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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに
100 出発(完)
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お父さんは事件の犯人達の末路について説明が終わった後、私に頭を下げてたくさん謝ってくれた。
「北部辺境伯領と天涯教団の問題に巻き込んでしまってすまなかった」
「リース男爵夫妻から守れなくてすまなかった」
「誘拐を事前に防ぐことができなくてすまなかった」
「救出が遅くなってすまなかった」
「事件の収束に時間がかかってすまなかった」
ほかにもたくさん謝られたけど、お父さんが私に謝らなければいけないことではない。お父さんに非がないことばかりだ。
謝るお父さんに私は同じように頭を下げて感謝と謝罪を伝えた。
「私を救出してくれてありがとうございました」
「わざわざ私に事件の詳細を説明してくれてありがとうございます」
「私のために学園へ寄付をしてくれてありがとうございます」
「私を守ってくれてありがとうございます」
「私の方こそご迷惑とご面倒をお掛けして申し訳ありません」
私とお父さんの謝罪と感謝の応酬による合戦状態になってしまった。
互いに引っ込みがつかなくなっていたところにジュリアーナが割って入って場を収めてくれてやっと合戦が終結した。
そのままジュリアーナの屋敷に泊まり、翌日お父さんが領地へ帰るのを見送ってから私も学園へ戻り日常へと帰った。
それから一年が過ぎた。
私を悩ませていた雑事が解消された結果、私は空を飛ぶ理術の開発に没頭することができた。
そのおかげで本日は長距離飛行の実験を行えるまでになった。
やっと私は自分への誓いを果たすことができる。
私は自分自身に誓っていた。
育ての親であるシスターマリナに胸を張れる生き方をしよう。この人の信頼を裏切らない生き方をしよう。この人を失望させるようなことは絶対にしない。私を自信をもって誇ってもらえるような人になろう。そしていつか必ず胸を張って笑顔で再会しよう。
その誓いの通りにシスターマリナに再会することができる。
今日は私が育った孤児院がある領地の領都へ向けて出発する。
事前に領主へ話を通して、向こうで一泊する予定になっている。
途中の休憩場所にライラとアヤタはすでに待機しているためここにはいない。
私を見送るのはジュリアーナとアジュール商会の仲間と学園の生徒や先生などの大勢の見物客たちだ。
私は改良した橇型の飛行具である空橇へ乗り込み、太陽が完全に昇るのを待っている。
真っ暗な夜に空を飛んで移動するのは自殺行為でしかない。だから、陽がある明るい時間帯にしか飛行はできない。そのため、夜明けとともに出発する。
学園都市の門は東向きで、真正面の空の闇が徐々に薄れ始めている。
この学園都市の門の外に建物は無いため、この出発地点からは視界を遮るものが無く、空がよく見える。
私が飛行具の上で空を眺めているとやっと太陽が地上にはっきりと姿を現し、薄闇の世界が徐々に赤みを帯び始めた。
空が重い藍色から、薄い紅色へ、そして、赤と青が混ざり合い、ゆっくりと、でも確実に空が本来の色を思い出したかのように澄んだ青空へと変わっていく。
私はその空の移り変わりを何も考えずにただ静かに眺めていた。そして、空が完全に澄んだ青空になった。
私はおもむろに空を見上げる。
前世の彼女が見ていた空と同じ雲一つ無い青空が広がっている。
私は夢を諦めなかった。
そして夢を叶えつつある。
私がここまで来れたのは自分だけの力ではない。ジュリアーナやお父さんやライラやアヤタや他にも大勢の人達のおかげだ。
その中に前世の彼女もいる。
彼女の記憶が私を支えてくれた。
彼女が私に何かを語りかけてくれたわけでも、手助けしてくれたわけでもない。
それでも彼女は私の最強の守護者だった。
彼女の記憶は私の一部だから忘れようとしても忘れることなど出来はしない。
時と共に薄れてはいっても、私の中から消え去ることは無い。
彼女の両親に愛された記憶が産みの親から私を守ってくれた。私を強くしてくれた。私に自信をくれた。勇気をくれた。
だから、私は自分を貫き通すことができた。屈することがなかった。産みの親を拒絶できた。否定できた。抗うことができた。
ジュリアーナとお父さんを信じることができた。頼ることができた。打ち解けることができた。
彼女は変わらない。
彼女のあの青空への強い憧憬は変わらない。
彼女には空を自由に飛ぶ以上の強い欲求はない。
空を自由に飛ぶ以外に彼女の心が満たされることはない。
彼女が恋い焦がれるものは青空だけ。彼女が求めるものは空を飛ぶことだけ。彼女の願いは自由だけ。
その純粋な想いが私の夢と誓いを支え続けてくれた。
私は他の何よりも空を飛ぶことを選んだ。空を飛ぶことを諦めたくなかったから。
それなら、どれだけ多くのものを背負って重くなろうとも、それごと飛べるようになるしかないと覚悟していた。
きっとこれから先も私の背負う荷物は減ることはなく、増える一方だから重くて潰されないように強くなるしかないと決意を固めていた。
でも、今は違う。
その覚悟と決意は私の思い込みで考え過ぎだった。
何もかも自分が背負うなんて自分の力を過信していた。あまりにも傲慢だった。
私は数え切れないほどの多くの人に支えられている。一緒に背負ってくれる人がいる。私という負担を背負ってくれる人もいる。
私一人ではない。一人で何もかもを背負って潰れないように強くなる必要はなかった。
趣味で好き勝手に自由に空は飛べなくなったけど、それ以上に大切なものがたくさん出来た。
自由は孤独とセットだから、空を飛べるなら私は一人でも良かった。
でも、一人では無理だった。たくさんの助けがあって私は飛べていた。それを知った以上もう好き勝手出来ない。もう一人ぼっちで好き勝手に飛んでいる場合ではない。
色々なものに縛られるけど、それは私を守ってくれる。私の自由を奪うだけではない。私を救ってくれる、もっと強くしてくれる。
私は目的を持って空を飛ぶ。大切な人達のために。
私はただ自由に空を飛びたいだけだった。大切なものを何も持たなかったから。空を飛びたいという夢だけしかなかった。
今は違う。空を飛ぶ夢は叶った。他にも夢が出来た。大切なものが出来た。守りたいものが出来た。
私はたくさんの人達の歓声と声援を受けて、大勢の人達の期待と夢と希望を背負って、それでも一人ではないという余裕からの笑顔を自然に浮かべて空を飛んだ。
「北部辺境伯領と天涯教団の問題に巻き込んでしまってすまなかった」
「リース男爵夫妻から守れなくてすまなかった」
「誘拐を事前に防ぐことができなくてすまなかった」
「救出が遅くなってすまなかった」
「事件の収束に時間がかかってすまなかった」
ほかにもたくさん謝られたけど、お父さんが私に謝らなければいけないことではない。お父さんに非がないことばかりだ。
謝るお父さんに私は同じように頭を下げて感謝と謝罪を伝えた。
「私を救出してくれてありがとうございました」
「わざわざ私に事件の詳細を説明してくれてありがとうございます」
「私のために学園へ寄付をしてくれてありがとうございます」
「私を守ってくれてありがとうございます」
「私の方こそご迷惑とご面倒をお掛けして申し訳ありません」
私とお父さんの謝罪と感謝の応酬による合戦状態になってしまった。
互いに引っ込みがつかなくなっていたところにジュリアーナが割って入って場を収めてくれてやっと合戦が終結した。
そのままジュリアーナの屋敷に泊まり、翌日お父さんが領地へ帰るのを見送ってから私も学園へ戻り日常へと帰った。
それから一年が過ぎた。
私を悩ませていた雑事が解消された結果、私は空を飛ぶ理術の開発に没頭することができた。
そのおかげで本日は長距離飛行の実験を行えるまでになった。
やっと私は自分への誓いを果たすことができる。
私は自分自身に誓っていた。
育ての親であるシスターマリナに胸を張れる生き方をしよう。この人の信頼を裏切らない生き方をしよう。この人を失望させるようなことは絶対にしない。私を自信をもって誇ってもらえるような人になろう。そしていつか必ず胸を張って笑顔で再会しよう。
その誓いの通りにシスターマリナに再会することができる。
今日は私が育った孤児院がある領地の領都へ向けて出発する。
事前に領主へ話を通して、向こうで一泊する予定になっている。
途中の休憩場所にライラとアヤタはすでに待機しているためここにはいない。
私を見送るのはジュリアーナとアジュール商会の仲間と学園の生徒や先生などの大勢の見物客たちだ。
私は改良した橇型の飛行具である空橇へ乗り込み、太陽が完全に昇るのを待っている。
真っ暗な夜に空を飛んで移動するのは自殺行為でしかない。だから、陽がある明るい時間帯にしか飛行はできない。そのため、夜明けとともに出発する。
学園都市の門は東向きで、真正面の空の闇が徐々に薄れ始めている。
この学園都市の門の外に建物は無いため、この出発地点からは視界を遮るものが無く、空がよく見える。
私が飛行具の上で空を眺めているとやっと太陽が地上にはっきりと姿を現し、薄闇の世界が徐々に赤みを帯び始めた。
空が重い藍色から、薄い紅色へ、そして、赤と青が混ざり合い、ゆっくりと、でも確実に空が本来の色を思い出したかのように澄んだ青空へと変わっていく。
私はその空の移り変わりを何も考えずにただ静かに眺めていた。そして、空が完全に澄んだ青空になった。
私はおもむろに空を見上げる。
前世の彼女が見ていた空と同じ雲一つ無い青空が広がっている。
私は夢を諦めなかった。
そして夢を叶えつつある。
私がここまで来れたのは自分だけの力ではない。ジュリアーナやお父さんやライラやアヤタや他にも大勢の人達のおかげだ。
その中に前世の彼女もいる。
彼女の記憶が私を支えてくれた。
彼女が私に何かを語りかけてくれたわけでも、手助けしてくれたわけでもない。
それでも彼女は私の最強の守護者だった。
彼女の記憶は私の一部だから忘れようとしても忘れることなど出来はしない。
時と共に薄れてはいっても、私の中から消え去ることは無い。
彼女の両親に愛された記憶が産みの親から私を守ってくれた。私を強くしてくれた。私に自信をくれた。勇気をくれた。
だから、私は自分を貫き通すことができた。屈することがなかった。産みの親を拒絶できた。否定できた。抗うことができた。
ジュリアーナとお父さんを信じることができた。頼ることができた。打ち解けることができた。
彼女は変わらない。
彼女のあの青空への強い憧憬は変わらない。
彼女には空を自由に飛ぶ以上の強い欲求はない。
空を自由に飛ぶ以外に彼女の心が満たされることはない。
彼女が恋い焦がれるものは青空だけ。彼女が求めるものは空を飛ぶことだけ。彼女の願いは自由だけ。
その純粋な想いが私の夢と誓いを支え続けてくれた。
私は他の何よりも空を飛ぶことを選んだ。空を飛ぶことを諦めたくなかったから。
それなら、どれだけ多くのものを背負って重くなろうとも、それごと飛べるようになるしかないと覚悟していた。
きっとこれから先も私の背負う荷物は減ることはなく、増える一方だから重くて潰されないように強くなるしかないと決意を固めていた。
でも、今は違う。
その覚悟と決意は私の思い込みで考え過ぎだった。
何もかも自分が背負うなんて自分の力を過信していた。あまりにも傲慢だった。
私は数え切れないほどの多くの人に支えられている。一緒に背負ってくれる人がいる。私という負担を背負ってくれる人もいる。
私一人ではない。一人で何もかもを背負って潰れないように強くなる必要はなかった。
趣味で好き勝手に自由に空は飛べなくなったけど、それ以上に大切なものがたくさん出来た。
自由は孤独とセットだから、空を飛べるなら私は一人でも良かった。
でも、一人では無理だった。たくさんの助けがあって私は飛べていた。それを知った以上もう好き勝手出来ない。もう一人ぼっちで好き勝手に飛んでいる場合ではない。
色々なものに縛られるけど、それは私を守ってくれる。私の自由を奪うだけではない。私を救ってくれる、もっと強くしてくれる。
私は目的を持って空を飛ぶ。大切な人達のために。
私はただ自由に空を飛びたいだけだった。大切なものを何も持たなかったから。空を飛びたいという夢だけしかなかった。
今は違う。空を飛ぶ夢は叶った。他にも夢が出来た。大切なものが出来た。守りたいものが出来た。
私はたくさんの人達の歓声と声援を受けて、大勢の人達の期待と夢と希望を背負って、それでも一人ではないという余裕からの笑顔を自然に浮かべて空を飛んだ。
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