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第6章 私はただ知らないことを知りたいだけなのに!
13 問題③ 準備
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あまりの衝撃に思考停止してしまった私はどれだけの時間その場に立ち尽くしていたのだろうか。
「…あ、あの、お客様は取り敢えず門の付近の待合室でお待ちいただいておりますが、いかが致しましょうか?」
待ちぼうけをくらわされていた伝令役がしびれを切らして遠慮がちに話しかけてくるほどの時間微動だにせずに突っ立たままでいたようだ。
この若い伝令役の青年は事務的な淡々とした様子でも、野次馬根性で興味津々な様子でもなく、気遣わしげな表情を浮かべて私の返事を待っている。
私が孤児院育ちの平民ということは学園の人間なら誰もが知っていることだ。
彼はきっと純粋で優しい心の持ち主なのだろう。だから、「両親」を名乗る人間が訪ねてきたことを心配してくれているみたいだ。
このように心配されるのは正直に嬉しいが、身内ではない人間に弱味を晒すわけにはいかない。
このように思いもかけない伝言で伝令役に動揺している無様な姿を晒してしまうことがあるから、伝令役の対応は基本的に部屋の主人ではなく部屋の使用人がすることになっているのかもしれないなとどこか他人事のように感心して現実逃避する私を心の中で引っ掴んで現実に引き戻して、私は止まっていた頭をフル回転させる。
「…そうね、今、私はとても仕事が忙しくて手が離せない状態なの。そのまま私が来るのを待つか、日を改めて訪問するかを相手に尋ねてきてもらえる?」
「…は、はい!……あの、待つとしたら待ち時間はどれくらいとお伝えいたしましょうか?」
伝令役は待たせる場合の最低限の礼儀として伝えるべき待ち時間を私に尋ねてきた。私は笑顔を浮かべて即座に返答する。
「待ち時間は『私の仕事が片付いて準備ができるまで』よ」
「……畏まりました」
私の返答に顔を引き攣らせながら伝令役は足早に戻っていった。
その背中を見送り、扉を閉めて、室内で深い深いため息を吐く。
ひとまず時間稼ぎだけはできた。
これで最低でも数時間は待たせられる。できれば日を改めて欲しいけど、一切の面識が無い相手に事前の約束無しで突然お仕掛けて面会を要求するくらい非常識で礼儀知らずな人間がわざわざ日を改めてくれるとは考え難い。
きっとこちらの迷惑を考えずに居座り続けるに違いない。
私はこの数時間で準備をしなければならない。主に心の準備を。
何があろうと先程のような無様な姿を「自称両親」の前で晒して弱味を見せるわけにはいかない。
どんなことがあったとしても認定理術師として泰然とした態度で余裕を持って対応しなければならない。
大抵の場合、約束の無い客は門前払いを原則としていても家族は例外とされる。
家族を名乗る人物が面会を求めた場合は門前払いをされることなく、訪問相手に家族の訪問を知らせる。
訪問を知らされた相手がその訪問客に会うか会わないかは本人次第だが、少なくとも家族であれば門前払いはされない。
怪しげな人物が成り済まして家族だと門で騙ったとしても、本人に会えばすぐにその嘘はばれてしまう。
門での身分詐称は冗談や悪ふざけでは済まされない。
偽証罪や詐欺罪として学園の警備員に捕らえられ、学園都市の治安部隊に引き渡されて犯罪者として裁かれて処罰を受けることになる。
相手に会うための手段として用いるにはあまりにも危険で代償が大きい。だから、誰も門前で堂々とそのような絶対にすぐにばれる嘘を吐くことはしない。
しかし、私の場合は違う。
一目で嘘がばれることがない。
私が本物か偽物かを判別できないのだから、すぐに身分詐称が露見して捕まる危険性は低い。私に会う方法としては有効な手段だ。
私が何の証拠も無しに相手を偽物と断じてしまうと、相手は犯罪者として捕まり重い罰を受けることになってしまう。
万が一、偽物扱いした相手が公に調査されて本物だと認められてしまうと、私は無実の実の両親を嵌めて犯罪者に仕立てあげた極悪人として非難されて、社会的な評判は地に堕ちて今後の認定理術師としての活動に支障をきたすことになる。
他者の介入を許せば非常に厄介で面倒なことになるので、この件はプライベートな事として内々で片付けるしかない。
「自称両親」はこちらがそのように対応することを予想し、捕まる可能性が低いことも計算して来ているのかもしれない。
厄介事を避けるなら、会わずに追い返すという選択肢もある。
心情的には会いたくない。
事前に一切の連絡もせずに不意打ちみたいにいきなり相手の職場にお仕掛けてくる非常識な相手が本物の両親でも偽物でも面倒事しか想像できない。
常識のある人が両親として訪ねてきたなら真偽は不明でも会ってみたいと思ったかもしれないが、非常識な人間とは関わりたくない。
それでも心情を優先して逃げることはできない。
相手が本物か偽物かに関わらず、相手の目的を探らなければならない。
会って話をしてみないことには相手が何を企んでいるのか分からない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、ではないけど、会わずに無視して放置することは危険だ。
まずは訪問客に会って相手の訪問の目的を探ろう。
「自称両親」が自称か自称ではないかという判断は後回しだ。
科学的に血縁関係を証明できないこの世界で実の両親かどうかの判断は相手を信じるか信じないか、相手を信じられるか信じられないかという問題になる。
物証がなくても相手の「実の親」と言う言葉を素直に受け入れることができるほど相手を信じることができるかどうかだ。しかし、それほどの信頼関係を一朝一夕で簡単に相手と築けるものではない。
また、相手が実の親だと疑うことができないほどの確固とした証拠を提示されれば信じたくなくても信じるしかない。しかし、この世界では科学的な証明はできないから、証拠を持ってきていたとしても、その証拠は科学的な根拠の無い状況証拠や証言などになる。そのような証拠の真偽の確認や判断はすぐその場で出来るものではない。
まずは初対面の認定理術師として会って話をして訪問客の目的を探ろう。
そう決心はしたが、心の中で「願わくば、こんな非常識で礼儀知らずな人達が実の両親ではありませんように」と祈ることを止めることはできなかった。
下手な先入観を抱いていては偏見によって事実を見落としたり、歪めたり、捏造してしまうかもしれない。
相手の思惑を正確に探るためにも、なるべく贔屓も偏見も持たずに公正に相手を見て、冷静に対処するように心掛けようと心に誓った。
「…あ、あの、お客様は取り敢えず門の付近の待合室でお待ちいただいておりますが、いかが致しましょうか?」
待ちぼうけをくらわされていた伝令役がしびれを切らして遠慮がちに話しかけてくるほどの時間微動だにせずに突っ立たままでいたようだ。
この若い伝令役の青年は事務的な淡々とした様子でも、野次馬根性で興味津々な様子でもなく、気遣わしげな表情を浮かべて私の返事を待っている。
私が孤児院育ちの平民ということは学園の人間なら誰もが知っていることだ。
彼はきっと純粋で優しい心の持ち主なのだろう。だから、「両親」を名乗る人間が訪ねてきたことを心配してくれているみたいだ。
このように心配されるのは正直に嬉しいが、身内ではない人間に弱味を晒すわけにはいかない。
このように思いもかけない伝言で伝令役に動揺している無様な姿を晒してしまうことがあるから、伝令役の対応は基本的に部屋の主人ではなく部屋の使用人がすることになっているのかもしれないなとどこか他人事のように感心して現実逃避する私を心の中で引っ掴んで現実に引き戻して、私は止まっていた頭をフル回転させる。
「…そうね、今、私はとても仕事が忙しくて手が離せない状態なの。そのまま私が来るのを待つか、日を改めて訪問するかを相手に尋ねてきてもらえる?」
「…は、はい!……あの、待つとしたら待ち時間はどれくらいとお伝えいたしましょうか?」
伝令役は待たせる場合の最低限の礼儀として伝えるべき待ち時間を私に尋ねてきた。私は笑顔を浮かべて即座に返答する。
「待ち時間は『私の仕事が片付いて準備ができるまで』よ」
「……畏まりました」
私の返答に顔を引き攣らせながら伝令役は足早に戻っていった。
その背中を見送り、扉を閉めて、室内で深い深いため息を吐く。
ひとまず時間稼ぎだけはできた。
これで最低でも数時間は待たせられる。できれば日を改めて欲しいけど、一切の面識が無い相手に事前の約束無しで突然お仕掛けて面会を要求するくらい非常識で礼儀知らずな人間がわざわざ日を改めてくれるとは考え難い。
きっとこちらの迷惑を考えずに居座り続けるに違いない。
私はこの数時間で準備をしなければならない。主に心の準備を。
何があろうと先程のような無様な姿を「自称両親」の前で晒して弱味を見せるわけにはいかない。
どんなことがあったとしても認定理術師として泰然とした態度で余裕を持って対応しなければならない。
大抵の場合、約束の無い客は門前払いを原則としていても家族は例外とされる。
家族を名乗る人物が面会を求めた場合は門前払いをされることなく、訪問相手に家族の訪問を知らせる。
訪問を知らされた相手がその訪問客に会うか会わないかは本人次第だが、少なくとも家族であれば門前払いはされない。
怪しげな人物が成り済まして家族だと門で騙ったとしても、本人に会えばすぐにその嘘はばれてしまう。
門での身分詐称は冗談や悪ふざけでは済まされない。
偽証罪や詐欺罪として学園の警備員に捕らえられ、学園都市の治安部隊に引き渡されて犯罪者として裁かれて処罰を受けることになる。
相手に会うための手段として用いるにはあまりにも危険で代償が大きい。だから、誰も門前で堂々とそのような絶対にすぐにばれる嘘を吐くことはしない。
しかし、私の場合は違う。
一目で嘘がばれることがない。
私が本物か偽物かを判別できないのだから、すぐに身分詐称が露見して捕まる危険性は低い。私に会う方法としては有効な手段だ。
私が何の証拠も無しに相手を偽物と断じてしまうと、相手は犯罪者として捕まり重い罰を受けることになってしまう。
万が一、偽物扱いした相手が公に調査されて本物だと認められてしまうと、私は無実の実の両親を嵌めて犯罪者に仕立てあげた極悪人として非難されて、社会的な評判は地に堕ちて今後の認定理術師としての活動に支障をきたすことになる。
他者の介入を許せば非常に厄介で面倒なことになるので、この件はプライベートな事として内々で片付けるしかない。
「自称両親」はこちらがそのように対応することを予想し、捕まる可能性が低いことも計算して来ているのかもしれない。
厄介事を避けるなら、会わずに追い返すという選択肢もある。
心情的には会いたくない。
事前に一切の連絡もせずに不意打ちみたいにいきなり相手の職場にお仕掛けてくる非常識な相手が本物の両親でも偽物でも面倒事しか想像できない。
常識のある人が両親として訪ねてきたなら真偽は不明でも会ってみたいと思ったかもしれないが、非常識な人間とは関わりたくない。
それでも心情を優先して逃げることはできない。
相手が本物か偽物かに関わらず、相手の目的を探らなければならない。
会って話をしてみないことには相手が何を企んでいるのか分からない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、ではないけど、会わずに無視して放置することは危険だ。
まずは訪問客に会って相手の訪問の目的を探ろう。
「自称両親」が自称か自称ではないかという判断は後回しだ。
科学的に血縁関係を証明できないこの世界で実の両親かどうかの判断は相手を信じるか信じないか、相手を信じられるか信じられないかという問題になる。
物証がなくても相手の「実の親」と言う言葉を素直に受け入れることができるほど相手を信じることができるかどうかだ。しかし、それほどの信頼関係を一朝一夕で簡単に相手と築けるものではない。
また、相手が実の親だと疑うことができないほどの確固とした証拠を提示されれば信じたくなくても信じるしかない。しかし、この世界では科学的な証明はできないから、証拠を持ってきていたとしても、その証拠は科学的な根拠の無い状況証拠や証言などになる。そのような証拠の真偽の確認や判断はすぐその場で出来るものではない。
まずは初対面の認定理術師として会って話をして訪問客の目的を探ろう。
そう決心はしたが、心の中で「願わくば、こんな非常識で礼儀知らずな人達が実の両親ではありませんように」と祈ることを止めることはできなかった。
下手な先入観を抱いていては偏見によって事実を見落としたり、歪めたり、捏造してしまうかもしれない。
相手の思惑を正確に探るためにも、なるべく贔屓も偏見も持たずに公正に相手を見て、冷静に対処するように心掛けようと心に誓った。
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