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バトル通学

わたし

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「すっげー陽太、めっちゃ上手だった!」
「がんばったも~ん」

 そうやってうつむいて横を見る。照れてやんの。まだハァハァと荒い息で、短いけど全身運動のダンスは、かなりの負担だと分かる。ちょっと心配。

「ちゃんと撮れた~?」

 ハッ!

「ごめ……! 途中から覚えてない! 撮れてるかな」
「貸して」

 見直そうとしたら奪われた。横から覗き込んだら、「ダメ~」とか言うし、なんだよ見せろよ。
 でも、見直してる陽太の顔がもの凄く嬉しそうで、なんだか胸が苦しくなった。

「すっごい、ギリギリ入ってるよ、さすが助手」
「ああ、補正してくれたんだな。サンキュー輝夜」
『どういたしまして』

 せっかくここまで舞台整えてくれて、挙句映ってないとか切腹もんなんだけど。とにかくグッジョブ!
 とか言ってる間に電気は消えて、小猫がやってきた。
 練習してたの、ずっと付き合ってたのかなあ。なんかいいなあ、奥さんみたいで。
 まさかおれが小猫にこんな気持ちを抱くとは、初めて会ったときには思わなかった。でも、きっとおれは何も知らなかったし、小猫も変わったんだろうな。
 帰り道、あれなんの曲? とか、どうやって覚えたの? とか、花畑だったのにね、とかしゃべりながら歩いて、陽太はもう背中を丸めてはいなかった。
 陽太から風呂に入って、おれが出てきたら部屋にいたから、そのまま話してたら小猫までやってきた。

「たのしそうじゃからの」
「小猫ってなんでそんなしゃべり方なの?」
「じじばばのせいじゃ、ヒョヒョ」
「そんなことってある? わざとかと思ってた」
「わしとて普通に話そうとすればできるぞ」
「マジか」

 ぜんぜん想像できねえ。

「わたし、子どもの頃病気でずっと入院してたんだ。もの凄いお金が必要になって、親は働き通し、世話をしてくれたのはおばあちゃんとおじいちゃんだったの。手術して治っても、親は帰ってこなくて。そうしてるうちにおばあちゃんもおじいちゃんも、だんだんできることが減っていって、わたしがお世話する方になったの。それは別に、良かったんだけど、やっぱり他の子とは話が合わないし。でも、さすがに病院の送り迎えまではできなくて、負担が辛くなっていたんだ。はるたんと出会って、ウチへおいでよって言ってくれて……救われたんだ、わたし」

 混ぜっ返そうと思ってたことはすぐに吹き飛んだ。
 驚いて何も言えない。言われるままに受け取るだけで、何も考えられない。
 ただひとつ、小猫がここにいて、本当に良かったってことだけが理解できた。
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