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ヒーロー

撮影と魔法のカレー

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それからおれは、ハジメの部屋や家の側の木陰など、近所でかつ場所が割れないところを引っ張り回されて、写真を撮られまくった。
服を脱いだり、着たり、はだけたり、笑ったり、真面目な顔したり……

「どんどん撮るから気にしないで普通にしてて」

もう、プロかよってマコの指示で色んなところで立つけど、だんだん顔が引きつってくる。
意識しないで、なんて無理だろう。
写真撮ってるって分かってるし、みんなこっち見てるのにさ。

と、いい加減ガチガチな目付きになってきたところで、参が笑顔で顔をダイレクトマッサージしてくれた。
うん、なんかほぐれたような……背後で比護杜さんがうるさいような。

「ほい、これ飲めし」

スッと差し出されたデコデコスイーツ系飲み物。

「これ何?」
「知らん。りらに聞いて」
「リゾートをイメージして見ました! 好きに飲んで下さい、撮りますので!」

営業マンか。

「写真ってどれくらい要るの?」
「チャンスがないので、あればあるほどいいんだけど、季節もあるから良いの100枚くらいかな。あ、後で剣道やってるとこも撮るよ!」
「それ大事」

まだあるんだ……
ちょっと萎えた。
でも、これっておれのためにやってくれてるんだもんな。
文句とか言ったらバチが当たるやつ。

「なあ、今更聞くのもなんだけど、ファンクラブって何すんの?」
「目的は、ファンの知りたい! に答えることッス! 知りたいが叶えられないファンは暴走するッス!」
「キャラ変わってない? だいじょうぶ?」
「今ウチは燃えてるんです! 今まで培った知識をぶっ込んでやるんッス!」
「は、はあ……」

まあ、燃え上がるほどやりたいなら、いいか……

それから、ちょっとだけ道場でも撮影したらもう晩ごはんの時間だった。
ようやく帰って来た。洋館の姿がとても優しく見える。

「疲れた……」

小さな声だけど、ほんとに疲れてたので、言ってしまった。
みんなが肩をポンポン叩いてくれて家に入ると、ハノさんの用意してくれたカレーの良い匂いが、強ばった神経を急速に癒やしてくれるのが分かった。

「さあさ、疲れたでしょ、手洗ってうがいしてらっしゃい」
「はあ~い!」

いつものダイニングテーブルにはみんな座れなかったので、横のリビングにも分かれてカレー皿を手に全員が揃った。

「いた~だきます!」

そうやって食べた一口のカレーは、魔法のように身体に染みこんでおれを癒やしてくれた。
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