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シリーズ1【これぞ我がサダメ】
第31話 ただ、あなたのことを考えていただけなのに……。
しおりを挟むその翌日。
エマさんの最後の望みは、正式にジュリウス国王から伝えられた。
三国はエマさんのいう通りに、大地に刻まれた名前を花木を受け継ぐ皇女に与えることを決めた。
これで、花木を受け継ぐのは王家の女性も可能ということになった。
皇女達にとっては突然でかつ驚くべき進歩だね。
皇太子の人数が元々足りなかったハマル国と、ちょうど生まれたばかりの皇女がいるムタ国はさっそく、エマさんのつけた名前をもらうことになった。
生まれたときにつけられた名前の後に、その名前がつく。
たとえば、ハマル国の皇女のひとり、タリル皇女は、タリル・ステラ・ノーブルヒル。
ステラというこの名前自体も、花木とともに永久に受け継いでいくことが決められた。
はじめは王女を改名させることが検討されたけど、皇子が受け継ぐ場合が来たときには不便だろうということで、セカンドネームとなったそうだ。
わたしはハマル国の花木を受け継ぐことに決まった皇太子と皇女たちに加護を贈った。
そのあと二国へも行った。
あっちこっちと渡り歩くのは、なかなか骨が折れたけれど、責任を果たせて、今はほっとしてる。
感動したのは、ガジュマ国へいったとき。
失われた花木のあった場所に書かれていたのが、わたしの名前だったこと。
エマさんが、名前の所以は自分が愛した者たちだといっていた。
まさか、わたしの名前があると思わなかったから、本当にうれしかった……!
だから、ガジュマ国にはいつかわたしと同じ名前を持つ皇女が誕生するはずだ。
花木の加護を引き継いだ皇女について、結婚に際して加護をどうするかという件は、今現在も王家が揃って検討中。
わたしからは地球では現代のような女性の社会進出が叫ばれる以前から存在する女王のことを話した。
卑弥呼やエリザベス女王やクレオパトラ。
他にもまだまだたくさん女性君主はいる。
それぞれどんなことをした人なのか、もっと勉強しておけばよかったなあ。
女性の社会進出についても、知性や芸術性など男性に劣らないどころかたくさんの可能性があること、やる気のある女性や女性ならではの視点が社会で責任ある役割を果たしたり、人々の暮らしを良くしたりしていることも付け加えた。
実際、クリスティさんは加護まで授かっていながら、単に女性だという理由だけで仕事につけなかった。
それが今ではこの世界における和菓子作りの第一人者で、大陸中からクリスティさんのもとにお菓子を学びに人が集まっている。
そういうことが今後もこの世界でもできるのかどうかを慎重に考えてみるそうだ。
わたしとしては今後のことを考えると、女性のスポーツ普及や人前で歌ったり踊ったりすることをもっと広めたい。
そうしたら、いつかこの世界でも女子バレーチームや、フェイデル国版クライベイビーが作れるかもしれないから。
そうだよね。まずは検討してみるのがいいかもしれない。
地球の文化や文明がすべてよくて、正しくて、役に立って、この世界とこの時代にもちゃんと適応するのかといわれたらいろいろと疑問。
だから、この国の人たちがしっかり考えて、試してみたりしながら、取捨を選択すればいいと思う。
ひょっとしたら、この国でもいつかは女性が王位を継承するかもしれない。
でも、それは急がなくてもいい。
この国のペースで進んでいけばいい。
ただひとつ残された問題は、エマさんのことをどのように国民に伝えるかということ。
それも、各国の国王同士で話し合い中。
意見を聞かれたので、わたしはこう答えた。
「できることなら、すべてを明らかにした方がいいと思います。
星渡りの民、王様も、みんな間違いを犯すものだから。
星渡りの民も普通の人だということを覚えておいて欲しいです。
それを記録して未来のために役立ててもらうことは意味があると思います。
わたしの次に来る星渡りの民がどんな人かはわかりませんが、少なくとも同じ間違いを犯すリスクは減らせます。
この世界には生きる人と、渡ってきた星渡りの民が、その時その時に、正しい判断やベストな対応をできるように材料を残しておくべきです」
えらそうなことを言っちゃったけど、わたしは本当にただの一般市民の感覚しか持っていない。
この世界での暮らしにはそれなりに慣れたけど、わたしだったらそう思うということしかいえない。
だけど、どんな結論がでたとしても、わたしはこの世界の皆さんの判断を尊重できる態度でいたい。
例えば、もしもわたしがわたしの勝手で花木の加護を欲しがったり、人々の命や財産をむやみに搾取しようとしたなら、それは各国の王家の人たちに止めて欲しい。
わたしだってエマさんと同じ立場だったら、同じようなこと間違いや失敗を犯すかもしれない。
わたしは神様でもなんでもなくて、普通の人間にすぎないから。
だからこそ、星渡りの民も、この世界の人が大切な人を愛したり日々を生きることを大事にしているのと同じような、普通の感覚をもった人間なんだと言うことを、忘れてほしくないかな……。
それが、教訓として意味があるのであれば、エマさんの残してくれた遺産になるはずだから。
***
ガジュマ国から帰国して1週間。
わたしはゆっくりのんびりさせてもらっている。
アデル様は帰るなり公務や事後処理や報告に追われていて、とっても多忙。
それでも、仕事の折を見てわたしを訪ねてくれる。
「サダメ様、失礼いたします」
「アデル様、ちょうどいまお茶にしようと思っていました」
「もちろん、それをあてにしてきました」
「薄茶にします? 濃茶にします?」
「濃茶でおねがいします。まだ仕事が残っているので、頭をすっきりさせておきたいのです」
濃茶を練って、クリスティさんのお菓子と一緒に振舞う。
清流(せいりゅう)と名付けられた新作の羊羹には、表面に特製の型枠を使って寒天が流してあって水面を表現している。
つぶ小豆は水底の小石のよう。
もはやクリスティさんのお菓子は、日本の和菓子顔負け。素晴らし~!
「ほう、これは実に涼し気ですね」
「クリスティさんが寒天の扱いをものすごく研究してくれて。
本当に夏の清流のようなきらきらしたお菓子になりました」
「いただくのが惜しいですね。でも、お腹が空いているので遠慮なくいただきます」
「もしかして、またお昼抜きですか?」
「はい、サダメ様との時間をできるだけ多く作りたくて」
アデル様がにっこりと笑う。
はあ、もう……。
このイケメン王子様は、仕事もできて、こんなにまめで、気も使ってくれて……。
もう、いうことなしの完全無欠だよ。
その言葉だけでうれしくなる。
顔が緩んじゃうよ。
ひと通りお茶を楽しんだ後、アデル様が、それで、と咳払いをした。
「結婚式なのですが、秋ではいかがでしょうか?」
「えっ、秋?」
「あっ……。い、急ぎすぎたでしょうか?
確かに、準備はいろいろと大変なのですが……」
「あ……、えっと、そうじゃなくて……。
わたし、勝手に6月(シエル)にするんだと思い込んでました……」
「え……」
アデル様が眉を上げてわたしを見る。
「だって、あの、6月(シエル)はアデル様とわたしにとって特別な月だし、地球でもジューンブライド……あ、シエルブライドっていうか、6月(シエル)に結婚式を挙げるのは特別に縁起がいいっていうか……」
「な、なるほど……」
「でも、別に秋でも……。
秋は秋で素敵な季節ですしね」
「そ、そう、いうことでしたら……」
アデル様があきらかに肩を落とした。
あ、あれ……?
もう話を進めちゃってたのかな?
「あの、もし話を進めてしまったとかなら、ぜんぜん秋でいいと思います」
「い、いえ、そういうことでしたら、ぜひ6月(シエル)に……!
まだ、半年以上も……先、ですが……」
落胆がはっきり映るアデル様。
ああ、そっか、一旦先延ばしにしちゃったから、できるだけ早くって、わざわざ気を使ってくれたのかな?
「アデル様、わたしのために気を使ってくれたんですか?」
「あ……、あの、その、わ、私が一刻も早く、式を挙げたかったので……」
かあっとアデル様の頬が染まる。
え、なんか……。
きゅ、急に照れるんですけど……。
「エマ様から加護を受け継いでから、サダメ様はまるでこの世のものとは思えぬほどお美しくなられて……。
正直なことを申せば、婚約しているとはいえ、ふ、不安になることも多々あり……」
「えっ!?」
不安って……。
わたしが心映りするかもしれないっていうこと?
アデル様が、じっとわたしを見つめ、困ったようにわずかに口をゆがめた。
「横やりや悪い虫を追い払うのが大変で、つい気をもんでしまうのです……。
サダメ様は無意識のうちに、皆を魅了してしまいますし……」
「え……っ?」
わたし、全然そんなつもりないのに……?
アデル様がもっと困ったような顔つきでため息を吐いた。
「その顔……、わかっていませんね……?」
と、といわれても……。
そんなことあったかな……?
ていうか、神格化バイアスはずうっと続いているから、わからない……。
そんなことより、わたしの気持ち、伝わってないのかな……?
「あの、アデル様……。
わたし、アデル様以外の人のことなんて、1度も考えたことありません。
アデル様と家族になりたいと思っていると、家族を作っていきたいと思っていると、どうやったらわかってもらえるでしょうか……?」
アデル様の顔が、ぶわっと熱くなった。
うわあ……、美丈夫の最紅潮。
こんなの見せられたら、こっちも照れちゃうよ……!
2人でどきどきしながら無言で見つめあってしまう。
アデル様がそっと手を差し伸べてきた。
わたしはその手に手を重ねて、ぬくもりと湿度を味わう。
「私も思いは同じです……!
それでは……、結婚式を致しましょう、6月(シエル)に!」
「はい……!」
来年の6月(シエル)……!
ついに、わたしとアデル様の結婚式が決まった。
すごく、うれしい!
なんだか、くすぐったいようなそわそわした気分。
アデル様が優しくほほ笑んでいる。
わたしも笑顔を返した。
「なんだか、急に実感がわいてきました。
ようやく、わたしたち家族になれるんですね、アデル様……!」
アデル様の体温がまだ上昇。
はっ、わ……!?
アデル様が握ったわたしの手を親指ですりすり……。
その感触が……っ……。
そのそわそわした感触に、胸の奥が反応する。
わたしの体温も爆上がる。
そのときようやくわかった。
アデル様が結婚式を急いでいたのって……。
う、うひゃあっ!
考えたら、急にどきどきが……っ!
アデル様、その顔……。
もうだめ!
……恥ずかしくて見れませんっ!
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