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第13話
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数百年ぶりに両親の墓参りをした後、私たちはそこここで愛し合った。愛しい人もまた長い月日を孤独に過ごしていたのであろう。その肌は熱く、重ねられた唇は常に貪るように、だけど決して私を傷付けない強さで、何度も何度も私の中を蹂躙した。
私はこの人の名前を知らない。どこから来て、なぜこの館を訪れ、私のどこに惹かれ、側にいることを決めたのか、私は知らない。
だけど確かなことは、彼は決して死なず、冷めることのない愛を私に示してくれたのだということ。そして私も、その強固な意志を試そうなどという愚かな真似をしなくとも、この身の全てを委ねてしまおうと考え、心のままに過ごすことを選んだということ。
感情が高ぶると燃え盛り始めるはずの私の身体は、今はなぜか彼を焦がしはしなかった。理由は分からないが、これもまた愛の力なのではないかと私は思う。
彼の上に跨り、時には組み伏せられ、あるいはその力強い腕で私を抱きかかえては、私の奥深いところで彼は果てた。
生まれて初めて感じた痛みは私と彼だけのものだ。
朝日が昇る頃、私たちは朝食の支度をしていた。と言っても汗で汚れた身を洗い流し、新しい服に着替えるだけのことだったが。
食堂へと向かう道中、玄関ホールに誰かが入ってくる気配を感じた。私は愛しい人を引き連れ、玄関ホールへと向かった。
「あら、東洋の魔女。今日は連れがいるのね。」
「名無しの魔女。貴女の方こそ、ちゃんと扉を使って入ってくるなんて珍しいわね。」
「そうだったかしら?人は歩くことしかできないから、扉が必要だっただけよ。」
「初めまして。名無しの魔女。私は…。」
と挨拶をしようとする彼を遮った。
「名乗らないで。その魂を囚われたくなければね。」
私は彼に背中に回って欲しかったが、彼は私を守るように私の目の前に立っていた。私は名無しの魔女に言った。
「ちょうどよかった。お願いがあるの。私にかけた呪いを解くことはできないかしら。」
「おや?どういった心境の変化なんだい?」
「貴女がずっと言っていたこと、何が本当の愛なのか分かったのよ。」
「ほう?今までの愛とは何が違うというのかい?」
名無しの魔女は玄関ホールから二階へと続く階段を昇ってきて、私たちのいる踊り場まで上がってきた。私は彼女の目を見てはっきりと言った。
「私は彼を傷付けたくない。側にいて長い長い時を共に過ごしたいと思ったの。あの呪いは今の願いに反してしまうわ。」
「そうかい。やっと本物の愛に辿り着いたということだね。」
私は目を疑った。名無しの魔女が優しそうに微笑んだかと思うと、無から巨大な釘を生み出し、目にも止まらない速さで愛しい人の胸に突き立てたではないか。
無敵だと思った彼は激しく吐血し、胸から赤い液体が次々に溢れてくる。
「おめでとう。お前は本物の愛によって、この世界に別れを告げることができるわ。」
「なぜ。なぜ!」
私は愛しい人の側に駆け寄り、倒れ込む彼を支えた。
「魔女との契約は絶対さ。お前も魔女なら知っているだろう?」
「そんな。でも。」
突然、心臓が握り潰されるような鋭い痛みが胸に走った。彼を支えることなど到底できず、二人は崩れ落ちた。
「愛しい人が死ぬ時、お前も共に死ぬ。長年の夢が叶ってよかったじゃないか。」
「私は…もう…そんなこと、望んでない…。」
悔しさで涙が滲む。なぜ私はあんな約束をしてしまったのだろう。数多の書籍に書いてあったではないか。人は愛する人の為だったら命をも投げ出すのだと。この屋敷に訪れる襲撃者たちは誰も彼も愛ゆえに死にに来たのではないか。助けられないと知りながら、一縷の望みを託して。
向かい合った彼の顔はどんどんと青白くなり、死期が近いことを告げていた。
「ごめん…なさい。」
「いいえ…愛しい魔女。貴女と共にあれるなら…どんな恐怖も…怖くありません。」
そして彼は私の手を掴んで言った。
「愛しています…貴女の行く場所が天国でも地獄でも…必ず貴女を追いますから。」
そう言うと彼は静かにその目を閉じた。
「私もです…愛しているわ…どこにいても…必ず…。」
彼の命の灯火が消えると共に私の視界も掠れ、やがて完全な暗闇になった。
私はこの人の名前を知らない。どこから来て、なぜこの館を訪れ、私のどこに惹かれ、側にいることを決めたのか、私は知らない。
だけど確かなことは、彼は決して死なず、冷めることのない愛を私に示してくれたのだということ。そして私も、その強固な意志を試そうなどという愚かな真似をしなくとも、この身の全てを委ねてしまおうと考え、心のままに過ごすことを選んだということ。
感情が高ぶると燃え盛り始めるはずの私の身体は、今はなぜか彼を焦がしはしなかった。理由は分からないが、これもまた愛の力なのではないかと私は思う。
彼の上に跨り、時には組み伏せられ、あるいはその力強い腕で私を抱きかかえては、私の奥深いところで彼は果てた。
生まれて初めて感じた痛みは私と彼だけのものだ。
朝日が昇る頃、私たちは朝食の支度をしていた。と言っても汗で汚れた身を洗い流し、新しい服に着替えるだけのことだったが。
食堂へと向かう道中、玄関ホールに誰かが入ってくる気配を感じた。私は愛しい人を引き連れ、玄関ホールへと向かった。
「あら、東洋の魔女。今日は連れがいるのね。」
「名無しの魔女。貴女の方こそ、ちゃんと扉を使って入ってくるなんて珍しいわね。」
「そうだったかしら?人は歩くことしかできないから、扉が必要だっただけよ。」
「初めまして。名無しの魔女。私は…。」
と挨拶をしようとする彼を遮った。
「名乗らないで。その魂を囚われたくなければね。」
私は彼に背中に回って欲しかったが、彼は私を守るように私の目の前に立っていた。私は名無しの魔女に言った。
「ちょうどよかった。お願いがあるの。私にかけた呪いを解くことはできないかしら。」
「おや?どういった心境の変化なんだい?」
「貴女がずっと言っていたこと、何が本当の愛なのか分かったのよ。」
「ほう?今までの愛とは何が違うというのかい?」
名無しの魔女は玄関ホールから二階へと続く階段を昇ってきて、私たちのいる踊り場まで上がってきた。私は彼女の目を見てはっきりと言った。
「私は彼を傷付けたくない。側にいて長い長い時を共に過ごしたいと思ったの。あの呪いは今の願いに反してしまうわ。」
「そうかい。やっと本物の愛に辿り着いたということだね。」
私は目を疑った。名無しの魔女が優しそうに微笑んだかと思うと、無から巨大な釘を生み出し、目にも止まらない速さで愛しい人の胸に突き立てたではないか。
無敵だと思った彼は激しく吐血し、胸から赤い液体が次々に溢れてくる。
「おめでとう。お前は本物の愛によって、この世界に別れを告げることができるわ。」
「なぜ。なぜ!」
私は愛しい人の側に駆け寄り、倒れ込む彼を支えた。
「魔女との契約は絶対さ。お前も魔女なら知っているだろう?」
「そんな。でも。」
突然、心臓が握り潰されるような鋭い痛みが胸に走った。彼を支えることなど到底できず、二人は崩れ落ちた。
「愛しい人が死ぬ時、お前も共に死ぬ。長年の夢が叶ってよかったじゃないか。」
「私は…もう…そんなこと、望んでない…。」
悔しさで涙が滲む。なぜ私はあんな約束をしてしまったのだろう。数多の書籍に書いてあったではないか。人は愛する人の為だったら命をも投げ出すのだと。この屋敷に訪れる襲撃者たちは誰も彼も愛ゆえに死にに来たのではないか。助けられないと知りながら、一縷の望みを託して。
向かい合った彼の顔はどんどんと青白くなり、死期が近いことを告げていた。
「ごめん…なさい。」
「いいえ…愛しい魔女。貴女と共にあれるなら…どんな恐怖も…怖くありません。」
そして彼は私の手を掴んで言った。
「愛しています…貴女の行く場所が天国でも地獄でも…必ず貴女を追いますから。」
そう言うと彼は静かにその目を閉じた。
「私もです…愛しているわ…どこにいても…必ず…。」
彼の命の灯火が消えると共に私の視界も掠れ、やがて完全な暗闇になった。
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