帝王の執着愛からは逃れられない ~桃の花 匂いたちたる 千と一夜~

国府知里

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 言葉を封じられて むさぼるようなキス。ああ、サイード様はコツをすっかり心得ている。敏感に所をねっとりと擦り上げ、力強い舌で僕の舌を上に下にと弄ぶ。

「ちゅっ、くちゅ、ふっ、んん」
「んっ、あっ、ちゅ、ちゅっ」

 冷たい視線からは想像もできなかった熱い口づけ。どうしよう。気持ちいい……。はあ……。
 それに、このように性に開けたサイード様を僕が満足させるだなんて……。ああ、なんて早まったことを言ったのだろう。
 突然キスがやむと、また乾いた声が降ってきた。

「フン……、楽しませるはずのお前のほうがそのような顔とはどういう了見だ」
「あ……」

 だ、だって……。サイード様はこれまでのイーサンシュラーの中でもだんとつにキスがうまい……。勝手に体が火照って、息が上がってしまう。呆けそうになっていた意識を正されて、思わず僕は横を向いた。熱くて赤くなっているであろう顔を隠したかったけど、僕がキスを気持ちよく感じていたことなんて、もうとっくにサイード様にはばれているはずだ。

「あひっ!」

 気が付くと、サイード様の熱い手のひらが僕の胸の上で寝間着を脱がしかけていた。ああ、突起に少し触れただけなのに。僕はもう声を上げてしまった。サイード様が麗しい眉間にしわを寄せて僕を怪訝そうに見た。

「まるで生娘のような反応だな……」

 き、生娘って……!? 歴々のイーサンシュラーに愛されてきた僕を捕まえて、そんなことを言うなんて……。でもどうしよう。サイード様を楽しませて差し上げなきゃいけないと思っているのに、体が勝手に……。サイードの手のぬくもりが、重さが、強さが、肌を通して僕の神経をやたらと刺激する。何度も体を重ねた相手ならいざ知らず、サイード様とは今日会ったばかりなのに、こんなの……。……ど、どうして……?

「あ、あの……」
「数々の男をその手練手管で虜にしてきたのだろう? それを早く見せてみろ」
「ちょ……ちょっと、ま、待って……」
「待て、だと?」

 サイード様がさらに深いしわを寄せて眉間を曇らせた。氷のようなブルーの瞳がナイフのようにチラッと光る。怖い……。だけど、なんて美しい……。サイード様は母君譲りだと言う麗しく整った、そして冷徹な表情で僕を見下ろした。その高貴で品のいい造りはまさに王族のそれそのもの。そしてなんとも言えない妖しさと色気。僕は思わず自分の立ち場を忘れて、その冷たい輝きに見惚れてしまった……。そのとき、一瞬サイード様の眉が緩んだ。

「ほう、そうか……」
「……え……」
「これがお前のその手練手管のひとつというわけだな」
「え……?」
「その無防備な仔猫のように潤んだ目で、男の欲をそそろうということか……。いいだろう、乗ってやる」
「えっ!?」

 ――ガブッ!
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