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密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ります!
■306 条件交渉
それから、話はあっという間に進んで、私は領主が暮らす本拠地でミツバイギフトの検証と実験を行うことを言い渡された。
「それでは、そなたたちもそれでよいな」
ブランドンと一番偉いのであろう騎士が、粗末な我が家でいかんなく貴族の権威を発揮している。
お父さんとお母さんが強張った顔つきで、のろのろとうなずく。
その後ろでは、青ざめた四人の兄弟姉妹が身を寄せ合っていた。
ああ……。いきなり、こんな日が来るなんて。
多分、トーマスとエリーズは両親と同じで、こうなることを予想していたんだろう。
ひょっとして、トーマスは私のギフトがばれないようにサポートするつもりで、あのとき手を挙げたのかもしれない。
ジュリアとハーネルは私と同じで寝耳に水。今もショックを受けているのが目に見えてわかる。
私ももっと考えておくべきだった。
大きく力を使わないである程度温存して、変化を緩やかに留めておけば……。
だけど、あの貧困の中で、私はミツバイギフトを使わずにいられただろうか。
それは多分無理、いや、絶対に無理。
そもそも、ギフトはこの村のみんなを幸せにするために使ってきたのであって、恐らく食糧には困っていない貴族や豊かな町の人たちのために使っても意味がない。
うん……、そうだよね……!?
どう考えても、優先順位が違うんだけど?
そう考えたら、やっぱり横暴だ。
この村に私がいないと、果樹園を発展、いや維持することもできなくなるかもしれないのだから。
「よし、では、行くぞグレイス」
ブランドンと騎士が同時に振り向いた。
ちょっと待って……! このままじゃだめ。考えろ、私。
私だけじゃない、私の家族が、私たちの村の運命がかかってる。
前世の私なら、こんなときなんていう?
ああ、やっぱり今は、子どもの振りをしてられない!
「その前に、ブランドン様、条件があります」
「なに?」
ぎゅっと拳を握って、ブランドンを見つめた。
不敬といわれて傷つけられるかもしれないけど、口を出すと決めたからには、なにもいわないより、なにもしないよりは、絶対マシにしてみせる!
「先ほど説明した通り、ギフトの発動には条件があります。私が長期的にここを離れれば、収量が落ちて、村人の生活が再び悪化する恐れがあります。ですから、ひとまず冬の間だけというのはいかがでしょうか?」
ブランドンと騎士が驚愕の顔つきに歪んだ。教養のない村の子供が、いきなり大人のように交渉を始めたのだから無理もないだろう。
家族たちは、ぎょっと目を見張って膠着した。
我に返ったらしき騎士が唐突に声を上げて髭を震わせた。
「若様になんたる無礼か!」
「いい、続けろ、グレイス」
「しかし……っ」
「だが、冬の間だけというのは却下だ。そもそも冬に結実する作物はない。それでは意味がない」
確かに。この村でもさすがに冬に種蒔きしたことはない。
「でしたら、一年ではどうですか? ここを離れる前に、家族や村人にできる限りのことをして行けば、ある程度は収量を落とさずに済むと思います。でも一年以上はだめです。ここまでせっかくみんなで果樹園を発展させてきたのに、無下に放り出すことはできません。それに、アグリ村の果物が領地の中央でも評判になっているのなら、ここで成長の望みのある産業を止めてしまうのは、領地としても避けたいのではありませんか?」
「ふむ……。お前のいう事は筋が通っているな。わかった、まずは一年としよう」
よっ、よし! なんだ、話せばわかるじゃん!
達成感に励まされて、次の話題を口にした。
「それと……、僭越ながら、本拠地への派遣にはお給金は出るのでしょうか?」
「なんだと! 貴様!」
眉を吊り上げて声を荒げる髭騎士。
私も家族全員も一緒になって震える。
けど、これが前世だったら、給料は当然の主張だ。労働には対価。労働には対価を!
「恐れながら……、もしもお給金がだめなら、私が村を離れたらそのぶん果物の収量、すなわち売上高が下がるのは目に見えています。そのぶん村が被る損金を、補てんしては頂けないのでしょうか?」
「ほう……?」
「村ではすでに利益を見越して、新しい苗木の購入や獣を遠ざけるための柵の補修を視野に入れているのです」
ちらりと震えるエリーズを見た。
計算ギフトがあるおかげで村人にも一目置かれ、細かくて信頼のおける数字を把握しているエリーズ。でも、未来のために村の利益を、次はどこへ注ぐかという話は村のみんなで相談している。当然私の耳にも入っている。
ブランドンがひどく興味深そうにして、黒い眼を光らせた。しばらく黙ったまま、こちらを見ている。
「ほう、算学の心得があるのか。だが、領地のものはいかなる土地、財産、人であっても、広くは領主のものだ。お前たちは領主の寛容にすがって、住まう土地を貸し与えてもらっているにすぎん。領主の名において、領主が管理する小娘をひとり村から本拠地へ移すのに、なぜ金を支払わねばならん」
え……っ! そ、そういう……!?
支配階級と労働階級って、そこまでの格差なの……!?
うう……っ! ここにきて異世界ギャップに直面か。
この価値観が当たり前なら、村はどれだけ利益を上げても搾取される一方だ。
なんとか村を守るには……。
「まあ、よかろう。そなたのギフトにはそれだけの価値がある。まずは一年、そなたの給金と村の損金を支払ってやろう」
えっ……、ほんとに!?
「ガーランド」
「しかし……」
「早くしろ」
「はっ」
騎士が甲冑の中に腕を入れると、革袋を取り出した。それを受け取ると、ブランドンは数枚のコインを私に手渡してきた。
「とりあえず、金貨三枚だ。そなたの要求に対して十分であろう」
うわ……、本物の金、この世界で初めて見た……。
「ただし、相応の働きをしてもらうぞ。それが叶わなかったら、返してもらうからな」
「は、はい……」
う……、子ども相手にも遠慮なく取りたてるんだろうな……。
「よし、では行くぞ」
「あっ、待ってください!」
私は今貰ったばかりの金貨を一枚ブランドンに差し出した。
「このお金で、村に教師を派遣してくれませんか?」
「なに?」
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