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第2話
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あの夜からどれだけの時が流れたのだろう。気付けば幾百日の月日が過ぎ、時代は何度も新しく名前を変えていった。
今日も望まぬ訪問者が私の邸宅の扉を開け、ロビーへと入ってきたようだった。
もっとも、人の手ではとてもではないが押し開けることのできない大きな扉は、私の魔法によって来客が来れば勝手に開くようになっている。
私は左右の壁に沿うようにして延びた大階段の上から、こちらを見上げる紳士に、あるいは己を紳士だと思い揺るがない愚か者に問いかける。
「来訪者様、私を狩りに来たの?それとも愛されに来たのかしら。」
「ここまでの美女にお目にかかれるとは思っていなかった。」
顔を紅潮させ、下卑た表情を浮かべる男に嫌悪ではなく、哀れみを感じ、長いドレスの袖で口元を隠した私は浅く溜息を吐いた。
男は尚も得意げに私を見上げ言った。
「魔女を騙った娼婦がこの館にいると聞いてやってきた。俺のような屈強な男を探しているのだろう?さぁ、私にお前の艶やかな肌を堪能させてくれ。」
どうやら魔女を信じない愚か者のようね。とてもあの者が永遠の時を生きる屈強な男とは信じがたかったが、その自信を疑っては殿方の誇りを踏みにじってしまうことになる。筋骨隆々であることが必ずしも私が望む者ではないと、数百年経った今も誰も理解してはくれないが、私だけは男たちの思考を理解できるのだから仕方がない。
私は両手を広げ、男に告げた。
「貴方様がまさに私が請い願う運命の方であるならば、私の試練も悠々と乗り越えてみせるでしょう。」
「御託はいい、早く私に抱かれればよいのだ。」
「それでは、私から貴方に贈り物を。」
そう言って、両の手のひらを打ち鳴らす。壁画として描かれていた大中小の獣たちが眠りから覚め、実態を帯びて男のいる広間へと姿を表す。
と、同時に外へと続く扉が締まり、まさしく私たち二人だけの空間と化した。
「なんだ、これは。」
「貴方が私の望むお方であるならば、その子たちを一人で制することができるはず。私を殺すこともできぬ可愛らしい生き物でございます。お戯れくださいませ。」
「やめろ、ふざけるな!!」
「一時間後、私はここに戻って参ります。その時、まだそこに貴方が立っていれば私の身体は貴方のもの。」
「待て!どうにかしろ。これじゃ死んじまう。」
「乙女には殿方と一夜を過ごすために準備が必要なのです。その間の暇つぶしにしかなりませんが、ご容赦ください。」
私は踵を返し、奥の間へと戻っていった。
男は二階にどうにか駆け上がろうとするが、獣たちの足は彼よりも早かったようだ。一匹、二匹と彼を引き止めようとして服や足に齧り付く。
せっかちなお方。たったの一時間も待てないなんて、紳士の風上にも置けないわ。
腰まで伸びた髪を三つ編みにしていたが、髪飾りを外して解いた。湯浴みでもしてこようと着ていたドレスを脱ぎ捨てる。後で、私が魔法で作った土人形がこれらをクローゼットに持って行ってくれることだろう。センスのいい洋服を選ぶのは私にしかできないから、後で必ず立ち寄るつもりだった。
東洋の魔女は永遠の愛を探して男たちを探している。
そのような噂が私に死を運んでくるのだ。なんと甘美な響きだろう。その死が、いつか私を蝕んでくれる。
喧しく吼えたてる獣の声を掻き消すようにシャワーの蛇口をひねった。
今日も望まぬ訪問者が私の邸宅の扉を開け、ロビーへと入ってきたようだった。
もっとも、人の手ではとてもではないが押し開けることのできない大きな扉は、私の魔法によって来客が来れば勝手に開くようになっている。
私は左右の壁に沿うようにして延びた大階段の上から、こちらを見上げる紳士に、あるいは己を紳士だと思い揺るがない愚か者に問いかける。
「来訪者様、私を狩りに来たの?それとも愛されに来たのかしら。」
「ここまでの美女にお目にかかれるとは思っていなかった。」
顔を紅潮させ、下卑た表情を浮かべる男に嫌悪ではなく、哀れみを感じ、長いドレスの袖で口元を隠した私は浅く溜息を吐いた。
男は尚も得意げに私を見上げ言った。
「魔女を騙った娼婦がこの館にいると聞いてやってきた。俺のような屈強な男を探しているのだろう?さぁ、私にお前の艶やかな肌を堪能させてくれ。」
どうやら魔女を信じない愚か者のようね。とてもあの者が永遠の時を生きる屈強な男とは信じがたかったが、その自信を疑っては殿方の誇りを踏みにじってしまうことになる。筋骨隆々であることが必ずしも私が望む者ではないと、数百年経った今も誰も理解してはくれないが、私だけは男たちの思考を理解できるのだから仕方がない。
私は両手を広げ、男に告げた。
「貴方様がまさに私が請い願う運命の方であるならば、私の試練も悠々と乗り越えてみせるでしょう。」
「御託はいい、早く私に抱かれればよいのだ。」
「それでは、私から貴方に贈り物を。」
そう言って、両の手のひらを打ち鳴らす。壁画として描かれていた大中小の獣たちが眠りから覚め、実態を帯びて男のいる広間へと姿を表す。
と、同時に外へと続く扉が締まり、まさしく私たち二人だけの空間と化した。
「なんだ、これは。」
「貴方が私の望むお方であるならば、その子たちを一人で制することができるはず。私を殺すこともできぬ可愛らしい生き物でございます。お戯れくださいませ。」
「やめろ、ふざけるな!!」
「一時間後、私はここに戻って参ります。その時、まだそこに貴方が立っていれば私の身体は貴方のもの。」
「待て!どうにかしろ。これじゃ死んじまう。」
「乙女には殿方と一夜を過ごすために準備が必要なのです。その間の暇つぶしにしかなりませんが、ご容赦ください。」
私は踵を返し、奥の間へと戻っていった。
男は二階にどうにか駆け上がろうとするが、獣たちの足は彼よりも早かったようだ。一匹、二匹と彼を引き止めようとして服や足に齧り付く。
せっかちなお方。たったの一時間も待てないなんて、紳士の風上にも置けないわ。
腰まで伸びた髪を三つ編みにしていたが、髪飾りを外して解いた。湯浴みでもしてこようと着ていたドレスを脱ぎ捨てる。後で、私が魔法で作った土人形がこれらをクローゼットに持って行ってくれることだろう。センスのいい洋服を選ぶのは私にしかできないから、後で必ず立ち寄るつもりだった。
東洋の魔女は永遠の愛を探して男たちを探している。
そのような噂が私に死を運んでくるのだ。なんと甘美な響きだろう。その死が、いつか私を蝕んでくれる。
喧しく吼えたてる獣の声を掻き消すようにシャワーの蛇口をひねった。
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