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ヒーロー

できない

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『あとは先生に任せて、君たちは片付けをしよう。物事を効率的に進めると、残業が減る。

 残業とは、仕事を時間の側面で切り取った際に発生する概念だ。営業時間と似ているが、一般に雇用とは時間的な拘束になる。

 9時から5時まで仕事と契約すると、休憩を除いて職場に拘束される訳だ。
 そのような雇用では5時を過ぎて労働すると、残業と見なされる。予定外の労働なので、手当がプラスされる。

 雇用側からは想定外の費用なので避けたいが、トラブルや繁忙期など仕方ない面もある。またこれの支払いは義務なので、支給されなかったら窓口まで一報して欲しい。
 またこれについて強制力はないので、自分のせいでなければ断っても良い』

 おもちゃを拭き拭きしながらふんふんと聞く。

『早く仕事を終わることは大事なことだ。自由な時間を確保しないと人は病む。
 たとえ趣味を仕事にしても、それは同じだから覚えておくように』
「咲良って残業関係ある?」
「ないけど、時間押したりすると辛い」
「収入に変化ない方が大変じゃん」
「最近少し変わってきたけどね~」

 時間は有限って、マジリアルだからなあ。

「せんせーさよーならっ、みなさんさよーならっ」

 おれ達の仕事は終わった。
 着替えているとうさ衛門先生が言う。

『みんなお疲れ。最後にひとつだけ。
 できないことを悲しまないで欲しい。
 君たちはうすうす勘づいているだろう。努力してもできないことがあることを。
 他の人ができても自分はできない、それはよくあることだ。
 仕事は技能でできている。できないことは恥ずかしいことではない。
 できることをやろう。

 実際に働くまでは気付かないことも多いが、ある程度の努力でできなかったら、他の仕事を考えよう。
 違う部署があればそれでもいいし、転職もいい。ただ、転職すると無給の期間が発生するので、次を決めてから退職するのが安全だ』

 それは本当に悲しいことだ。
 でも確かに知ってる。おれが大好きな剣道だって弱い子はいっぱいいる。仕事だってそうなんだろう、想像できる。
 やりたいことを仕事にできるって、本当に幸運なことなんだろうな。

『君たちが働く頃、日本には労働人口がとても減少している。辛いことはなるべく避けて、やりたいことをいくつでもやりたまえ。
 それは今からでも良くて、何度でも失敗したらいい。
 働く時間は長い。色んな人に相談して、様々なことにチャレンジしていって欲しい。静聴ありがとう』
「ありがとうございます!」

 パチパチパチパチ

 うさ衛門先生、また今度な!
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