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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに
3 宗教
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この一月はとても平和で平穏な日々だった。でもただ平和な日々を享受してのんびりと過ごしていただけではない。
この間にアヤタに頼んでいた自称両親連中とその背後の情報収集を進めてもらい、自称両親連中の背後関係が判明した。
最初は自称両親連中の背後にいる人間たちは無関係のばらばらな人間たちで共通点が見つけられなかった。そのため、なぜ私に接触して私を手中に収めようとしてるのか、私に何をさせようとしているのか全く彼らの目的が分からなくて調査は難航していた。
だが、私の共食い作戦で自称両親連中だけではなく、その背後の人間たちも派手に動き出し、その背後の人間たちのさらに上の存在にまで辿り着くことができた。
その上の存在が無関係に見えた背後の人間たちの共通点であり、今回の彼らの行動の理由だった。
自称両親連中の背後にいる人間たちは全員が同じ教団に所属して、同じ宗教を信仰していた。
真の黒幕はその宗教団体、「天涯教団」だった。
「……天涯教団?聞いたことがない団体だけど、何でそんなところが私を狙っているの?」
アヤタの報告でその教団が私を利用しようとして私の身柄を狙い、信者に何かしらの指示を出し、その信者が教団とは無関係の自称両親連中たちを私に差し向けたことは分かった。
自称両親連中は私とのやり取りの矢面に立たされて、何か問題が起きたら簡単に切り捨てることができる都合のいい駒でしかなかった。薄々そうかと思ってはいたが、その背後の人間も教団の都合の良い捨て駒だったようだ。
しかし、黒幕は分かったが動機が分からない。なぜ私なんかをその教団は狙うのか?
「まだ憶測の範疇ですが、ルリエラ理術師が狙われているのは教団の教義が関係しているみたいです」
アヤタは天涯教団の成り立ちと教義をざっくりと分かりやすく説明してくれた。
天涯教団はこの国の北部の山岳部に住む小さな村に細々と伝わる伝承や言い伝えのような人生の教訓とする物語が起源となっている。
その物語の中で「神様は高い空の向こうの更に上の天にいらっしゃる。この高い山の上で暮らしている我々は最も神様に近い場所で生きている特別な人間だ。だから、神様に恥じない立派な行いをして、立派な人間にならなければいけない」という教訓のような教え説いている。
その教えを胸に抱いて、高い山の上で不便で貧しくて危険な暮らしをしている小さな村があった。
その村人たちはずっと自分たちは最も神様に近い場所で暮らしているということを誇りにして厳しい生活に耐えていた。
標高が高い山の上では植物は育たず農業はできない。険しい山でヤギなどの家畜を放牧して飼い、その乳や肉や毛や皮を加工して野菜や穀物などの食べ物と交換する暮らしを細々としていた。
数十年前にその村に北部辺境伯が視察に訪れ、彼らの厳しい暮らしとそんな暮らしの中で培われてきた気高い人間性とその教えを知り、北部辺境伯は感銘を受けて、積極的に彼らの支援に乗り出した。
北部辺境伯は彼らの教えをいたく気に入り、その教えを山が多い自分の領地に拡めていった。
そこまでなら良い話で終わるのだが、彼らの教えを拡めていく過程で最初の教えが徐々に歪み紆余曲折の末にいろいろと捻じ曲がり変質していってしまう。
素朴で朴訥したストイックに己を厳しく律する教えから、神様に近づくための手段に変わっていき、貴族受けのする教義が作られていった。
そうして「生前になるべく天に近い所に住み、天に近い食べ物を食べていたら、死後に天界に行ける」という安易な考えのご都合主義の身勝手な教えを掲げる宗教へと変わり、天涯教団が生まれてしまった。
神様はこの空の彼方の天界にいる。この世界は下界であり、下界は穢れている。穢れが多いと死後に天界に行けない。穢れを少なくするために、地上よりもより高いところに住み、地上よりも高い場所になる食べ物を食べて身を清めなければならない。
具体的には、地上のより高い場所に実る果実や地上に生える麦などは穢れていない食べ物だから食べても良いと許可している。
空を飛ぶ鳥は最もこの世で穢れていないので、鳥を食べると穢れを払って身を清めてくれると推奨している。
しかし、地上よりもさらに低い水中は穢れが溜まっていて、魚介類は穢れており食べると穢れてしまうので食べることは禁止されている。
土の中にできるイモや根菜類も穢れているので食べてはいけない。
芋などの地中のものを餌として食べる豚も穢れているから食べてはいけない。牛は地上に生えている草の部分を食べるから穢れてはいないので食べてもよい。
住む場所は山の上などの緯度が高い場所は穢れが少ないからなるべく高い場所に住むことを勧め、それが無理ならなるべく高い建物の上階や山や丘などの高い場所にある別荘などで長期間過ごすことを推奨している。
逆に、海の近くは穢れていると貶めている。
その教えはまるで男尊女卑ならぬ北尊南卑、山尊海卑のようであり、海に接する南部の貴族や南部辺境伯に喧嘩を売っているとしか思えない内容だ。だから、南部では天涯教は全く信仰されていない。
しかし、北部や中央の貴族の一部には人気があるようで、信仰している人が一定数存在している。金さえあれば守れる教義で簡単に穢れを避けて身を清めて天界に行けるという教えが貴族に受けているらしい。
「天涯教団の成り立ちと教義は大体理解できたけど、それと私に何の関係があるの?」
その教団と私との関係性も関連性も思い浮かばない私は素直にアヤタに質問する。
「ルリエラ理術師本人というよりも、ルリエラ理術師の理術である飛行術が天涯教団に関係しているみたいです」
天涯教団は天と繋がる空を神聖視して重要視している。そこで空を飛べる私が目をつけられたということのようだ。
まだ天涯教団の思惑や目的ははっきりとは解明されておらず予測の範疇を出ないが、最悪このままだと「空を飛べるのは天の使いであり、天涯教団の巫女だ」と言ってくる可能性があるらしい。
私を自称両親連中を利用して家族として保護し確保して合法的に学園や世間から隔離する。そうした上で仕事や結婚などの何かしらの理由をつけて背後の信者に引き渡し、信者から教団へと捧げられる。そうして教団の内部に囲い込み教団のために飛行術で何かをさせるか、飛行術を教団が独占して布教などに利用する目的ではないかと推測はできるが、今のところはまだ調査中だ。
まだ確実な証拠や具体的な計画などが掴めていない状態なので、こちらからは教団相手には何もできない。抗議したり、こちらから手を出すことはできない。
私はアヤタに情報のお礼を伝えて、情報の対価を渡し、引き続き調査を依頼した。
アヤタはまだ不完全な情報なので対価はいらないと固辞したが、これだけの情報を集めるのにはそれなりに費用や労力がかかっているに決まっている。
情報収集のための必要経費であり、謝礼や報酬ではないからと言って何とか受け取らせた。
アヤタは困った表情を浮かべながらより一層情報収集に励むと言って部屋を出ていった。
アヤタが出ていき、部屋に一人になると、私は盛大に大きなため息を吐いた。
アヤタからの報告を聞いている間は感情を乱さないように冷静さを維持していたが、今は頭を抱えている。
「……最悪だ。黒幕が…、敵が宗教団体だなんて。単なる理術狙いやお金狙いなら良かったのに………」
こんな独り言をポロリと溢すほどに心が乱れている。
私は特に宗教に偏見は持っていない。
信仰は個人の自由でその人の好きにすればいい。
誰が何を信仰していても私は気にしない。
でも、それに他人を巻き込まないでほしい。
はっきり言って迷惑でしかない。
黒幕が判明したが、相手の目的が分からず不気味で仕方がない。
不安に駆られていてもたってもいられなくなる。
想像以上の大きくて厄介な相手に頭を抱えることしかできない。
とても嫌な予感がする。
漠然とした不安の中でなぜかそんな勘が働いた。
この間にアヤタに頼んでいた自称両親連中とその背後の情報収集を進めてもらい、自称両親連中の背後関係が判明した。
最初は自称両親連中の背後にいる人間たちは無関係のばらばらな人間たちで共通点が見つけられなかった。そのため、なぜ私に接触して私を手中に収めようとしてるのか、私に何をさせようとしているのか全く彼らの目的が分からなくて調査は難航していた。
だが、私の共食い作戦で自称両親連中だけではなく、その背後の人間たちも派手に動き出し、その背後の人間たちのさらに上の存在にまで辿り着くことができた。
その上の存在が無関係に見えた背後の人間たちの共通点であり、今回の彼らの行動の理由だった。
自称両親連中の背後にいる人間たちは全員が同じ教団に所属して、同じ宗教を信仰していた。
真の黒幕はその宗教団体、「天涯教団」だった。
「……天涯教団?聞いたことがない団体だけど、何でそんなところが私を狙っているの?」
アヤタの報告でその教団が私を利用しようとして私の身柄を狙い、信者に何かしらの指示を出し、その信者が教団とは無関係の自称両親連中たちを私に差し向けたことは分かった。
自称両親連中は私とのやり取りの矢面に立たされて、何か問題が起きたら簡単に切り捨てることができる都合のいい駒でしかなかった。薄々そうかと思ってはいたが、その背後の人間も教団の都合の良い捨て駒だったようだ。
しかし、黒幕は分かったが動機が分からない。なぜ私なんかをその教団は狙うのか?
「まだ憶測の範疇ですが、ルリエラ理術師が狙われているのは教団の教義が関係しているみたいです」
アヤタは天涯教団の成り立ちと教義をざっくりと分かりやすく説明してくれた。
天涯教団はこの国の北部の山岳部に住む小さな村に細々と伝わる伝承や言い伝えのような人生の教訓とする物語が起源となっている。
その物語の中で「神様は高い空の向こうの更に上の天にいらっしゃる。この高い山の上で暮らしている我々は最も神様に近い場所で生きている特別な人間だ。だから、神様に恥じない立派な行いをして、立派な人間にならなければいけない」という教訓のような教え説いている。
その教えを胸に抱いて、高い山の上で不便で貧しくて危険な暮らしをしている小さな村があった。
その村人たちはずっと自分たちは最も神様に近い場所で暮らしているということを誇りにして厳しい生活に耐えていた。
標高が高い山の上では植物は育たず農業はできない。険しい山でヤギなどの家畜を放牧して飼い、その乳や肉や毛や皮を加工して野菜や穀物などの食べ物と交換する暮らしを細々としていた。
数十年前にその村に北部辺境伯が視察に訪れ、彼らの厳しい暮らしとそんな暮らしの中で培われてきた気高い人間性とその教えを知り、北部辺境伯は感銘を受けて、積極的に彼らの支援に乗り出した。
北部辺境伯は彼らの教えをいたく気に入り、その教えを山が多い自分の領地に拡めていった。
そこまでなら良い話で終わるのだが、彼らの教えを拡めていく過程で最初の教えが徐々に歪み紆余曲折の末にいろいろと捻じ曲がり変質していってしまう。
素朴で朴訥したストイックに己を厳しく律する教えから、神様に近づくための手段に変わっていき、貴族受けのする教義が作られていった。
そうして「生前になるべく天に近い所に住み、天に近い食べ物を食べていたら、死後に天界に行ける」という安易な考えのご都合主義の身勝手な教えを掲げる宗教へと変わり、天涯教団が生まれてしまった。
神様はこの空の彼方の天界にいる。この世界は下界であり、下界は穢れている。穢れが多いと死後に天界に行けない。穢れを少なくするために、地上よりもより高いところに住み、地上よりも高い場所になる食べ物を食べて身を清めなければならない。
具体的には、地上のより高い場所に実る果実や地上に生える麦などは穢れていない食べ物だから食べても良いと許可している。
空を飛ぶ鳥は最もこの世で穢れていないので、鳥を食べると穢れを払って身を清めてくれると推奨している。
しかし、地上よりもさらに低い水中は穢れが溜まっていて、魚介類は穢れており食べると穢れてしまうので食べることは禁止されている。
土の中にできるイモや根菜類も穢れているので食べてはいけない。
芋などの地中のものを餌として食べる豚も穢れているから食べてはいけない。牛は地上に生えている草の部分を食べるから穢れてはいないので食べてもよい。
住む場所は山の上などの緯度が高い場所は穢れが少ないからなるべく高い場所に住むことを勧め、それが無理ならなるべく高い建物の上階や山や丘などの高い場所にある別荘などで長期間過ごすことを推奨している。
逆に、海の近くは穢れていると貶めている。
その教えはまるで男尊女卑ならぬ北尊南卑、山尊海卑のようであり、海に接する南部の貴族や南部辺境伯に喧嘩を売っているとしか思えない内容だ。だから、南部では天涯教は全く信仰されていない。
しかし、北部や中央の貴族の一部には人気があるようで、信仰している人が一定数存在している。金さえあれば守れる教義で簡単に穢れを避けて身を清めて天界に行けるという教えが貴族に受けているらしい。
「天涯教団の成り立ちと教義は大体理解できたけど、それと私に何の関係があるの?」
その教団と私との関係性も関連性も思い浮かばない私は素直にアヤタに質問する。
「ルリエラ理術師本人というよりも、ルリエラ理術師の理術である飛行術が天涯教団に関係しているみたいです」
天涯教団は天と繋がる空を神聖視して重要視している。そこで空を飛べる私が目をつけられたということのようだ。
まだ天涯教団の思惑や目的ははっきりとは解明されておらず予測の範疇を出ないが、最悪このままだと「空を飛べるのは天の使いであり、天涯教団の巫女だ」と言ってくる可能性があるらしい。
私を自称両親連中を利用して家族として保護し確保して合法的に学園や世間から隔離する。そうした上で仕事や結婚などの何かしらの理由をつけて背後の信者に引き渡し、信者から教団へと捧げられる。そうして教団の内部に囲い込み教団のために飛行術で何かをさせるか、飛行術を教団が独占して布教などに利用する目的ではないかと推測はできるが、今のところはまだ調査中だ。
まだ確実な証拠や具体的な計画などが掴めていない状態なので、こちらからは教団相手には何もできない。抗議したり、こちらから手を出すことはできない。
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アヤタはまだ不完全な情報なので対価はいらないと固辞したが、これだけの情報を集めるのにはそれなりに費用や労力がかかっているに決まっている。
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アヤタは困った表情を浮かべながらより一層情報収集に励むと言って部屋を出ていった。
アヤタが出ていき、部屋に一人になると、私は盛大に大きなため息を吐いた。
アヤタからの報告を聞いている間は感情を乱さないように冷静さを維持していたが、今は頭を抱えている。
「……最悪だ。黒幕が…、敵が宗教団体だなんて。単なる理術狙いやお金狙いなら良かったのに………」
こんな独り言をポロリと溢すほどに心が乱れている。
私は特に宗教に偏見は持っていない。
信仰は個人の自由でその人の好きにすればいい。
誰が何を信仰していても私は気にしない。
でも、それに他人を巻き込まないでほしい。
はっきり言って迷惑でしかない。
黒幕が判明したが、相手の目的が分からず不気味で仕方がない。
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