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なつ
夏みかんのタルト
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「俺が悪かった!」
立ち上がってぺこり! とハジメが頭を下げた。
「そっ……そん……」
そんなことないよとか言いたかったけど言葉にはならない。
「そうだよなあ。分かってるつもりだったけど分かってへんかった。ごめん」
おれだって分かってなかった。こんなに我慢してたなんて。
「試合には出よう。その上でどうすればいいか考えよう」
「それがいいのう」
「運営側の協力者が必要だね」
「うん。まあ、落ち着いて。せっかくの美味い朝飯、ちゃんと食べよ」
おれは返事もできずに、うなずいて冷めてしまったごはんを口に運んだ。
なんとなくみんなで食器を片付けると、部屋に戻って洗濯、掃除。ハジメが全部手伝ってくれて、これも早く終わった。
でっかいシーツを二人で干してしまうと、再び食堂へと戻る。
「────いい匂いする」
「ほんまや。旨そうな匂い」
なんとも言えない甘い匂いに誘われるように食堂へ入ると、ニコニコした陽太が言った。
「時間ぴったり~、すごいね小猫ちゃん~」
「ヒェヒェヒェ」
「僕コーヒー入れてあげる。みんな飲める?」
腰も軽く陽太が席を立つ。
耳を疑うおれ達。
マジか。
「飲めるけど……牛乳入れてくれる?」
「カフェオレね、OK」
珍しく台所に立つ陽太を眺めながら、小猫が鍋敷きごと持ってくる、いい匂いの発生源が気になるおれ。
「夏みかんのタルトじゃ」
じゃ~ん♪ という効果音と共に差し出されたのは、お店で売ってそうな丸ごとのケーキ!
夏みかんか。爽やかな匂いも加わって、ほんとうにいい匂い!!
「すっげ~! めっちゃうまそう!」
「これ作ったの? すげえ! 天才!」
褒めたら小猫の顔がすごく嬉しそうで、一瞬可愛いと思ってしまった。
微かだったコーヒーの匂いが部屋中に広がって、テンション上がる。
「切ってやるでな」
おれ達を制して小皿を運び、ナイフで三角に切れ込みを入れた。
三角の平らな道具でそれぞれの小皿に取り分けてくれる。
やっべえ、喫茶店みたい!
「ハイお待ち~」
陽太がカップを乗せたトレイを運んできて、それぞれの前にカップを置いてくれる。
「コーヒーの匂いもいいね」
「うん、いい匂い!」
「たまにはいいのう」
母さんはよく飲むけど、おれがいない時飲んでるから、インスタントじゃないコーヒーは非日常なのだ。
「おれ手作りのケーキ食べたことない」
「俺もかも」
「ヒェッヒェッヒェッばかじゃのう」
バカって言った!
「どんなケーキも手で作っておるのじゃ」
その通りだ!
「ほんまやね。俺ら、勘違いしてた」
「うん」
「”友達が焼いてくれたケーキを初めて食べます”」
いただきます、のポーズでハジメが言った。
「そうだな。いただきます!」
「いただきます、小猫ちゃん」
「どうぞ」
フォークで押し切って、ぶっ刺して口に運ぶ。
「でかい。でかいでかい、滝夜」
「え?」
口いっぱいに広がる爽やかな夏みかんの香りと甘い蜜とさくさくのタルト。
もぐもぐしてる間にハジメが「うまい」とか、陽太が「今日のも美味しいよ」とか言ってるけども。
ようやく飲み込んで、コーヒー飲んで、ひと息。
「うまい!!」
「ヒョヒョヒョ」
「ひと口がでかいんだよ滝夜」
「めっちゃうまいね、これ! すごいほんとに。天才」
ほんとうまい。ふた口目GOGO!
「あああああ……」
「あとひと口しかないじゃん」
「まあ、食べたいように食べれば良い」
「食べっぷりがいいってことで」
「みんなおれ見てないで食べたらいいのに」
「食べてるよ!」
「食べてるし」
「あ~、うまかった!!」
「早っ!」
「ヒョヒョヒョヒョ」
満足満足~
立ち上がってぺこり! とハジメが頭を下げた。
「そっ……そん……」
そんなことないよとか言いたかったけど言葉にはならない。
「そうだよなあ。分かってるつもりだったけど分かってへんかった。ごめん」
おれだって分かってなかった。こんなに我慢してたなんて。
「試合には出よう。その上でどうすればいいか考えよう」
「それがいいのう」
「運営側の協力者が必要だね」
「うん。まあ、落ち着いて。せっかくの美味い朝飯、ちゃんと食べよ」
おれは返事もできずに、うなずいて冷めてしまったごはんを口に運んだ。
なんとなくみんなで食器を片付けると、部屋に戻って洗濯、掃除。ハジメが全部手伝ってくれて、これも早く終わった。
でっかいシーツを二人で干してしまうと、再び食堂へと戻る。
「────いい匂いする」
「ほんまや。旨そうな匂い」
なんとも言えない甘い匂いに誘われるように食堂へ入ると、ニコニコした陽太が言った。
「時間ぴったり~、すごいね小猫ちゃん~」
「ヒェヒェヒェ」
「僕コーヒー入れてあげる。みんな飲める?」
腰も軽く陽太が席を立つ。
耳を疑うおれ達。
マジか。
「飲めるけど……牛乳入れてくれる?」
「カフェオレね、OK」
珍しく台所に立つ陽太を眺めながら、小猫が鍋敷きごと持ってくる、いい匂いの発生源が気になるおれ。
「夏みかんのタルトじゃ」
じゃ~ん♪ という効果音と共に差し出されたのは、お店で売ってそうな丸ごとのケーキ!
夏みかんか。爽やかな匂いも加わって、ほんとうにいい匂い!!
「すっげ~! めっちゃうまそう!」
「これ作ったの? すげえ! 天才!」
褒めたら小猫の顔がすごく嬉しそうで、一瞬可愛いと思ってしまった。
微かだったコーヒーの匂いが部屋中に広がって、テンション上がる。
「切ってやるでな」
おれ達を制して小皿を運び、ナイフで三角に切れ込みを入れた。
三角の平らな道具でそれぞれの小皿に取り分けてくれる。
やっべえ、喫茶店みたい!
「ハイお待ち~」
陽太がカップを乗せたトレイを運んできて、それぞれの前にカップを置いてくれる。
「コーヒーの匂いもいいね」
「うん、いい匂い!」
「たまにはいいのう」
母さんはよく飲むけど、おれがいない時飲んでるから、インスタントじゃないコーヒーは非日常なのだ。
「おれ手作りのケーキ食べたことない」
「俺もかも」
「ヒェッヒェッヒェッばかじゃのう」
バカって言った!
「どんなケーキも手で作っておるのじゃ」
その通りだ!
「ほんまやね。俺ら、勘違いしてた」
「うん」
「”友達が焼いてくれたケーキを初めて食べます”」
いただきます、のポーズでハジメが言った。
「そうだな。いただきます!」
「いただきます、小猫ちゃん」
「どうぞ」
フォークで押し切って、ぶっ刺して口に運ぶ。
「でかい。でかいでかい、滝夜」
「え?」
口いっぱいに広がる爽やかな夏みかんの香りと甘い蜜とさくさくのタルト。
もぐもぐしてる間にハジメが「うまい」とか、陽太が「今日のも美味しいよ」とか言ってるけども。
ようやく飲み込んで、コーヒー飲んで、ひと息。
「うまい!!」
「ヒョヒョヒョ」
「ひと口がでかいんだよ滝夜」
「めっちゃうまいね、これ! すごいほんとに。天才」
ほんとうまい。ふた口目GOGO!
「あああああ……」
「あとひと口しかないじゃん」
「まあ、食べたいように食べれば良い」
「食べっぷりがいいってことで」
「みんなおれ見てないで食べたらいいのに」
「食べてるよ!」
「食べてるし」
「あ~、うまかった!!」
「早っ!」
「ヒョヒョヒョヒョ」
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