げるか、と思ったが空中でこちらに向きを変える。
 開かれた前足の四本指を見るに、どうやら滑空して前足で俺を捕らえ空に連れて行く腹積もりのようだ。

 確かにこちらは二本足の只人ヒューム。空中で落とされればそれまでだ。

 だが……。

 トン、タン、タン、トン。

 あのダークエルフ、クルジェの歩法を真似て横に歩く。
 初めて見る動きにグリフォンは戸惑ったようだが、もう降下は始まってしまっている。

 ドザッ!

 狙いを外したグリフォンの右の翼をブレイブハートで両断する。布と骨を同時に断ち切るような独特な手応えがあった。
 グリフォンが悲鳴を上げながら地面をのたうち回る。

「小鳥が。駄馬めいて地を這いずり回っておれ」

 俺が近づくと猛烈なスピードで前足を突き出してきたが、大剣で苦も無くそれを払う。
 更に一歩進み、グリフォンの首にブレイブハートを突き立てた。

 怪鳥はゴボゴボとクチバシから地を吐き出して死んだ。

 他の連中も概ねの決着を迎えそうだった。

 ダンテはミューラーが翼に穴を開けたグリフォンを俺と同じように処理。
 マリアは随分と苦戦していたようだが、フィリパとエリィが協力して足にロープをくくりつけ落ちてきたところをバトルアックスの乱打で倒していた。

「そんな、バカな……グリフォン三匹がこんなにあっさりと……」

 アレハンドロの前に俺、ダンテ、ミューラー、エリィが立つ。フィリパとマリアは仲直りをしたようで、カリナと三人でグリフォンの血抜きを行っている。

「ふん、お前がくたばる前にケリが付いてしまったな。今どんな気分だ、ん?」

「……俺は、どうなるんだ?」

 血が抜けて青白い顔になった盗賊の首魁は、焦点の合わない目で俺を見上げる。

「そうだな、クラックの効能を考えるとこのまま死ぬことはないだろう。ふんじばって王都へ連れていき、あれやこれや取り調べを受けたあと絞首刑だろうな」

「そうか……お前たちが来たのは、やはりヴォックスの差し金か? 俺たち傭兵団はあいつらの傘下に入るのを断ったからな」

「なんだと、ヴォックスの差し金? どういうことだ」

 ダンテが敵首魁の肩を掴んで揺さぶると、アレハンドロは苦しげな声を出した。

「知ら、ねえよ。ただ、前に俺達を襲撃してきた奴らはヴォックスの指示を受けていた。連中はそうやって服従か死を選ばせるのさ」

「それがほんの数年という短時間で国内の後ろ暗い連中を配下においた手口か。背景には強い暴力組織と……貴族の後ろ盾がありそうだな」

 俺が口を挟むと、アレハンドロは無言で目を瞑った。クラックが血を止めているとはいえ、胸を貫かれているのだ。声を出すのも辛かろう。

「ふむ、どうやら根が深そうな話ですね。私が調べてみましょう」

 糸目のミューラーがあごに手を当てながら言った。ダンテがそれにうなづく。

「ああ、頼む。やつらは王都を腐敗させている毒だ。もちろん国王夫婦がもっとも悪いのだが、ヴォックスも放ってはおけない」

 ヴォックスか。
 あいつら二人は上手いことやっているだろうか。
 石切場から見える青い空にそんなことを思った。
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