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ⅱ・オニキスの闇
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母と呼んでいた女がいた。
僕が六つの時、暫く部屋に籠って出てきたと思ったら、女の大きかった腹が凹んでいた。
「あなたには関係ないこと」と女は一刀両断した。
時折、庭で見掛けるねえやの顔には、醜い火傷があった。
ねえやは、何処の誰とも知れない子供を背負っていた。
僕に子供の頃のあどけない記憶は殆どない。
飾り硝子のように、継ぎ接ぎに存在するだけの記憶──
ある日、
何の紹介もなく、夕飯の末席に子供が着くようになった。
それなりの格好をしているが、古ぼけた着物を着せられている。
痩せぎすで陰鬱な顔をして、俯いている。
食卓の献立も、申し訳程度しか用意されていない。
僕は、女に「誰?」と、短く聞いた。
「あなたには関係ないこと」と、女は言った。
その日から、その子は夕飯の食卓を共にすることはあったけれど、何も話さないようすに聾唖なのだろうかと思っていた。
十二の時だったと思う。
剣道の手習いで訪れていた師範の家に、楽しそうな笑い声が響いていた。
庭に回ると、師範の弟と子供が遊んでいる。
師範の弟は僕の二歳上で、面識はあった。
「よう」
と、声を掛け合える程度には気の置けない仲だ。
「誰?」と、短く聞くと
「何を言ってるんだ?君の妹だろう?」
と言われた。
妹…?
成程、その子は食卓の末席にいる子だった。
その子は師範の弟の影に隠れ、
「はじめまして」
と言った。
僕は、頭を鈍器で殴られたような錯覚に陥った。
今、僕の膝の上で、羽根を切られた小鳥のように力なく羽撃(はばた)いている妹を、初めて意識した日だった。
エクリュのドレスは、小さな子どもが踞ってるように、窓側に捨て置かれているのが目の端に入る。
所詮は脱け殻。
もう、いらないもの。
「……ひっ、あ……っ」
彼女の小さな口から、踠くように紡がれる音。
僕の共犯者であり、彼女の恩人であり、僕に妹を引き合わせてくれた師範の弟でもある幼馴染み。
彼女の白い胸の頂を、滴る果実を味合うように舐るのに夢中だ。
僕はそれを見下ろし、彼女の白く滑らかな項に舌を這わす。
いちいち反応する身体がなんとも憐らしい。
「いいかい、筒井筒よ。
彼女はまだ、自分の昂りかたも知らないんだ。
君がもっと丁寧に、その熱を教えてあげなくては」
僕の声に、彼奴は目線だけ向けるが、その瞳に力はない。
一度《ひとたび》、軍装を纏えば鉄面皮と称される若き士官。
包囲陣にあっても揺るがぬ双眸が、今は令妹の白い胸に溺れ溶かされている。
得物を扱うその武骨な指先は、淡雪に触れるかのように震え、その様はいっそ滑稽だ。
「郭には行かなかったのかい?勉強しとけと言っただろう?」
首を振りながらも、彼奴の舌は舐るのに忙しい。
「我が令妹の双峰は、そんなにも旨いか?」
「……ああ、今まで味わった、どんな果実よりも瑞々しい……」
彼奴は、毅然として宣う。
致し方あるまい。
僕は、彼女の背中に、舌を這わせた。
小刻みに揺れる妹の身体。
同じところばかりを執拗に攻められて、
忘我の逃し方さえ知らず、
時折、涙を湛えた瞳で僕に訴える。
びくっと身体が跳ね、戒めた腕がだらりと惰性で落ち、妹の胸を貪る彼奴の頭に直撃する。
荒らげた呼吸を取り戻すのに必死で、自分のしたことに気づいていない妹。
突然の衝撃に、事の次第が読み込めていない彼奴。
なんとも珍妙な様相だ。
「なあ、我が刎頸よ。そろそろ僕にもその果実を味わわせてはくれまいか?
それとも壟断するのかい?」
僕がそう言うと、彼奴はふらふらと立ち上がり、寝室へと向かった。
僕の腕の中で、絶え絶えの息をする小鳥。
意識を飛ばしてないのは、彼女の強さなのか。僕らへの信頼なのか。
彼女の手に巻き付けておいた戒めを解いてやり、おおよそ涙を拭うには役に立たないだろうそれで、せめて彼女の頬の水滴を払い、寛げていた足を閉じてやる。
彼女の瞳がゆるりと動き、僕を捉える。
「……お兄様……なぜ?」
苦し気に問うそれは、なぜこんな無体をということだろう。
「君が……愛おしくて堪らないのだよ」
それは、何よりも正しくて間違っている答え。
「……なぜ……」
僕は彼女の胸を掬い、その先を摘まむ。
ぴくっと、彼女の腰が跳ねる。
僕の手を払おうと、彼女の手が動くが、力無く添えられるだけとなっている。
「……君の旦那様の用意がすむまで、待っておいで」
そうしたら、天衣無縫な獣の宴を始めよう。
コンコン、と扉を叩く音がして「お食事をお持ちしました」と声がする。
今この館には、僕らとねえやしかいない。
「どうぞ」と告げ、迎え入れる。
僕は今、手が離せないからね。
恭しく入室したねえやの手には、果物を盛り付けたディッシュと、デキャンタがトレイに乗せられている。
ちらりと僕らの様子に目をやり、卓子にそれらと玻璃の洋杯を並べる。
軽く溜め息を吐かれた気がする。
「あちらの、ご婚礼の装束を片付けても?」
と、素っ気なく言うと僕の返事も待たずに、仏蘭西窓へ向かう。
折り重なっていたドレスからペチコートを抜き、手早く裏返し、ドレスと共に小脇にすると「失礼します」と、目も合わさずに退席した。
窓からの陽は、長い影を作っている。
「意外と長く興じたものだな」
慈しむはずの妹の身体が、冷たくなっていることに慮ることさえ失念していた。
寝室から、彼奴が現れる。
「香を炊いてきた。灯りは直ぐ灯せる」
若干説明的な発言を、骨子を固めることと理解する。
「それと、食事との声が聞こえたから……余計な世話かもしれんが」
と、躊躇いがちに毛織物の肩掛けを差し出してくる。
「いや、気が利くじゃないか。ありがとう。
食事にしよう」
彼奴から受け取った肩掛けで彼女を包むと、「ほぅ……」と、小さく安堵の息を漏らし、頭を僕に傾けた。
先の事など、まるで想定していないのだろう。
無垢な小鳥は確りと前を合わせ、微睡んでさえいる。
暫し、羽根を憩めておくといい。
然り気無く彼奴に目をやると、果物の中から水蜜桃を手にしている、
「真っ先に水蜜桃に食らいつくとは。これより旨いものは無かったのではないか?」
彼奴には嘲笑気味に声をかけてから、肩掛けで隠している令妹の乳房を曝け出す。
「……ぅ!」
小さく漏らしながら、潤む目で睨め付ける顔が、なんとも頑是無い。
「それは特上の甘味。これは好物なのだ。致し方あるまい」
彼奴の口から出るとは思えないエスプリに感心する。
「ふうん……そうきたか」
まあ、彼奴の事だから、本気なのだろう。
腕の中の小鳥が、もぞもぞと動きだし、
「……お兄様……私にも、何か分けてくださいまし。覆盆子はございますの?」
と、問うてきた。
今まさに弄る手の中にあると言いそうになったが、あまり揶揄いすぎて厭われるのも本意ではないので、桑の実を摘む。
「口を開けて」
これ見よがしに小鳥の前に見せつける。
「お兄様……素直に食べさせて貰えませんの?」
「ほら、あーん」
「……もぉ……」
観念し、口を開き目を閉じる。
舌の上に桑の実を潰して汁を溢しながら、胸先の隆起に爪をたてる。
「……っう……」
令妹の白い喉が伸びる。
ごくりと、彼奴の喉が太い音を出す。
水蜜桃の果汁を、口端から滴らせている。
なら、今の音は……?
──だから、郭に行っておけと言ったのに。
「汁が垂れてるぞ」
周章てて袖で汁を拭う彼奴を横目に、桑の実で濡れた己の指を舐める。
「……もっと、下さいまし」
令妹の手が、その手に伸びた。
その仕草に、ほくそ笑む。
いいだろう。
僕が与えられるものは、何でもあげよう。
覚悟しておいで。
すっかり日が落ちた部屋に、ねえやが灯りをつけに来た。
空いた皿を片付けながら、「お湯の用意は出来ております」と告げ退室する。
なるほど、それも一興か。
彼奴らも汁まみれの事だし、湯で流すのも良かろう。
「おい、腹心の友よ。風呂に入るぞ。妹を抱えろ」
「誰が腹心だ!」
「いいから、行くぞ。同志」
彼奴は僕の腕から妹を取り戻すと、肩掛けを整えて肌をくるんだ。
湯殿に向かう廊下で、彼奴に抱かれている妹が口を開いた。
「私も、ご一緒ですか?」
「君らは初夜なのだよ。何の気兼ねがあろう?」
当惑する、幼気な顔。
「……お兄様も、ご一緒ですか?」
「僕を仲間外れにするのかい?寂しいなあ」
軽口で謀る。
「滅茶苦茶な理屈だが、それを通すのが君の兄だ。降参するしかない」
彼奴と、僕の顔をじっと視界に入れた後、妹は大きく溜め息を吐いた。
そして、
「……存じております」
と、目を伏せた。
そう思われてるのか。
愉快にさえ思うぞ?
湯殿に入ると、程よく糊の効いた浴衣が三着、褌二丁と揃えられていた。
「僕は先に入るよ」
二人をおいて、着ているものを脱ぎ捨て、湯船に浸かる。
温めの湯が、これからしでかす非道に沸く頭を鎮める。
仕切り戸が開く。
彼奴の陰に隠れ、手拭いで遮切れない肢体を捩りながら、こちらを覗いている。
「暫し、ゆるりと過ごそうじゃないか」
と言うに、彼女は眉を顰めている。
舌の根も乾かぬうちに暴くことがばれているのだろう。
それはそれで構わないけど。
「髪の油はきれいに落としなさい。綺麗な髪が台無しになるからね」
湯船の中から尤もらしいことを口にする。
そんなことで、気が楽になるとも思わないけれど。
怯えていただけの小動物は思いの外、緊張を解いたようで和顔する。
無造作に湯から上がると、妹は彼奴の後ろに完全に隠れ、目を背けた。
面食らう僕に、間に立つ彼奴が懸念し、妹から何かを耳打ちされている。
「彼女はまだ、未通子なのだから、そんなものを見せびらかすものじゃない」
散々揶揄ってきた腹癒せか、彼奴がしたり顔に言う。
ああ。
「まずは心友程度のもので、慣れるのが丁度いいからな」
一拍おいて、意味が通じた彼奴が反駁する前に、
「湯に浸かれ。ここで、我が令妹の身体を冷やすのは元も子もない」
と、二人を湯に浸からせた。
「縁に手を掛けて。髪を垂らすといい。鋤いてあげる」
彼奴と湯船にいる、妹の髪に手を伸ばす。
「湯船に浸かったまま、お兄様に髪を鋤いて頂くのは、お行儀が悪すぎます」
弁えているのは美徳だ。
秀外恵中ではあるけれど。
「何。無体の詫びだ。同士よ、令妹の身体を解すのは構わないが、努々徒してはいけないよ」
彼奴には釘を刺しておこう。
「心得てるさ。義兄上様の目論見に吝かでない。それより、手桶をくれ、彼女の肩が冷えきってる」
「気が利くな。そうやって我が令妹にひれ伏しておけ」
軽口の応酬に、我が令妹は堪りかねて、声を張る。
「お兄様!何て事を仰ります。旦那様も私にお気遣い為さりませぬな」
粛々と、妹の肩に湯を掛けていたのを止めた彼奴は、妹の指先に口付ける。
「俺は、君の為なら……肩に湯を掛け続けることくらい厭わないよ」
……流石に外連味が過ぎないか?
「そいつは体力莫迦なんだから、やらせとけ。君はもっと我儘でいい」
“本当の事”で、煙に巻いておこう。
正直、妹の髪はこれ以上手を加えれば、逆に痛めてしまうくらいに整えられていた。
ねえやの仕業だろうが、あの短時間にここまでしたとは、全く頭が下がる。
妹の縁を掴む指先に力が入り、吐息が漏れている。
湯の中で余計なことをしてるのか。
これだから生息子はたちが悪い。
「貴様の涎塗れの乳房は良く良く洗っておけ。逆上せさせるなよ」
妹の髪を櫛で纏め、先に上がると脱衣所にねえやが待っていた。
乾いた手拭いを渡され、水気を拭い褌を締める。
拡げられた浴衣に袖を通し、帯を締める。
「先に待ってるから、後は頼む」
と伝えて、部屋に戻る。
部屋に戻ると、お茶が用意されていた。
淹れた後、時間をおいたもので、火照った身体には心地好い。
窓からの陽の光はすっかりなくなっていて、作られた灯りが部屋を照らす。
僕はお茶で喉を潤してから、寝室へと向かった。
部屋の中には職人の贅を凝らした、結婚祝いと称した寝台が据え付けてある。
無闇に大きな寝台を、妹は大きすぎではないかと懸念したけれど、一人で過ごすわけではないのだからと言い含めた。
僕の言葉を察した彼女は、頬を耳まで真っ赤にして大層いじらしい顔をした。
二人とも言ってないけどね。
部屋の全ての瓦斯灯に火を入れた。
僕は寝台の褥に身を埋めて、後は主役を待つこととしよう。
案外早く、二人はねえやと戻ってきた。
「それでは、お休みなさいませ」
と、ねえやは扉を閉めて居室の灯りを落としているのだろう。
「……どうして、お兄様が……」
「またその話かい?時に、愚弟は彼女の肢体は一糸纏わず見たのだろう?」
「間借りなりにも妹婿に愚弟は随分な物言いだな。ああ、お先に全てを視認したぞ」
「旦那様……?」
「ならよい。こちらにおいで」
戸惑う妹の背を、彼奴は軽く押す。
よたよたと寝台の脇にたどり着く妹。
体を起こし、妹の前に座り直し、妹を見上げる。
後ろには、彼奴が妹の肩を押さえている。
肩越しに彼奴の顔を見て、僕の顔を見る。
「……お兄様」
妹の胸の前で、頑なに組まれた腕。
僕は胸の下で結われた帯に手を掛ける。
時間を掛けて、結び目を解き引き抜く。
「……お兄様、お痛が過ぎませんか……」
無防備な下半身の合わせの奥に、繁みを見付けたことに気付いているのだろうか。
僕は自分の帯をほどくと、彼女の細い手首を掴み、抗う暇も与えず僕の股座へと引き寄せた。
「……お痛なら、良かったろうにね」
背後から抱き締めて、彼女の耳に直接流し込むように、言葉を吐く。
逃げようと足掻く彼女の顎を後ろから掬い上げ、無理やり横を向かせて、その唇を塞いだ。
ゆっくりと、彼女の足を広げながら。
視界の端で、己の浴衣を剥いだ彼奴が寝台に上がる。
彼女の足の間で、膝をついて僕らを見下ろしている。
昂り始めた彼奴を正面に据え、僕は彼女を後ろから組み敷いたまま、浴衣の合わせを左右に大きく割り広げた。
袖を通したままの浴衣は、そのまま彼女の腕の自由を奪っていた。
それなのに、曝されている肢体。
僕の胸に預けられた頭の重み。
彼女が精一杯捩る体を、僕は力で押さえ込む。
先ずはこの胸の果実を頂こう。
乳房を手に納め、感触を楽しむ。
「……っ!」
彼女の口からは、声にならない音が、漏れ始めている。
卑猥な音を立て、彼奴が茂みに頭を埋めている。
僕は、彼女の顎を正面に向かせた。
「ほら、ご覧。君の旦那様は、今度は茂みの中に好物を見付けたようだよ」
「……ゃあ」
「どうだい?肝胆相照。こちらとそちらはどっちがお好みだい?」
「……ひっ、あぁ!」
「どちらの果実も最高だ」
「そうか、なら、僕もご相伴に預かるとしよう」
胸の隆起に舌を這わす。
片方は指で強く潰し、片方は舌で舐める。
時折、彼奴が見せたように大きく口に含む。
歯をたて、舌先で突く。
「あぅ……あ、ひぃっ」
頭がのけぞり、僕の胸板に熱い衝撃を刻む。
初めての淡い絶頂に、君の頭は今、どうなっているだろう?
けれど、君の旦那様は、君が正気を取り戻すのを待ってなどくれないようだよ。
「ほら、見てごらん」
僕は彼女の顎を掴み、その視線を、足の間で膝をつく彼奴の股間へと固定した。
乱暴に引き剥がされた褌の奥から、今にも爆ぜんばかりに脈打つ「獣」が姿を現している。
助けを求めるように僕を仰ぎ見る、その縋るような瞳。
僕は答えの代わりに、濡れた睫毛を舐めとった。
然して、彼女の腰を後ろから力強く、彼奴の猛りへと突き出した。
「さあ、照準を間違えるでないよ」
我が妹は声も出せず、泣いてしまった。
僕が六つの時、暫く部屋に籠って出てきたと思ったら、女の大きかった腹が凹んでいた。
「あなたには関係ないこと」と女は一刀両断した。
時折、庭で見掛けるねえやの顔には、醜い火傷があった。
ねえやは、何処の誰とも知れない子供を背負っていた。
僕に子供の頃のあどけない記憶は殆どない。
飾り硝子のように、継ぎ接ぎに存在するだけの記憶──
ある日、
何の紹介もなく、夕飯の末席に子供が着くようになった。
それなりの格好をしているが、古ぼけた着物を着せられている。
痩せぎすで陰鬱な顔をして、俯いている。
食卓の献立も、申し訳程度しか用意されていない。
僕は、女に「誰?」と、短く聞いた。
「あなたには関係ないこと」と、女は言った。
その日から、その子は夕飯の食卓を共にすることはあったけれど、何も話さないようすに聾唖なのだろうかと思っていた。
十二の時だったと思う。
剣道の手習いで訪れていた師範の家に、楽しそうな笑い声が響いていた。
庭に回ると、師範の弟と子供が遊んでいる。
師範の弟は僕の二歳上で、面識はあった。
「よう」
と、声を掛け合える程度には気の置けない仲だ。
「誰?」と、短く聞くと
「何を言ってるんだ?君の妹だろう?」
と言われた。
妹…?
成程、その子は食卓の末席にいる子だった。
その子は師範の弟の影に隠れ、
「はじめまして」
と言った。
僕は、頭を鈍器で殴られたような錯覚に陥った。
今、僕の膝の上で、羽根を切られた小鳥のように力なく羽撃(はばた)いている妹を、初めて意識した日だった。
エクリュのドレスは、小さな子どもが踞ってるように、窓側に捨て置かれているのが目の端に入る。
所詮は脱け殻。
もう、いらないもの。
「……ひっ、あ……っ」
彼女の小さな口から、踠くように紡がれる音。
僕の共犯者であり、彼女の恩人であり、僕に妹を引き合わせてくれた師範の弟でもある幼馴染み。
彼女の白い胸の頂を、滴る果実を味合うように舐るのに夢中だ。
僕はそれを見下ろし、彼女の白く滑らかな項に舌を這わす。
いちいち反応する身体がなんとも憐らしい。
「いいかい、筒井筒よ。
彼女はまだ、自分の昂りかたも知らないんだ。
君がもっと丁寧に、その熱を教えてあげなくては」
僕の声に、彼奴は目線だけ向けるが、その瞳に力はない。
一度《ひとたび》、軍装を纏えば鉄面皮と称される若き士官。
包囲陣にあっても揺るがぬ双眸が、今は令妹の白い胸に溺れ溶かされている。
得物を扱うその武骨な指先は、淡雪に触れるかのように震え、その様はいっそ滑稽だ。
「郭には行かなかったのかい?勉強しとけと言っただろう?」
首を振りながらも、彼奴の舌は舐るのに忙しい。
「我が令妹の双峰は、そんなにも旨いか?」
「……ああ、今まで味わった、どんな果実よりも瑞々しい……」
彼奴は、毅然として宣う。
致し方あるまい。
僕は、彼女の背中に、舌を這わせた。
小刻みに揺れる妹の身体。
同じところばかりを執拗に攻められて、
忘我の逃し方さえ知らず、
時折、涙を湛えた瞳で僕に訴える。
びくっと身体が跳ね、戒めた腕がだらりと惰性で落ち、妹の胸を貪る彼奴の頭に直撃する。
荒らげた呼吸を取り戻すのに必死で、自分のしたことに気づいていない妹。
突然の衝撃に、事の次第が読み込めていない彼奴。
なんとも珍妙な様相だ。
「なあ、我が刎頸よ。そろそろ僕にもその果実を味わわせてはくれまいか?
それとも壟断するのかい?」
僕がそう言うと、彼奴はふらふらと立ち上がり、寝室へと向かった。
僕の腕の中で、絶え絶えの息をする小鳥。
意識を飛ばしてないのは、彼女の強さなのか。僕らへの信頼なのか。
彼女の手に巻き付けておいた戒めを解いてやり、おおよそ涙を拭うには役に立たないだろうそれで、せめて彼女の頬の水滴を払い、寛げていた足を閉じてやる。
彼女の瞳がゆるりと動き、僕を捉える。
「……お兄様……なぜ?」
苦し気に問うそれは、なぜこんな無体をということだろう。
「君が……愛おしくて堪らないのだよ」
それは、何よりも正しくて間違っている答え。
「……なぜ……」
僕は彼女の胸を掬い、その先を摘まむ。
ぴくっと、彼女の腰が跳ねる。
僕の手を払おうと、彼女の手が動くが、力無く添えられるだけとなっている。
「……君の旦那様の用意がすむまで、待っておいで」
そうしたら、天衣無縫な獣の宴を始めよう。
コンコン、と扉を叩く音がして「お食事をお持ちしました」と声がする。
今この館には、僕らとねえやしかいない。
「どうぞ」と告げ、迎え入れる。
僕は今、手が離せないからね。
恭しく入室したねえやの手には、果物を盛り付けたディッシュと、デキャンタがトレイに乗せられている。
ちらりと僕らの様子に目をやり、卓子にそれらと玻璃の洋杯を並べる。
軽く溜め息を吐かれた気がする。
「あちらの、ご婚礼の装束を片付けても?」
と、素っ気なく言うと僕の返事も待たずに、仏蘭西窓へ向かう。
折り重なっていたドレスからペチコートを抜き、手早く裏返し、ドレスと共に小脇にすると「失礼します」と、目も合わさずに退席した。
窓からの陽は、長い影を作っている。
「意外と長く興じたものだな」
慈しむはずの妹の身体が、冷たくなっていることに慮ることさえ失念していた。
寝室から、彼奴が現れる。
「香を炊いてきた。灯りは直ぐ灯せる」
若干説明的な発言を、骨子を固めることと理解する。
「それと、食事との声が聞こえたから……余計な世話かもしれんが」
と、躊躇いがちに毛織物の肩掛けを差し出してくる。
「いや、気が利くじゃないか。ありがとう。
食事にしよう」
彼奴から受け取った肩掛けで彼女を包むと、「ほぅ……」と、小さく安堵の息を漏らし、頭を僕に傾けた。
先の事など、まるで想定していないのだろう。
無垢な小鳥は確りと前を合わせ、微睡んでさえいる。
暫し、羽根を憩めておくといい。
然り気無く彼奴に目をやると、果物の中から水蜜桃を手にしている、
「真っ先に水蜜桃に食らいつくとは。これより旨いものは無かったのではないか?」
彼奴には嘲笑気味に声をかけてから、肩掛けで隠している令妹の乳房を曝け出す。
「……ぅ!」
小さく漏らしながら、潤む目で睨め付ける顔が、なんとも頑是無い。
「それは特上の甘味。これは好物なのだ。致し方あるまい」
彼奴の口から出るとは思えないエスプリに感心する。
「ふうん……そうきたか」
まあ、彼奴の事だから、本気なのだろう。
腕の中の小鳥が、もぞもぞと動きだし、
「……お兄様……私にも、何か分けてくださいまし。覆盆子はございますの?」
と、問うてきた。
今まさに弄る手の中にあると言いそうになったが、あまり揶揄いすぎて厭われるのも本意ではないので、桑の実を摘む。
「口を開けて」
これ見よがしに小鳥の前に見せつける。
「お兄様……素直に食べさせて貰えませんの?」
「ほら、あーん」
「……もぉ……」
観念し、口を開き目を閉じる。
舌の上に桑の実を潰して汁を溢しながら、胸先の隆起に爪をたてる。
「……っう……」
令妹の白い喉が伸びる。
ごくりと、彼奴の喉が太い音を出す。
水蜜桃の果汁を、口端から滴らせている。
なら、今の音は……?
──だから、郭に行っておけと言ったのに。
「汁が垂れてるぞ」
周章てて袖で汁を拭う彼奴を横目に、桑の実で濡れた己の指を舐める。
「……もっと、下さいまし」
令妹の手が、その手に伸びた。
その仕草に、ほくそ笑む。
いいだろう。
僕が与えられるものは、何でもあげよう。
覚悟しておいで。
すっかり日が落ちた部屋に、ねえやが灯りをつけに来た。
空いた皿を片付けながら、「お湯の用意は出来ております」と告げ退室する。
なるほど、それも一興か。
彼奴らも汁まみれの事だし、湯で流すのも良かろう。
「おい、腹心の友よ。風呂に入るぞ。妹を抱えろ」
「誰が腹心だ!」
「いいから、行くぞ。同志」
彼奴は僕の腕から妹を取り戻すと、肩掛けを整えて肌をくるんだ。
湯殿に向かう廊下で、彼奴に抱かれている妹が口を開いた。
「私も、ご一緒ですか?」
「君らは初夜なのだよ。何の気兼ねがあろう?」
当惑する、幼気な顔。
「……お兄様も、ご一緒ですか?」
「僕を仲間外れにするのかい?寂しいなあ」
軽口で謀る。
「滅茶苦茶な理屈だが、それを通すのが君の兄だ。降参するしかない」
彼奴と、僕の顔をじっと視界に入れた後、妹は大きく溜め息を吐いた。
そして、
「……存じております」
と、目を伏せた。
そう思われてるのか。
愉快にさえ思うぞ?
湯殿に入ると、程よく糊の効いた浴衣が三着、褌二丁と揃えられていた。
「僕は先に入るよ」
二人をおいて、着ているものを脱ぎ捨て、湯船に浸かる。
温めの湯が、これからしでかす非道に沸く頭を鎮める。
仕切り戸が開く。
彼奴の陰に隠れ、手拭いで遮切れない肢体を捩りながら、こちらを覗いている。
「暫し、ゆるりと過ごそうじゃないか」
と言うに、彼女は眉を顰めている。
舌の根も乾かぬうちに暴くことがばれているのだろう。
それはそれで構わないけど。
「髪の油はきれいに落としなさい。綺麗な髪が台無しになるからね」
湯船の中から尤もらしいことを口にする。
そんなことで、気が楽になるとも思わないけれど。
怯えていただけの小動物は思いの外、緊張を解いたようで和顔する。
無造作に湯から上がると、妹は彼奴の後ろに完全に隠れ、目を背けた。
面食らう僕に、間に立つ彼奴が懸念し、妹から何かを耳打ちされている。
「彼女はまだ、未通子なのだから、そんなものを見せびらかすものじゃない」
散々揶揄ってきた腹癒せか、彼奴がしたり顔に言う。
ああ。
「まずは心友程度のもので、慣れるのが丁度いいからな」
一拍おいて、意味が通じた彼奴が反駁する前に、
「湯に浸かれ。ここで、我が令妹の身体を冷やすのは元も子もない」
と、二人を湯に浸からせた。
「縁に手を掛けて。髪を垂らすといい。鋤いてあげる」
彼奴と湯船にいる、妹の髪に手を伸ばす。
「湯船に浸かったまま、お兄様に髪を鋤いて頂くのは、お行儀が悪すぎます」
弁えているのは美徳だ。
秀外恵中ではあるけれど。
「何。無体の詫びだ。同士よ、令妹の身体を解すのは構わないが、努々徒してはいけないよ」
彼奴には釘を刺しておこう。
「心得てるさ。義兄上様の目論見に吝かでない。それより、手桶をくれ、彼女の肩が冷えきってる」
「気が利くな。そうやって我が令妹にひれ伏しておけ」
軽口の応酬に、我が令妹は堪りかねて、声を張る。
「お兄様!何て事を仰ります。旦那様も私にお気遣い為さりませぬな」
粛々と、妹の肩に湯を掛けていたのを止めた彼奴は、妹の指先に口付ける。
「俺は、君の為なら……肩に湯を掛け続けることくらい厭わないよ」
……流石に外連味が過ぎないか?
「そいつは体力莫迦なんだから、やらせとけ。君はもっと我儘でいい」
“本当の事”で、煙に巻いておこう。
正直、妹の髪はこれ以上手を加えれば、逆に痛めてしまうくらいに整えられていた。
ねえやの仕業だろうが、あの短時間にここまでしたとは、全く頭が下がる。
妹の縁を掴む指先に力が入り、吐息が漏れている。
湯の中で余計なことをしてるのか。
これだから生息子はたちが悪い。
「貴様の涎塗れの乳房は良く良く洗っておけ。逆上せさせるなよ」
妹の髪を櫛で纏め、先に上がると脱衣所にねえやが待っていた。
乾いた手拭いを渡され、水気を拭い褌を締める。
拡げられた浴衣に袖を通し、帯を締める。
「先に待ってるから、後は頼む」
と伝えて、部屋に戻る。
部屋に戻ると、お茶が用意されていた。
淹れた後、時間をおいたもので、火照った身体には心地好い。
窓からの陽の光はすっかりなくなっていて、作られた灯りが部屋を照らす。
僕はお茶で喉を潤してから、寝室へと向かった。
部屋の中には職人の贅を凝らした、結婚祝いと称した寝台が据え付けてある。
無闇に大きな寝台を、妹は大きすぎではないかと懸念したけれど、一人で過ごすわけではないのだからと言い含めた。
僕の言葉を察した彼女は、頬を耳まで真っ赤にして大層いじらしい顔をした。
二人とも言ってないけどね。
部屋の全ての瓦斯灯に火を入れた。
僕は寝台の褥に身を埋めて、後は主役を待つこととしよう。
案外早く、二人はねえやと戻ってきた。
「それでは、お休みなさいませ」
と、ねえやは扉を閉めて居室の灯りを落としているのだろう。
「……どうして、お兄様が……」
「またその話かい?時に、愚弟は彼女の肢体は一糸纏わず見たのだろう?」
「間借りなりにも妹婿に愚弟は随分な物言いだな。ああ、お先に全てを視認したぞ」
「旦那様……?」
「ならよい。こちらにおいで」
戸惑う妹の背を、彼奴は軽く押す。
よたよたと寝台の脇にたどり着く妹。
体を起こし、妹の前に座り直し、妹を見上げる。
後ろには、彼奴が妹の肩を押さえている。
肩越しに彼奴の顔を見て、僕の顔を見る。
「……お兄様」
妹の胸の前で、頑なに組まれた腕。
僕は胸の下で結われた帯に手を掛ける。
時間を掛けて、結び目を解き引き抜く。
「……お兄様、お痛が過ぎませんか……」
無防備な下半身の合わせの奥に、繁みを見付けたことに気付いているのだろうか。
僕は自分の帯をほどくと、彼女の細い手首を掴み、抗う暇も与えず僕の股座へと引き寄せた。
「……お痛なら、良かったろうにね」
背後から抱き締めて、彼女の耳に直接流し込むように、言葉を吐く。
逃げようと足掻く彼女の顎を後ろから掬い上げ、無理やり横を向かせて、その唇を塞いだ。
ゆっくりと、彼女の足を広げながら。
視界の端で、己の浴衣を剥いだ彼奴が寝台に上がる。
彼女の足の間で、膝をついて僕らを見下ろしている。
昂り始めた彼奴を正面に据え、僕は彼女を後ろから組み敷いたまま、浴衣の合わせを左右に大きく割り広げた。
袖を通したままの浴衣は、そのまま彼女の腕の自由を奪っていた。
それなのに、曝されている肢体。
僕の胸に預けられた頭の重み。
彼女が精一杯捩る体を、僕は力で押さえ込む。
先ずはこの胸の果実を頂こう。
乳房を手に納め、感触を楽しむ。
「……っ!」
彼女の口からは、声にならない音が、漏れ始めている。
卑猥な音を立て、彼奴が茂みに頭を埋めている。
僕は、彼女の顎を正面に向かせた。
「ほら、ご覧。君の旦那様は、今度は茂みの中に好物を見付けたようだよ」
「……ゃあ」
「どうだい?肝胆相照。こちらとそちらはどっちがお好みだい?」
「……ひっ、あぁ!」
「どちらの果実も最高だ」
「そうか、なら、僕もご相伴に預かるとしよう」
胸の隆起に舌を這わす。
片方は指で強く潰し、片方は舌で舐める。
時折、彼奴が見せたように大きく口に含む。
歯をたて、舌先で突く。
「あぅ……あ、ひぃっ」
頭がのけぞり、僕の胸板に熱い衝撃を刻む。
初めての淡い絶頂に、君の頭は今、どうなっているだろう?
けれど、君の旦那様は、君が正気を取り戻すのを待ってなどくれないようだよ。
「ほら、見てごらん」
僕は彼女の顎を掴み、その視線を、足の間で膝をつく彼奴の股間へと固定した。
乱暴に引き剥がされた褌の奥から、今にも爆ぜんばかりに脈打つ「獣」が姿を現している。
助けを求めるように僕を仰ぎ見る、その縋るような瞳。
僕は答えの代わりに、濡れた睫毛を舐めとった。
然して、彼女の腰を後ろから力強く、彼奴の猛りへと突き出した。
「さあ、照準を間違えるでないよ」
我が妹は声も出せず、泣いてしまった。
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