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いち

話し合いができない

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「後少しだから頑張ろう」
「うん」

 17. 家族間で助け合える
 18. 看病してもらえる
 19. 失踪しても探してもらえる
 20. 葬式を出してもらえる

「これは、孤独死しないようになるっていいたいのかな」
「最悪ならそうかも。身近なところなら、風邪引いても連絡してもらえたりポカリ買ってくれたり」
「そういう意味なら、そりゃそうだよね、と」
「って、葬式って必要?」

 彼女がちょっと笑い混じりに言ったので、おれは思い出してみた。

「うん、葬式は必要だよ」
「そうなんだ」

 急に真顔になる。

「いや、気にしてないし。普通葬式なんか知らないだろ、いいよ」
「や、不謹慎でした」

 真面目だな~。

「葬式だけど、知り合いとか全員知ってる訳じゃないから、やるとそれが分かっていい。それに────」

 あ。
 だめだ。

 あの時の光景がちょっとよぎっただけで、こみ上げてくるものがのど元を詰まらせた。

「……だいじょうぶ?」

 ちょっと待って、とも言えないで、おれは壁を向いた。
 しばらくすれば元に戻る。だいじょうぶだから……

『咲良さん、少しだけ待って下さいね』

 おれのケアウグイスが気を利かせている。
 そう、少しだけ待ってくれ……

 ポンポン

 背中を優しくたたかれた。
 この娘、天使かもしれない────

 おれたちがなんとか終わった頃、会議室のみんなもだいたい終わりに近づいているようだった。中にはうさ衛門先生に何度も注意されて、手こずっているペアもいたけど。
 そして終わったペアが、問題だった。

「江口くん、席へ戻りなさい」

 早速うさ衛門先生の注意が飛んだ。
 席にいればいいだろうと、近くの奴は話しかけてくる。

「咲良ちゃん、後でサインして」
「後で一緒に写真撮ろ」

 もちろん注意がくる。

「私語は慎んで」

 とは言っても、待ち時間がある人間はあんまり慎んだりしないらしい。

「ねえ、何中?」
「終わったらお茶しない?」
「ライン交換しようよ」

 彼女はそのどれにも無視で答えた。
 見事だ。
 しかし時間が経つにつれ、その音量はどんどん大きくなって、うるさい程になってきた。

「静かに。終わったみんなは今から、終わっていない人を手伝おう。文月さん石上くんペア、八嶋さん、小林くんペアがまだ終わっていないよ」
「マコ話すことないから」

 あー、あそこかー……

「オレらもいいからー」

 ヤンキー改め小林くん、心底だるそう。ガタッ! と隣の子が立ち上がって言う。

「わ、わたしはっ! はな……し合いたい……です」

 小林くんのペア、八嶋さんは、立ち上がった時に打った太ももをさすりながら座る。この子、遅刻してきた子だ。

「うっせえ余計なこと言うなよ」

 女子に威嚇するような男か、嫌な感じだな。

「結婚に限らず、人と人との関わりには話し合いが必要だが、このように片方は必要ないと思っていると、話し合いができない。どうすれば良いかな?」

 そこに二人しかいないと、ずっと話し合いなんか無理だと思う。力づくで、なんてダメだろうし。

「間にオレが入るよ」

 挙手をして、ハジメくんが立った。

「そっちは滝夜、おまえ入って」

 えっえええ!

「何でおれが!」

 しかもヤンキー小林ペア!

「できるできる」

 軽く言うな!
 しかし彼女の一言でやろうと思えた。

「わたしも手伝う」

 天使……!
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