私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

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第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!

1 学園都市

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 ガラガラゴロゴロ、パッカパッカ、ガタンゴトン、パッカパッカと馬車が動いている。

 乗り合い馬車なので、老若男女いろんな人が乗っている。私もそんな乗客の1人だ。この馬車は学園都市へ向かっている。私は訳あって故郷の田舎の小さな村から10日かけて学園都市カヘンドラに向かっている。

 私は馬車に揺られながらやることも無くて手持ち無沙汰のため、これまでのことをぼんやりと思い出していた。


 私は現在15歳。黒髪で紺碧色の瞳の元気が取り柄の女の子。名前はルリエラ。この世界では平民は姓を持たない。私はど田舎の小さな村の孤児院で育った。生まれて1年も経っていない幼い時に孤児院の前に捨てられていたらしい。

 そんな私が前世とおぼしき記憶を見たのは、5歳の時、果実を収穫しようと木に登って、足を滑らして頭を強く打った瞬間だ。一瞬、走馬灯が流れたと思ったら、それは自分の記憶ではなく他人の記憶だった。そして、目が覚めたら、地球で生きた彼女の記憶を持ったままになっていた。それでも、私がルリエラであることは変わらず、前世の彼女に意識や身体を乗っ取られるみたいなことはなく、ただ、地球での彼女の知識を手に入れていた。

 彼女の記憶に影響を受けて、「空を自由に飛びたい」という夢を持つようになり、彼女の知識のおかげでこの世界に存在する理力で理術を行使して数年かけて体を空中に浮かせることができるようになった。

 孤児院のシスター見習いとして働きながら完全に趣味として楽しんでいただけの理術だったが、いろいろあって、私は理術士になるために村を出て、学園都市に行くことになった。

 村を出てから学園へ入学するまでの1ヶ月間は領主の館で世話になり、医術士で領主の弟が必要な知識を教えてくれた。

 学園都市カヘンドラは独立都市でもある。国から自治権を認められ、独自の統治と運営をしている。学園都市のトップは貴族の領主ではなく、学園で選ばれた学長が兼任している、
 学園には法学部、医学部、薬学部、経済学部、農学部、理学部の6つの学部がある。

 入学には入学試験などはなく、学園の関係者か卒業生の推薦状を持って面接で合格できれば入学できる。最低限の知識があることは推薦者が保証することになっており、推薦者が後見人と保証人の役目を負う。
 推薦状さえあれば基本的に農民でも商人でも貴族でも外国人でも入学できる。入学するのは比較的難しくはないが、卒業には決まった単位と卒業論文などが必要で、5年以内に卒業できなければ退学になってしまう。卒業の条件さえ満たしていれば、1年でも卒業は可能。

 この学園では、卒業後も引き続きこの学園で研究を続けたい場合、研究生として在籍することも出来る。研究生は研究結果が学園に認められると、研究室を持つことができる。そうなると、学園から研究費が支給され、助手や弟子を持つことも出来て経済的援助を受けられる。
 多くの学生がいつか研究室持ちになって、好きな研究を自由に出来るようになることを夢みている。

 この学園は地球の大学みたいだ。法学部などの専門性の高い分野の学問を学ぶための学校というのは大学に似ている。
 入学試験が無くて推薦状が必要というのは驚きだけど、入学試験にかかる手間隙や費用を考えるとこういった方法もありなのかもしれない。入学時点で入学者を篩にかけるほどに入学希望者は多くはないだろうし、身元がしっかりした人が推薦者となっているならそれほど大きな問題も起きないだろう。以外に合理的な方法かもしれない。
 
 理術の講義があるのは理学部だが、どの学部の講義も自由に受講できるので、所属以外の例えば、法学部の講義を受けることも可能。入学のときは理学部でも、卒業は法学部でするということも可能なので、自分の学部にこだわらず、いろいろな講義を受けてみてもいいかもしれない。
 しかし、人気のある講義は先着順や抽選などの場合もあるので、情報収集は個人で責任を持って行うようにと注意された。

 学園には認定制度と呼ばれる学園独自の制度がある。一定の試験に合格すれば、学園からその分野の専門家として保証される。
 この国では医術士などの専門家を名乗るのに、決まった制度は存在しない。誰でも名乗ることが出来てしまうので、知識や技術が無い者まで医術士と名乗り、治療に法外な対価を要求したり、効果の無い処置をして詐欺のような事をする輩が存在する。そのような輩とは一線を画する存在である事を保証するのが、認定制度だ。
 カヘンドラ学園卒業というだけでも箔付けは十分だが、カヘンドラ学園の認定師というだけで、下級貴族以上の絶大な信頼と信用を簡単に得ることができる。
 それ故に認定の資格を得るのは卒業する以上に更に難しいらしい。
 
 学園には貴族も平民も両方いる。平民では裕福な上流階級の商人や大地主など、貴族は下級貴族や中上級貴族の二男三男で貴族学院を卒業した貴族の子弟。
 爵位を継げない次男以下は生きていくのに仕事が必要だ。貴族学院では歴史や社交や礼儀作法などの貴族としての教育を受けられるが、専門性の高い学問は学べない。そういう講師がいないし、そういった知識を重要視もしていない。
 王都で宮廷付きの家臣として使えることが出来ればよいが、そういった役職も多くはない。
 仕事も無く、爵位も無く、お金も無く、手に職も無く、知識も無く、貴族としての高い矜持しか持っていない愚かな人間が商売に手を出して失敗することが多かった。
 学園には愚かではない貴族の次男以下の者が真剣に学ぼうと入学している者がほとんどだ。

 男女比は9対1くらいで圧倒的に男が多い。女は子を産み育てることが仕事で、学問や教養は必要ないという考えが一般的だ。その一般常識に反して、この学園に入学する女の子にはそれなりの事情を持つ子が多い。
 世間一般の普通の女の子とは違う、変わった、一癖もふた癖もある子が多い。
 平民には学校はない。家庭教師に学ぶ以外に勉強する方法はない。最低限の教養、文字の読み書きができなければ学園に入学できないので、この学園にいる平民は皆、富裕層だ。

 学部によっては社会で働いて、もっと専門性を高めたくて入学する中高年や、認定師を目指して入学する老人とかもいる。
 下は10代前半から上は60代まで学生がいる。

 学園では学生は身分や年齢に関係なく、皆平等という考えが基本だ。寄付金とかの関係で、徹底はされていないらしいが。
 貴族だからと威張ったり、実家が金持ちだからと態度がでかかったり、そういう人間は敬遠される。
 基本的に学園内では、自分の家のことを吹聴しない、他人の家のことを根掘り葉掘り聞かないのが暗黙のルールになっている。

 他にも私が全く知らないことをたくさん教えてもらった。
 私は本当に狭い世界しか知らなかったのだと実感してしまった。

 私は平穏で平和で平凡な日々をあの村でずっと送って生きていくものだと思い込んでいたし、それが私の願いでもあったからそうできるものだと信じて疑っていなかった。
 人生って本当に何が起きるか分からない。
 波乱万丈な人生なんて全く望んでいないのに、思い通りにいかないのもそれまた人生なんだな、と悟ってしまった。
 少しでも平穏で平和で平凡な人生を送れるように頑張ろう。

 私は馬車に揺られながら、ぼんやりとそんな決意を新たにしていた。
 そんなことをしていたら、突然、馬車が止まった。

 「着きましたよ。ここが学園都市カヘンドラです。どうぞ、皆さん降りてください。」

 御者に言われて、乗客が立ち上がり、1人1人降り始めた。私は一番最後に馬車を降りた。

 馬車を降りた私の目の前にはものすごくたくさん人が歩いている。
 学園都市はこの国で3番目に大きな都市だ。私が居た辺鄙な田舎の村とは全く人口密度が違う。地面も綺麗な石畳で、建物も5階建くらいの高くて立派な家やお店がたくさん並んでいる。まるで中世ヨーロッパの街並みだ。
 私は今までとは全く別の世界にまた来てしまったように感じて、一瞬息をのんだが、気を取り直して、目的地である学園に向かって歩き出した。


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