私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

文字の大きさ
231 / 261
第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに

70 汚い言葉

しおりを挟む
 完全にブチ切れてしまった私は感情のままに低い声で呟いた。

 「──黙れ、このバカ女とクズ男!!」

 私の低い声は思っていた以上に部屋全体に響いた。
 部屋の中にいる人間は全員が私の言葉に驚いて私を凝視している。

 そんなみんなの視線を一身に受けながらも私はそのまま目を見開いて私を見つめているブリジットと視線を合わせ、感情のままに言葉を吐き出した。

 「──おい、勘違いと妄想と思い込みばかりの嘘つきバカ女!!ジュリアーナが貴女のような頭が空っぽなバカ女を羨むわけがないだろう?!容姿も知性も品性も人間性も何もかも全て貴女よりもジュリアーナの方が上回っている。これは私の主観ではなく客観的に百人いたら百人ともそう判断する。現にジュリアーナは国を跨ぐ大商会の商会長として大活躍しているから!貴女よりもよっぽど裕福で豊かで充実した生活を送っている。自分よりも優る点が一つも無い相手を羨んだり妬んだりする人はいない。勝手に被害妄想を膨らませるな!
 それに、ジュリアーナは父親に見捨てられてはいない。国内にジュリアーナに相応しい相手がいなかったからわざわざ外国に嫁に出しただけだから!ジュリアーナは父親に愛されて大切にされている!!私は養父である南部辺境伯本人からそう聞いた。何も知らないくせに勝手に適当なことを言うな!!
 あと、自分が出産したことで出産していないジュリアーナに対して変な優越感を抱いているみたいだけど、正常な子宮があって正常な精器を持っている相手とやることやっていたら妊娠出産するのは生き物として普通のことで自慢することではない。妊娠出産は生物としての単なる営みの一環であり、犬や猫だって普通にやっていることだ。本人の意思や努力は関係がないただのその生き物の身体に備わっている肉体機能の働きの結果だ。だから、妊娠出産はわざわざ他人と比べて優劣を付けることではない!貴女がやったことは怪我や病気で苦しんでいる人を相手に自分が健康であることを自慢したようなものだ!それはやった人間の人間性を疑う最低な行為でしかない。貴女はただ自分の教養と知性と品性が無いことを証明しただけでジュリアーナに勝ったわけではないから!何一つ勝っても優ってもいないのに一人で都合よく勘違いして勝手に自惚れるな!!」

 息継ぎ無しで一気にブリジットへそう言い放つと、私は一度息を吸って今度はマルコシアスへと顔を向ける。
 マルコシアスは呆気にとられた表情を浮かべているが、私はそれを無視してマルコシアスへ狙いを定める。

 「───そして、無責任で無能で怠惰なクズ男!!誰が『ジュリアーナを捨てた』だと?!事実を自分に都合よく勝手に自己解釈して変換するな!貴方は『捨てた』のではなく『逃げた』だけだ!!貴方とジュリアーナでは全く釣り合わない。貴方にジュリアーナは勿体ない。貴方はジュリアーナに人としての器も格も能力も何もかもが劣っている。だから、ジュリアーナの隣にいるには多大なる努力が必要だったはずだ。それなのに貴方はジュリアーナと釣り合うための努力をするのが嫌で、何もしなくても釣り合うそのバカ女に逃げただけだ。無責任で身勝手で努力すらできないクズ男のくせに自分の方がジュリアーナを『捨てた』だなんて烏滸がましいにも程がある!!ジュリアーナはお前なんかに捨てられてなどいない!お前がジュリアーナに相応しくなかっただけだ!!事実を自分に都合よくねじ曲げてジュリアーナを貶めるな、このクズ男!!!!」

 再び一息で一気に怒鳴るように言い放ったので、完全に酸素不足に陥り、私は肩でゼーゼーと息をした。

 私の容赦ない罵詈雑言の嵐に完全に部屋の中の空気は凍りついてしまっている。

 気付けば心の中でずっと吐き続けていた汚い言葉でリース男爵夫妻を罵っていた。

 頭に酸素が行き渡ってくると、全て吐き出してすっきりした頭から上った血も引いてやっと正気が戻ってくる。
 そして、私が正気に戻って最初に頭に浮かんだことは「シスターマリナに申し訳ない」だった。

 シスターマリナはとても躾に厳しかった。
 特に言葉遣いに関してはこちらがトラウマを抱えるほど厳しく教育された。

 「汚い言葉はその言葉を使うあなた自身を穢してしまいます。だから、決して汚い言葉を使ってはいけませんよ。
 誰かと喧嘩して頭に血が上り冷静さを失って汚い言葉で相手を攻撃してしまうこともあるかもしれません。嫌いな相手への強い負の感情で相手への悪口や非難を感情的になって汚い言葉で口走ることもあるかもしれません。
 でも、相手を傷つけようとして汚い言葉で相手を罵れば、そんなことをした自分自身に傷がつきます。相手を貶めようとして汚い言葉で相手を嘲れば、そんなことをした自分自身を貶めることになります。
 汚い言葉は使うあなた自身を穢して傷つけ貶めるものです。だから、決して汚い言葉を使ってはいけません。分かりましたね?」

 そう諭されて私は「分かりました」と頷いた。

 『喧嘩をしてはいけない』『悪口を言ってはいけない』と言われても素直に受け入れることはできなかっただろう。
 誰とも衝突せず、誰にも悪い感情を抱かずに他人と関わることは私には不可能だ。自分はそんな聖人君子ではない。
 
 でも、シスターマリナは汚い言葉を使うことだけを禁止した。
 それなら自分でも頑張ればできると思えた。

 確かに、汚い言葉を使っている人間は人としての品が無い。
 自分の品性や知性や教養や語彙力が低いとひけらかしているようなものだ。

 それにシスターマリナは汚い言葉を使われた側ではなく、使った側の人の心配をしてくれた。

 汚い言葉を使っても自分が不利益を被るだけだから使ってはいけないと教えてくれた。

 自分のためにわざわざ教え諭してくれているのだから、無理に反発する必要も無い。
 だから、シスターマリナの言葉を素直に受け入れることができた。

 それでもやはり感情的になれば汚い言葉遣いをしてしまうこともあった。そのたびに何度も何度も悲しそうに叱られ、教え諭された。

 今シスターマリナの教えを破って汚い言葉を使ってしまったことに対してだけは後悔している。
 私のために注いでくれたシスターマリナの時間や労力を無駄にさせてしまった。
 私が汚い言葉を使って自分を傷つけ貶めてしまったことでシスターマリナを悲しませてしまうことが悲しい。

 しかし、リース男爵夫妻に対しては何も思わない。寧ろ、彼らのせいで私がシスターマリナの教えを破ることになったと怒りすら覚える。

 私はかなり我慢していた。
 どれだけリース男爵夫妻が非常識で礼儀知らずで理解不能で意味不明なことをしてきても私はできる限り丁寧に礼儀正しく接していたと思う。
 
 そんな私の努力を無視して踏み躙り続け、遂に私の大事な人まで侮辱して、私に我慢の限界を突破させた。

 私の汚い言葉による侮辱と非難を浴びることになったのはリース男爵夫妻の自業自得だ。

 私にはそうとしか思えないので、この暴言に対してリース男爵夫妻へ謝罪する気は一切無い。

 そんな冷めた視線を私の暴言に傷付いたのか黙って俯いているリース男爵夫妻へ注ぎながら2人の反応を待った。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ウォーキング・オブ・ザ・ヒーロー!ウォークゲーマーの僕は今日もゲーム(スキル)の為に異世界を歩く

まったりー
ファンタジー
主人公はウォークゲームを楽しむ高校生、ある時学校の教室で異世界召喚され、クラス全員が異世界に行ってしまいます。 国王様が魔王を倒してくれと頼んできてステータスを確認しますが、主人公はウォーク人という良く分からない職業で、スキルもウォークスキルと記され国王は分からず、いらないと判定します、何が出来るのかと聞かれた主人公は、ポイントで交換できるアイテムを出そうとしますが、交換しようとしたのがパンだった為、またまた要らないと言われてしまい、今度は城からも追い出されます。 主人公は気にせず、ウォークスキルをゲームと同列だと考え異世界で旅をします。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...