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ヒーロー
本の世界
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「寝てたん?」
「ううん、本読んでた」
その場の三人が言葉にならない驚きでおれを見た。
うん、おれもびっくり。
「すごいよな、本って。かすかに風が鳴っていた~って書いたら、その通りのことが起きる」
「そらまそうやけど」
「うーん、違うな、そうやって、同じようにおれが書いたとしてもならないって言うか、目の前にちゃんとそれがあるし、おれは侍だし、世界はそこになるんだよ」
なんとか伝えたいのに言葉が出ない、もどかしい、ああ、これが語彙力!
「ヒョヒョ、夢中じゃな」
「良かったね、滝夜」
ニコニコ笑ってくれてんだけど、走り出したいこの気持ちをどうぶつけていいか分からない!
「もう読んだ?」
「まだ~」
「まだや」
まだか! って、みんなまだなんじゃん! すぐ読み始めるっぽかったのに!
「じゃあ小猫だけか、分かるだろ? それともおれだけ?」
「うむ、分かる。じゃが、わしにじゃないのう」
「何でだよ、おまえしかいねえじゃん」
聞いてくれよ、こんなの初めてなんだよ。こんな、まるでほんとに話の中に入っちゃうなんて!
「おぬし、その本誰にもらった」
あ!
────そうか。そうだ、これモコに貸してもらったんだ。
「そっか! そうだよね? おれちょっと後で話そ!」
「まあ、わしも知っとるからいいんじゃけどネタバレがな」
「あっ、そうだね」
話するなら、ハジメも陽太もいないとこじゃないと。
まあいいや。とりあえずモコに伝えなきゃ!
ちょっと引きぎみの三人と、小猫が用意してくれた昼ごはんを食べ、おれはいそいそと自分の部屋へ戻った。
「輝夜、モコにメール、いや、通話していいか聞いて」
『はい、ふふっ』
なんか、語尾が笑ってるんだけど。
『通話? いいよ。何?』
「あ、モコ……さん、」
『モコでいいし』
「じゃあモコ。これ、この本、貸してくれてありがとう! めっちゃ凄い! おれ、こんなの初めてなんだけど!」
『あ……、うん、喜んで頂けて結構だ。もう読んだのか?』
「いや、まだ。さっき読んで、もう凄くってさー」
『え?? さっき?』
あ、いかん。
「えっと、うん、ごめんなさい。なんだか手が出なくてさ……」
『まあいいや。じゃあしばらくそれ読んで大人しくしてなよ。続編もあるから』
「えっ!? 続編もあるの?」
『うん、逆に言うとそこまでしかない。お亡くなりになられてな』
「え……」
そうか。
作者が存命だろうとなかろうと、作品はここにあるけど、その先は永遠に作られないんだよな。
なんだかとても大きなものを亡くしてしまったような気がして、おれは胸が痛かった。
+
モコの言うとおりそれからおれは本の世界に没頭した。
誠一郎と一緒になって、初めての江戸に来て、初めてのみせすががきを浴びた。
何も知らない誠一郎はおれとおんなじで、何もかも初めて見るものばかりだった。
不思議な吉原の言葉や町並み、かっこいい江戸弁でしゃべる謎のおじいさん、いきなり始まる命のやり取り……
それはまるで異世界で、そしてよく分かる世界だった。
こんな風に生きててもぜんぜん不思議じゃない。
たとえばこんなに強くなくても。
「ううん、本読んでた」
その場の三人が言葉にならない驚きでおれを見た。
うん、おれもびっくり。
「すごいよな、本って。かすかに風が鳴っていた~って書いたら、その通りのことが起きる」
「そらまそうやけど」
「うーん、違うな、そうやって、同じようにおれが書いたとしてもならないって言うか、目の前にちゃんとそれがあるし、おれは侍だし、世界はそこになるんだよ」
なんとか伝えたいのに言葉が出ない、もどかしい、ああ、これが語彙力!
「ヒョヒョ、夢中じゃな」
「良かったね、滝夜」
ニコニコ笑ってくれてんだけど、走り出したいこの気持ちをどうぶつけていいか分からない!
「もう読んだ?」
「まだ~」
「まだや」
まだか! って、みんなまだなんじゃん! すぐ読み始めるっぽかったのに!
「じゃあ小猫だけか、分かるだろ? それともおれだけ?」
「うむ、分かる。じゃが、わしにじゃないのう」
「何でだよ、おまえしかいねえじゃん」
聞いてくれよ、こんなの初めてなんだよ。こんな、まるでほんとに話の中に入っちゃうなんて!
「おぬし、その本誰にもらった」
あ!
────そうか。そうだ、これモコに貸してもらったんだ。
「そっか! そうだよね? おれちょっと後で話そ!」
「まあ、わしも知っとるからいいんじゃけどネタバレがな」
「あっ、そうだね」
話するなら、ハジメも陽太もいないとこじゃないと。
まあいいや。とりあえずモコに伝えなきゃ!
ちょっと引きぎみの三人と、小猫が用意してくれた昼ごはんを食べ、おれはいそいそと自分の部屋へ戻った。
「輝夜、モコにメール、いや、通話していいか聞いて」
『はい、ふふっ』
なんか、語尾が笑ってるんだけど。
『通話? いいよ。何?』
「あ、モコ……さん、」
『モコでいいし』
「じゃあモコ。これ、この本、貸してくれてありがとう! めっちゃ凄い! おれ、こんなの初めてなんだけど!」
『あ……、うん、喜んで頂けて結構だ。もう読んだのか?』
「いや、まだ。さっき読んで、もう凄くってさー」
『え?? さっき?』
あ、いかん。
「えっと、うん、ごめんなさい。なんだか手が出なくてさ……」
『まあいいや。じゃあしばらくそれ読んで大人しくしてなよ。続編もあるから』
「えっ!? 続編もあるの?」
『うん、逆に言うとそこまでしかない。お亡くなりになられてな』
「え……」
そうか。
作者が存命だろうとなかろうと、作品はここにあるけど、その先は永遠に作られないんだよな。
なんだかとても大きなものを亡くしてしまったような気がして、おれは胸が痛かった。
+
モコの言うとおりそれからおれは本の世界に没頭した。
誠一郎と一緒になって、初めての江戸に来て、初めてのみせすががきを浴びた。
何も知らない誠一郎はおれとおんなじで、何もかも初めて見るものばかりだった。
不思議な吉原の言葉や町並み、かっこいい江戸弁でしゃべる謎のおじいさん、いきなり始まる命のやり取り……
それはまるで異世界で、そしてよく分かる世界だった。
こんな風に生きててもぜんぜん不思議じゃない。
たとえばこんなに強くなくても。
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