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バトル通学

短距離走

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 前がスタート準備に入り、ちらとメンバーを確認した。練習のときと違う人がいるのは、休んでたのかな。スタート練しかしてないので、実際どのくらい速いのかは未知数。
 まあ、走ってみるしかない。一緒に走る誰が速くても遅くても、おれのスピードが変わる訳じゃないもんな。
 割り切って前を見ると、前列がスタートして、次だ。

 ところどころ踏まれた白線が、並んで曲がっていく。その開けたコースが、来いと呼んでいる。
 心臓の音を聞こえないふりして、足首を回す。

「位置について」

 スターターの方は見ない。ただ前を、自分の先へ続くコースだけを見てる。

「よーい」

 パァン!

 一斉に走り出す!
 おれのすべてが限界を振り切るみたいに土を風を蹴り払う、足裏が砂を踏みにじり地面の上を低く飛ぶ、今だけこの時だけ動け前へもっと速く!
 ゴールラインが揺れながら近付く近付く速くもっと速く!

 ふっと抜いた力が浮力を生んで、疲労が重力を生み、重さの方が勝つ。
 激しい呼吸を一段落させると、疲れたと言って仰向けに転がりたくなった。

 とりあえず勝った。おれはタラタラと歩いて席へ戻り、座って水分補給する。
 疲れた。

「滝夜ー!」
「おう」

 友達とハイタッチ。

「後何出るんだっけ?」
「二人三脚と騎馬戦とリレー」

 締めがリレーなのはなんでだろうな。盛り上がりかな。

「騎馬戦とリレー休憩なしじゃん」
「考えんかったー」
「ハハハ」

 おれみたいな運動する奴が頑張らんでどーするよってことだよ。大半のみんなは仕方ないからやってるんだろうし。
 まあ、帰ったらバッタリは確定したけども。

 グラウンドの手前に並ぶ教室の椅子、まばらに主を待つ荷物。コースに並ぶ大勢の女子、ぐるっと先に本部の白い天幕。その向こうに建つ古ぼけた校舎。
 お揃いの手拍子で応援するクラス、戻ってくるクラスメイト、走る先生、時々ハウリングを響かせるマイクの音。
 ああ、体育祭だな。

 もう一度水分を含みながら、女子の中にながるんを探した。二人三脚はこの次だから、連戦になる。
 でも人混みに埋もれて、探し出せる気がしない。戻ってきたら見てみよう。

 競技と競技の合間にはあまり時間がないけど、水分補給のために一度戻ってくるだろうと思ってた。

「なんでだ」

 二人三脚の選手を呼び出すアナウンスが流れると、こっちに向かって歩いてた彼女は方向を変える。おれは反射的に飛び出してながるんを捕まえに行った。

「なにするの」
「水飲めよ体調悪くなんだろ」

 そりゃ並ぶの遅れるのは悪いけど、倒れるよりいいだろ?
 誰が健康を犠牲にして運動しろって言ったよ?

「余計なお世話」
「そりゃ悪かったな」

 汗をかいて光る顔を空に向けて水筒を傾けるのを、じっと待った。のどがごくごくと動く。ほらやっぱりたくさん飲んだ。
 キュキュと水筒の蓋を閉めると、お待たせ、とだけ言って集合場所へ急ぐ。
 競技はまだ始まっておらず、余裕で間に合った。どうやら短距離走の集計待ち、点が出てない。

『ただいまの競技、短距離走の結果を発表します』

 ほどなく、落ち着いたアナウンスが流れた。

『赤22、黄14、緑19、青20、よって赤の勝ち』

 ワー! っと赤が盛り上がる。2点差かあ、ドンマイ。
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