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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに
68 罪④ 激怒
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「……あ、あたしは知らない⁉何も知らなかったの!──そ、そうよ!!あたし達は騙されていただけなの!あの子があたし達の子どもだと嘘をいったのよ!!」
「──そ、そうだ!!僕たちは被害者なんだ!誘拐されて行方不明になった我が子に会いたいという僕たちの気持ちを利用されただけなんだ!?だから、彼女は僕たちに南部辺境伯の養女だと言わなかったんだ。何も言わずに黙って僕たちを騙していたんだ!!」
リース男爵夫妻は私を自分たちの子どもだと言い張って罪から逃れることを諦める代わりに、私に罪をなすりつけて自分たちが被害者だと言い出した。
私はそんな二人の様子に呆れ果ててもう何も考えられない。
そんな呆れているだけの私とは対照的に、これまで感情を表に出さなかったジュリアーナが顔から微笑みを消し、初めて怒りを露にしてリース男爵夫妻を睨みつけて声を荒げた。
「──いい加減にしなさい!自分たちの罪を認めないどころか罪から逃れるために罪の無い人間に罪を被せるようなことをするなんて余りにも見苦しい!!誘拐して監禁するだけでは飽き足らず罪までなすりつけて、一体どこまであの子を苦しめるつもりなの⁉恥を知りなさい!!!」
ジュリアーナのあまりの剣幕に圧倒されたリース男爵夫妻は静かになった。
静寂の中でジュリアーナは一呼吸おいて落ち着きを取り戻し、怒りを内に抑え込んでリース男爵夫妻へ冷たく言い放つ。
「あなた達が何を言っても無駄よ。学園であなた達がルリエラ理術師の親だと言って無理矢理押しかけて来たことは既に学園で周知の事実となっているわ。今さらあなた達の言葉を信じる人なんてどこにもいない。これ以上の無駄な足掻きは止めなさい」
そんな最後通告とでも取れるジュリアーナの言葉はリース男爵夫妻には届かなかったようだ。
「──あんたがあたし達に向かって偉そうなことを言わないでよ!何様のつもりなの?!あんたは婚約者に捨てられて、家の恥だからと国外に追い出されて、結婚しても子どもができなかったから戻ってきた出戻りのくせに!!子どもを産めなかった女にあたし達の何が分かるのよ!?石女の女失格のあんたなんかに分かったようなことを言われる筋合いは無いわ!!」
「……そうか!?分かったぞ!!これは全部君が仕組んだことだったんだな、ジュリアーナ!僕に捨てられたことを恨み、僕たちの幸せを妬み、自分の不幸を呪って僕たちを嵌めたんだな?!確かに君を捨てたことは悪かったと思うが、しかし、これはやり過ぎだろう?復讐なんて馬鹿なことはどうか止めてくれ!」
追い詰められたリース男爵夫妻は何をトチ狂ったのか、逆上してジュリアーナを侮辱し始めた。
ジュリアーナはそれを無表情でやり過ごしているが、私の方が我慢できなかった。
「──ふざけるな!!往生際が悪いのもいい加減にしろ!!私のことは兎も角、ジュリアーナは関係無いだろう!?お前達が罪から逃れようとすることはどうでもいいが、それにジュリアーナを巻き込むな!」
私は死角から飛び出てジュリアーナを庇うようにジュリアーナの前に立った。
ジュリアーナもリース男爵夫妻も突然の私の登場に呆気に取られて呆然と私を見つめている。
リース男爵夫妻がどれだけ私を侮辱しても、暴言を吐かれても、責任転嫁をされても黙って耐えて流すことができた。
すでに私の中でリース男爵夫妻への期待は消滅している。だから、二人の失礼な言動には単純に腹を立てるだけで傷は付かないし痛くも痒くも無かった。
でも、それがジュリアーナにまで及ぶと我慢ができなかった。
自分を傷付けようとする酷い言葉には傷付かないのに、ジュリアーナを傷付けるような言葉に私は黙って聞き流すことができなかった。
その言葉に私自身に傷は付かないが、ジュリアーナが傷つけられている、ジュリアーナが傷付くかもしれないと思うと居ても立っても居られなかった。
私は単純にジュリアーナを傷付けようとする人間の存在が許せなかった。
自分のことは棚に上げて、「ジュリアーナを傷付けようとする人は絶対に許さない」という衝動のままに後先考えずに私はリース男爵夫妻と対峙した。
しかし、そんな敵意を向けている私を見て、なぜかリース男爵夫妻は笑顔を浮かべて嬉しそうに私に話しかけてくる。
「マルグリット、来てくれたのね!!あたし達はあなたの産みの親なのよ!それなのにこの人たちが何か勘違いしているみたいなの!?マルグリットから説明してちょうだい!!」
「マルグリット、遅いぞ!今までどこで何をしていたんだ?!親がお前のせいで捕まっているんだぞ!早く助けないか!?」
「──!?」
あまりにも頓珍漢なことを言われて言葉を失った。
私以外の周囲の人達もそんなリース男爵夫妻にドン引きしてものすごく微妙な空気が流れている。
リース男爵夫妻の言っていることは支離滅裂だ。
頭は大丈夫なのだろうか?
この人達は完全に精神異常者なのかもしれない。
自分の子どもでもない人間を思い込みと勘違いで誘拐して監禁する妄想癖と暴走癖のある人達。
自分達の罪から逃れるためだけに他人に罪をなすりつける虚言癖のある人達。
それだけでなく、自分達の発言や行動を都合よく忘れてしまう物忘れの激しい人達。
なぜ私が助けに来たと思えるのか?
なぜ私に助けてもらえると信じられるのか?
なぜ「騙されていて自分達の子どもではない」と言った舌の根も乾かぬ内に私を我が子と呼べるのか?
今まで自分達が私に何をしてきたのか覚えていないのか?
いろいろと突っ込みたいことは沢山あるが、真面目に相手するだけこちらが損をする相手だ。
私は二人へ敵意をぶつけならがら自分が言うべきことだけを言う。
「……なぜ私があなた達を助けるのですか?私はあなた達を助けません。今の状況はあなた達のこれまでの行いの結果で他人がどうにかできるものではありません。あなた達の罪はあなた達のものです。ご自身で己の罪を償ってください」
リース男爵夫妻は私の言葉に驚いて信じられないものを見るかのように私を見ている。
リース男爵夫妻は私が助けてくれると信じて一切疑っていなかったようだ。
リース男爵夫妻はまるで大切な人に裏切られたかのように傷付いた表情を浮かべている。
そんなリース男爵夫妻を見て、私はこれ以上ジュリアーナが二人に傷付けられるようなことが起こらないことに安堵した。
私はこれまでリース男爵夫妻を完全に突き放すことができずにいたが、いざ突き放してみると私が感じたことはジュリアーナのことだけだった。
傷付いたリース男爵夫妻を見ても罪悪感も優越感も何も感じない。本当に私の中にリース男爵夫妻はいなくなったのだと実感できたが、あまりにも呆気無さ過ぎて虚しさがこみ上げてきそうになった。
しかし、虚しさよりも清々しさのほうが上回る。
私はやっとリース男爵夫妻という呪いから解放されたのだと実感できた。
「──そ、そうだ!!僕たちは被害者なんだ!誘拐されて行方不明になった我が子に会いたいという僕たちの気持ちを利用されただけなんだ!?だから、彼女は僕たちに南部辺境伯の養女だと言わなかったんだ。何も言わずに黙って僕たちを騙していたんだ!!」
リース男爵夫妻は私を自分たちの子どもだと言い張って罪から逃れることを諦める代わりに、私に罪をなすりつけて自分たちが被害者だと言い出した。
私はそんな二人の様子に呆れ果ててもう何も考えられない。
そんな呆れているだけの私とは対照的に、これまで感情を表に出さなかったジュリアーナが顔から微笑みを消し、初めて怒りを露にしてリース男爵夫妻を睨みつけて声を荒げた。
「──いい加減にしなさい!自分たちの罪を認めないどころか罪から逃れるために罪の無い人間に罪を被せるようなことをするなんて余りにも見苦しい!!誘拐して監禁するだけでは飽き足らず罪までなすりつけて、一体どこまであの子を苦しめるつもりなの⁉恥を知りなさい!!!」
ジュリアーナのあまりの剣幕に圧倒されたリース男爵夫妻は静かになった。
静寂の中でジュリアーナは一呼吸おいて落ち着きを取り戻し、怒りを内に抑え込んでリース男爵夫妻へ冷たく言い放つ。
「あなた達が何を言っても無駄よ。学園であなた達がルリエラ理術師の親だと言って無理矢理押しかけて来たことは既に学園で周知の事実となっているわ。今さらあなた達の言葉を信じる人なんてどこにもいない。これ以上の無駄な足掻きは止めなさい」
そんな最後通告とでも取れるジュリアーナの言葉はリース男爵夫妻には届かなかったようだ。
「──あんたがあたし達に向かって偉そうなことを言わないでよ!何様のつもりなの?!あんたは婚約者に捨てられて、家の恥だからと国外に追い出されて、結婚しても子どもができなかったから戻ってきた出戻りのくせに!!子どもを産めなかった女にあたし達の何が分かるのよ!?石女の女失格のあんたなんかに分かったようなことを言われる筋合いは無いわ!!」
「……そうか!?分かったぞ!!これは全部君が仕組んだことだったんだな、ジュリアーナ!僕に捨てられたことを恨み、僕たちの幸せを妬み、自分の不幸を呪って僕たちを嵌めたんだな?!確かに君を捨てたことは悪かったと思うが、しかし、これはやり過ぎだろう?復讐なんて馬鹿なことはどうか止めてくれ!」
追い詰められたリース男爵夫妻は何をトチ狂ったのか、逆上してジュリアーナを侮辱し始めた。
ジュリアーナはそれを無表情でやり過ごしているが、私の方が我慢できなかった。
「──ふざけるな!!往生際が悪いのもいい加減にしろ!!私のことは兎も角、ジュリアーナは関係無いだろう!?お前達が罪から逃れようとすることはどうでもいいが、それにジュリアーナを巻き込むな!」
私は死角から飛び出てジュリアーナを庇うようにジュリアーナの前に立った。
ジュリアーナもリース男爵夫妻も突然の私の登場に呆気に取られて呆然と私を見つめている。
リース男爵夫妻がどれだけ私を侮辱しても、暴言を吐かれても、責任転嫁をされても黙って耐えて流すことができた。
すでに私の中でリース男爵夫妻への期待は消滅している。だから、二人の失礼な言動には単純に腹を立てるだけで傷は付かないし痛くも痒くも無かった。
でも、それがジュリアーナにまで及ぶと我慢ができなかった。
自分を傷付けようとする酷い言葉には傷付かないのに、ジュリアーナを傷付けるような言葉に私は黙って聞き流すことができなかった。
その言葉に私自身に傷は付かないが、ジュリアーナが傷つけられている、ジュリアーナが傷付くかもしれないと思うと居ても立っても居られなかった。
私は単純にジュリアーナを傷付けようとする人間の存在が許せなかった。
自分のことは棚に上げて、「ジュリアーナを傷付けようとする人は絶対に許さない」という衝動のままに後先考えずに私はリース男爵夫妻と対峙した。
しかし、そんな敵意を向けている私を見て、なぜかリース男爵夫妻は笑顔を浮かべて嬉しそうに私に話しかけてくる。
「マルグリット、来てくれたのね!!あたし達はあなたの産みの親なのよ!それなのにこの人たちが何か勘違いしているみたいなの!?マルグリットから説明してちょうだい!!」
「マルグリット、遅いぞ!今までどこで何をしていたんだ?!親がお前のせいで捕まっているんだぞ!早く助けないか!?」
「──!?」
あまりにも頓珍漢なことを言われて言葉を失った。
私以外の周囲の人達もそんなリース男爵夫妻にドン引きしてものすごく微妙な空気が流れている。
リース男爵夫妻の言っていることは支離滅裂だ。
頭は大丈夫なのだろうか?
この人達は完全に精神異常者なのかもしれない。
自分の子どもでもない人間を思い込みと勘違いで誘拐して監禁する妄想癖と暴走癖のある人達。
自分達の罪から逃れるためだけに他人に罪をなすりつける虚言癖のある人達。
それだけでなく、自分達の発言や行動を都合よく忘れてしまう物忘れの激しい人達。
なぜ私が助けに来たと思えるのか?
なぜ私に助けてもらえると信じられるのか?
なぜ「騙されていて自分達の子どもではない」と言った舌の根も乾かぬ内に私を我が子と呼べるのか?
今まで自分達が私に何をしてきたのか覚えていないのか?
いろいろと突っ込みたいことは沢山あるが、真面目に相手するだけこちらが損をする相手だ。
私は二人へ敵意をぶつけならがら自分が言うべきことだけを言う。
「……なぜ私があなた達を助けるのですか?私はあなた達を助けません。今の状況はあなた達のこれまでの行いの結果で他人がどうにかできるものではありません。あなた達の罪はあなた達のものです。ご自身で己の罪を償ってください」
リース男爵夫妻は私の言葉に驚いて信じられないものを見るかのように私を見ている。
リース男爵夫妻は私が助けてくれると信じて一切疑っていなかったようだ。
リース男爵夫妻はまるで大切な人に裏切られたかのように傷付いた表情を浮かべている。
そんなリース男爵夫妻を見て、私はこれ以上ジュリアーナが二人に傷付けられるようなことが起こらないことに安堵した。
私はこれまでリース男爵夫妻を完全に突き放すことができずにいたが、いざ突き放してみると私が感じたことはジュリアーナのことだけだった。
傷付いたリース男爵夫妻を見ても罪悪感も優越感も何も感じない。本当に私の中にリース男爵夫妻はいなくなったのだと実感できたが、あまりにも呆気無さ過ぎて虚しさがこみ上げてきそうになった。
しかし、虚しさよりも清々しさのほうが上回る。
私はやっとリース男爵夫妻という呪いから解放されたのだと実感できた。
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