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バトル通学

持つべきは友人

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「咲良大丈夫かな?」

 部屋に駆け込んで輝夜に聞いた。

『大丈夫とは?』
「つ……通話、できるかな……」

 冷静に聞き返されると恥ずかしいなこれ。

『大丈夫ですよ。おつなぎします』

 しばらくの間。きっと今呼び出して……

『どうしたの?』
「うわあ!」

 秒で出た!

『うわあ? 何よそれ』

 あ、不機嫌スイッチ押してしまった!

「いやそのあの、そんなに早く出てもらえると思ってなかったから」
『そりゃ出るでしょう。何かあったと思うじゃない』

 そう言われればそうか。前にそんな話してた。

「ゴメン。でも聞いて、ビックリだよ、師匠の兄弟子に会った!」
『師匠の兄弟子? へえ、良かったね!』

 あれ、通じてないぞ。

「いつかさ、いなくなった師匠の話したじゃん」
『あっ、あれ! そっちの師匠か』
「師匠は一人だよ。玄以師範は師範」
『んん? へえそうなの』
「そう。いやそれどうでも良くて、不思議だよ、不思議!」
『うん?』

 色々通じてない。おれ、説明下手かな。いいや、最初から話そう。

「子どもの頃教わってた師匠の道場がなくなってて、すごい不思議だったじゃん。そしたら今日兄弟子が助けてくれて、忘れたのかって師匠のことを」
『助けてくれた?』
「うんそう。凄えんだぜ? おれがやべえってタイミングで割って入るんだ、めちゃくちゃカッケーよな! 年下だけど」
『ちょっと待って。何があったの?』

 あ、声のトーン、オクターブ下がった。

「ええと、知らないおじさんに襲われて……」
『~~~~!』

 すごい勢いで息を吸った音がした。これはヤバい。おれはスマホを離して身構えたけど、聞こえたのは同じくらい長いため息だった。
 それから、ぽつりと聞いた。

『無事なのね』
「うん」
『良かった』
「うん。ゴメン」

 おれは何故か謝って、そして咲良はそれに突っ込まなかった。
 心配させて、ゴメン。

『そういえば、初めて通話してくれたね!』

 しんみりとした雰囲気を吹き飛ばすみたいに、明るい声で咲良は言った。改めて聞かないでほしい。そこ、めちゃくちゃ恥ずかしいとこ。

「うん」
『これでいいのよ、ふつうに通話して?』
「そうだね」

 ちょっと笑って。

『もうすぐ文化祭じゃない? そっちは何やるの?』
「え? 普通にクラスで展示やって、舞台は生徒会と部活と有志と先生たちがやるよ」
『見に行ける?』
「えっ? 来ちゃダメだろ……っていうか、来れないよ、親もダメ」
『ええ~っ! そんなあ~っつまらん……』

 来ちゃダメだってば。聞いてねえコイツ。

『あ、じゃあ滝夜が来れば? 来なよウチ! 楽しいよ! 屋台出るし』
「えっ、そんなアニメみたいな文化祭リアルであるの?」
『アニメみたい~あはは! あるよ、ウチ私立だし。ね、来なよ、招待状送る』
「行きたい! 楽しそう!」
『楽しいよ! じゃあ送るからね!』
「うん、ありがとう」
『イイってことよ! じゃあね~』
「うん、また」

 通話が切れて、おれはまだ見ぬテンプレ文化祭に思いをはせてウキウキだった。さっきまで誰かに八つ当たりしたかった、そんな気分はどこかへ行った。
 持つべきは友人、ほんとにそうだよな。
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