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ヒーロー

勇者

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 おれ達は彼を見送って、その衝撃をどうしていいか分からずにいた。
 おれはくちびるをきゅっと結んだ咲良を見て、それから住吉さんを見た。

 なんか、表現できない顔をしてた。
 間違いなく軍曹のことを見てたけど、ぼうっとするような、夢でも見てるような掴みどころのない表情。

 目の前で相方に告白された、その点じゃおれと同じ立場のはずの住吉都さん。
 べつに恋愛じゃないんだけど、そういう風になるやつも多い中で、そうじゃないって思い知らされるって言うか……

 でもその表情は、言葉にできる何の形でもないままに時間が止まってるみたいだった。

「……すっごい! 勇者じゃん! カッケー!」

 シーンとした空気を突き破るみたいな声は、二本田りらさん。
 それを聞いてやっと、ああ、そういう風にも言えるなって気付いた。
 確かに凄い。
 全員の前で告るなんて、おれなら絶対ムリだ。

「ヤバい、目撃しちゃった!」
「ちょっと見直した! エロロ軍曹とか言っててごめん」
「そう言えば今日大人しかったよね!」
「うん、ぜんぜん! ぜんぜん寄って来なかった!」

 鬼ノ目さんとかゆめさんとかマコとか、女子がちょっと興奮状態で手がつけられない感じなんだけど、そうか、やめたのか、その作戦。
 思えばちょうど前回の帰り道だった。あれから彼は考えて、たぶん直接会うのは研修のときしかないからと考えて、今日言ったんだ。

 確かに勇者。
 本当に勇者。
 だってフラれるって思ってたのに言ったんだよ?
 みんなの前だよ?
 恥ずかしいとかより直接言う方を選んだんだよ?

 たぶんおれにはできない。
 絶対二人しかいないときだし、フラれるなら告っても仕方ないって思ってしまう。

「帰ります」

 服部さんがクールに言って出てった。
 それを合図にバイバイして、おれと咲良が残った。陽太がスマホを指差して出てく。分かった連絡するよ。

「大丈夫?」

 さっきから、なんか辛そうだったから。
 咲良は上目遣いにおれを見て、うん、とうつむいた。

 ぜんぜん大丈夫そうには見えないけど、こういうときなんて言っていいかなんて、分からないよ……
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