私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに

50 監禁⑤ 自己責任

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 マルグリットを落ち着かせて謝罪を止めることに成功した物置部屋には再び沈黙が降りた。

 マルグリットと話がしたいと思ってはいるのだが、私はまだマルグリットに掛ける言葉を見つけられていない。

 私が産みの親を敵だと認定して、排除することを決めたが、この状況では今すぐどうにかすることはできない。

 敵だからとやられたことをそのままやり返すことはできないし、そんなことをしてはいけない。
 基本的に暴力に暴力を返しても何の解決にもならない。
 殴られたり奪われたからと殴り返したり奪い返しても、また殴られるか、奪われるか、それ以上のことをされて事態が悪化するだけで自分の状況は改善しない。

 殴り返すことができたとしても、自分の溜飲が下がるだけで、根本的な解決にはならない。

 しかし、私はもう相手を許す気は無いし、やられっぱなしで引き下がる気も無い。

 必ずリース男爵夫妻には自分たちがしたことの報いを受けさせる。もう遠慮はしない。

 これまでは大事にしたら、リース男爵夫妻も自分も無傷では済まないと思って我慢していた。なんとか穏便に内々に済ませたいと、努力していた。

 個人的な問題として済まそうとしていたけど、それはもう無理だ。私が甘かった。

 産みの親を傷つけたくなかった。
 自分も傷つきたくなかった。

 でも、もう恐れない。逃げない。
 失うものは何も無い。

 リース男爵夫妻を必ず排除する。私の人生から完全に消し去る。
 二度と私の人生に現れることがないようにする。
 私の人生から抹殺する。決して私の生活の範囲内での存在を許さない。

 元々私の中にはリース男爵夫妻はいなかった。
 彼等の思い出も記憶も情も無い。私の中にリース男爵夫妻は存在していない。
 私の中にあったのは淡く儚い実の親への幻想だけだった。それはリース男爵夫妻が存在していない私の妄想のような都合のいい夢でしかなかった。

 だから、私の中からリース男爵夫妻という人間を消し去ることはそれほど難しくは無い。

 元々そんな人間は私の中にはいなかったのだから、元に戻るだけ。元の私の平和で平穏な幸せで充実した日々に帰る。

 リース男爵夫妻を私の周囲から物理的に排除して私の人生から抹殺して、私の心から抹消して、私の平和な日々を取り戻す。

 私はこれまで産みの親を自分の中から消すことを躊躇っていた。そんな薄情な冷たい人間になりたくないと産みの親に拘っていた。

 しかし、私の中から彼等への期待が完全に消えると嘘のように彼等のことがどうでもよく思えてくる。

 期待が無くなると、リース男爵夫妻への興味関心が一切消えた。

 もう自分とは無関係な人間であり、その人たちがどうなろうと何も感じない。

 寧ろ、産みの親だからと強引に私に関わろうとしてくる彼等にただ煩わしいとしか感じない。

 だから、もう躊躇はしない。迷いはない。遠慮はない。罪悪感も無い。
 やらなければならない。
 逃げてはいけない。

 私は彼等に殴るよりももっと酷いことをする。
 彼等を殺す。消し去る。排除する。私の目の前からも心からも社会的にも完全に。

 私はここから脱出してリース男爵夫妻とその仲間達の行為を公にして罪を問う。そして、法律上の犯罪行為として法的に裁いてもらい罪を償ってもらう。

 誘拐された当初は大事にしたくなくてなんとか穏便に済ませられないかと考えていた。
 家族内のことを他人に知られたり、他人に迷惑を掛けることを恥ずかしいと感じていた。
 自分が学園に無事に戻れば何の問題にもならない、誰にも迷惑を掛けない、心配させないと楽観視していた。

 だから、ここから脱出しても他人に助けを求めることを避けていた。自力で何とかしようと考えていた。

 でも、決心した。

 私はここから脱出して、この町の人間に「南部辺境伯の養女」として保護を求める。
 養女ではあるが貴族の娘の誘拐事件だからきっと大事になるだろう。

 私は正攻法で彼等の罪を暴いて、真正面から罪を問う。

 泣き寝入りはしない。
 相手と同じこともしない。
 殴られたからといって殴り返したりはしない。私的制裁はしない。個人的な復讐はしない。

 どんな理由があろうとも、他人を傷つけても良い理由にはならない。
 他人を傷つける目的で他人を傷つけることはどんな理由があっても正当化されない。

 自分の行いは全て自分に返ってくる。

 だから、私は彼等にそれを返す。
 自分がやってきたことの報いを受けさせる。法と社会的に。

 彼らに対する期待は完全に失われた。
 だから、もう遠慮はしない。情けはかけない。容赦はしない。

 彼らが私にやったことに相応しいそれ相応の法的な処罰と社会的な制裁を受けてもらう。

 南部辺境伯家の養女に対する誘拐監禁暴行等の罪を国に訴えて国に裁いてもらう。

 私的な制裁ではないから、そこには一切の配慮も考慮も介在しない。私情を挟むことはできない。
 本当に彼らに相応しい罪が問われ、罰を受けることになるだろう。

 もう黙ってはいない。我慢なんてしてやらない。大暴れしてやる。

 奴らは敵だ。

 私から奪うだけの敵。

 私はリース男爵夫妻を私の人生から完全に徹底的に排除する。

 一切の情け容赦をかけない。心を鬼にして、彼らを地獄に落とす。

 でも、それにマルグリットまで巻き込みたくはない。

 私としてはマルグリットをリース男爵夫妻から切り離したい。マルグリットにはリース男爵家から離脱してほしい。

 マルグリットがリース男爵夫妻と離れたくはない、一蓮托生でずっと一緒に居たいと言うならそれは仕方が無い。

 私のように血の繋がりがある親に対して一切の情を持たない人間もいれば、血の繋がりのない育ての親に情を抱いて捨てられない人もいる。
 私は本人の意思を尊重する。

 しかし、マルグリットに遠慮してリース男爵夫妻に対する制裁の手を緩めることはしない。

 マルグリットよりも私は自分が大事だから自分を優先する。

 マルグリットがリース男爵夫妻に無理矢理従わされているだけなら、私は可能な限りマルグリットを助けたい。

 しかし、マルグリットと家族になろうとは思わない。マルグリットのことを義妹とまでは思えない。
 そこまでの面倒を見ようとも、責任を負う気もない。

 マルグリットが一人でも生活できるように、職を紹介するくらいだ。

 後は一人で自由に生きてもらう。
 それ以後はマルグリットと関わる気は無い。

 冷たいかもしれないが、これまで一度も会ったこともない初対面の人間相手には破格の対応だと思う。

 これはマルグリットのためではなく、私のためだ。
 私はマルグリットの境遇に同情しているし罪悪感も抱いている。私の罪悪感を少しでも減らし、偽善によって自己満足したいだけだ。

 マルグリットが望んで今の状況に甘んじて、そのまま巻き込まれるのなら、それはもうマルグリット本人の責任だ。マルグリットの自己責任ということで私はそれ以上は何もしない。

 はっきり言って今の自分にマルグリットにかける余裕はそれほどない。

 マルグリットに私かリース男爵夫妻のどちらかを選んでもらおう。

 私を選び、私の脱出を助けて、この誘拐監禁事件の関係者ではあるが被害者を助けたことによる情状酌量によって無罪放免とされて、リース男爵家とは関わらずに生きていく未来。
 リース男爵夫妻を選び、私が一人で脱出した後、この誘拐監禁事件の共犯者として一緒に捕まりリース男爵家の人間として一緒に罪を背負って償いながら生きていく未来。

 マルグリットがリース男爵夫妻との未来を選ぶなら私はマルグリットを諦める。もう同情しない。罪悪感も捨てる。

 マルグリットへの自分の気持ちと方針を明確にしたことで、私はやっとマルグリットに掛ける言葉を見つけることができた。





 
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