上 下
153 / 304
なつ

めっちゃ楽しみ!

しおりを挟む
 時間になって師範が来、稽古が終わって雑巾をかけ、外へ出た。
 師範はどうも、この寺の住職とか、そういう人な気がする。
 頭坊主じゃないし、袈裟も着てないけども。

 ぐー

 腹が鳴った。
 何も食べずに稽古に来るのは、朝ごはんを陽太たちと食べる為だ。
 師範の家へ行ったら、奴らと会うこともなくなっちゃうのかな。
 とか思いながら山門をくぐった時だった。

「滝夜」

 敷居を踏まないようにまたいだおれは、下を向いていたから、その声に顔を上げた。
 ニッカリ笑った、ハジメがいた。

「────ハジメ!?」
「久しぶりやなあ」
「……って、どうして、え? びっくりした!!」
「ハハハ」

 面白そうに笑った顔が、めちゃくちゃ懐かしかった。前の研修からひと月も経っていないのに。

「も~めっちゃ来たかったでぇ? 早よ行こ。陽太ん家、早よ早よ」
「急かすな危ない」

 石段は押さないで降りて下さい!

「ここやろ、あの写真」

 おっ、お前もか!
 ニヤニヤ笑われて、おれは顔を背けて走り降りた。

 ハジメは笑いながら追いついて、おれは背中ぐいぐい押されて、ほとんど小走りに帰ったもんだ。

「久しぶり~」

 食堂へ向かう陽太がのほほんと手を振って、そのまま歩いて行った。

「相変わらずやな」
「おれ着替えとかあるから」
「あ、部屋行く行く」
「えっ?」

 一緒についてくる。

「俺も泊まるし」
「えっ! そうなの?」
「そうなの! めっちゃ楽しみ!」
「あっ、おれ昼から師範家行くけど……」
「俺も行くわ」
「いいの??」
「うん、話あったし」

 知らない間に話が出来てる、いつもの感じ。
 でも、それなら今日は一人じゃない。
 なんだかワクワクしてきた。

 汗にまみれた道着とか下着は朝ごはんの後洗濯するから、とカゴに入れたら、ハジメの視線に気がついた。

「いや、洗濯するねんなて思て」
「うん。なんか家事も修行中かも」
「滝夜すごいな! 感心するわ」

 そこまで言われると照れる。

「言うて中学生やで?」
「でも置いてもらってるし」
「うん、俺がおまえでもやると思うけど、辛さ感じないかっていうとな」

 分かってもらえて嬉しい。

「ハジメ来てくれてめっちゃ嬉しい。ありがとな」
「おう! って俺が来たかったんやって」
「ハハハ」

 一人じゃなかったらぜんぜん辛くなかった。たぶん。

「ハジメちょっとこっち見ないで」

 身体を拭こうとタオルを濡らして、ぱんつに手をかけてふと気付いた。今は一人じゃない。

「?」
「風呂まで遠いけど汗も気持ち悪いから、いつも身体拭くんだ」
「あ~そうか、温泉いうてもすぐシャワー浴びれる訳ちゃうもんな」

 後ろを向いてくれる間に、モタつきながらべたべたのパンツを脱いで拭いてしまう。
 新しい服をぱっと着て、「ありがとう、もういいよ」

「おう」

 なんとなく気まずい感じがするのは何故だ。
しおりを挟む

処理中です...