いたいけなほしくず─とおいみらいのおとぎばなし─

有城 沙生

文字の大きさ
9 / 37
記録 Ⅲ:ウノスとトレサ

⚫️記録III-1:はじまり

しおりを挟む


理性の切れる音がした。
その日、彼に振って湧いた些細な出来事は、それまで押さえていた理性をぶち壊した。
そこからは、俯瞰。
己の行動が、まるで幼い頃に見た創作物だった。
己の欲望と衝動の赴くままに行動した。
世を儚んだ彼は、世界と心中を決め込んだ。
彼は、世界の命運を握る術を持った人物だった。

俯瞰の彼は、世の行く末に一抹の後悔は有ったが、止める術は無く――――否、止める気も無く、ただ眺めていた。
然して世界は炎に包まれた。

指の1本で始まった争いに、地上の全ての国は後手に回った。
対処も出来ずに大過に飲まれゆく世界。
手出しも出来ぬまま、灰となって消え行く世界の、なんと脆いことか。

そんな中、唯一防戦を掲げていた国が、あった。
今後、大戦など有り得ないと、創作に長けた国の、限りなく慰みに近い本気で用意されたモノ。
 
 人々の嘲笑に晒されながらも、それに携わったもの達はいたって真剣に作り上げ、そして、起動させた。

――――急激な人工現象を把握。
 生命至上国家存続プログラムを開始。
 緊急バックアップ体制を起動。
 全プログラムを緊急転送。
 全機構配下ユニットに告ぐ。
 最優先事項、生存者の保護及び警護。
 如何なる外敵要因より生存者の生命の保護を優先。
 その事項厳守の解釈は各ユニットにて随時最大限に拡張せよ。

──────────────

 なーんて、事が起こって今現在、生存している人間は私を含めて、十二人だとか。
 まあ、前半は私の妄想だけど。

 トレサ、七歳。
 知っとくべき事は知っときなさい、とプレマルジナとお父さん……人工頭脳から口酸っぱく言われ続けている。
 愚かなる人にはならぬように、て言われるけど、産まれてこの方、人工頭脳としか会話してないから愚かが何なのかも理解しかねる。

 目が覚めたとき、というのかな。
 ガラスのなかで、私は液体に漂っていた。
 アムニオンで満たされた器。
 緑色の光が、ぽつぽつと光っていて、暗い部屋のなか、プレマルジナとポステアがいた。
 今でこそ、よく液体のなかで目が開けられたのだなと思うけど、その時私は三才でただ暗いなと、思っていた。

 私の頭の中には、既に基本的学習は施されており、三才で目が覚めるなり、辺りが『暗い』こと、光が『緑色』であることを理解していた。
 そして、もうひとつの器に入っている男の子、トレィスがいた。

「おはよう。気分はどうかな」
 頭の中に、声がする。
 そこに立っている、ポステアとプレマルジナのものではないらしい。
 二人は微動だせず、そこに立っている。

「我はこの国の中枢なるもの。お前達を作りしもの」
 基本的――と言っても十歳児程の学習がされていた私は、記憶をたどる。
 
 子供を作る男のヒト、よね?
 それって、
「お父さん?」
 私がそういうと、声は沈黙した。
 
 暫く、ピーとか、かたかたとか記憶媒体の動く音がしていた。
 今となっては、内部プロトコルで即時処理不能になってたのかなーとか考え付くけど、その時は黙っちゃったから、間違ったかな?としか思わなかったよ。

「お父さん……」
 “声”は、そう言って。
 ホント、今さらなんだけど、ポステアとプレマルジナが不思議そうな顔をしてた気がするよ。
 多分、気のせいだけど。
 でもそれが、生命至上国家存続の為の国家特別特使――――適応型汎用知性制御中枢T-IPrimaGeneralo――――『お父さん』とのファーストコンタクトだった。

 器、は母体無き人工受精のお腹で、私たちは安定するまで余裕をみて、三年の間その中で育てられた。
 器から出した処で、乳幼児の育成は困難だと判断したらしい、とお父さんが教えてくれた。

 器からトレィスと出して貰って、お風呂に入れて貰って服を着る。
 ずっと裸でアムニオンに浸っていたから、なんだかむず痒かったけど、直ぐに慣れた。
 プレマルジナ曰く、私の学習能力は至って高いとのことだ。
 ここにはいないけれど、別の処には他に十人の子供がいるらしくて、その子達と比較されて、の事だけど、いない子と比べられても、ねえ?

 でも身近なトレィスを見てると、分かる気はするのよ。
 同じ年とは思えないもの。

 ある日、ポステアが読み聞かせてくれた、絵本。
 器の中でも聞いてた話だったけど、トレィスがぼくのママは…って泣き出した。
 いるわけ無いのに。
 いや、いるにはいるか。
 でも、そんなもの求めた処で、ママは後から出来ない。
 泣きじゃくるトレィスを、ただぼーっと眺めていたら、プレマルジナが抱っこしてくれた。
 んー。悲しんでるとか思われたのかな?
 ポステアが困ってるから、泣き止めば良いのに。

 頭の中に、お父さんの声がする。
『大丈夫か?』
「何が?」
『……寂しいか?』
「何で?お父さんも、プレマルジナもポステアもいるのに。寂しいてわかんない」
『そうか。プレマルジナにパンケーキでも焼いて貰いなさい』
「わぉ!プレマルジナ!パンケーキ作ろう!!トレィスの分も作ってくるね!ポステアも!一緒に食べよう!」
 って、気をそらそうとしたけど、トレィスはポステアにしがみついて泣いてた。

 そんな感じで、器から出た後の生活は、お勉強もそぞろに、泣いてるトレィスばかり見ていた気がする。
 ので、次第に別々にいることが多くなった。
 私はお父さんのそばで、色々教えて貰う方が有意義だったし、プレマルジナの他の子の話って云うのも、楽しみが見出だせていた。

 そして五歳になった時、トレィスは第三ドームに移っていった。
 ここから、六百キロは離れていて、もう再び会うことはないだろう、とプレマルジナに言われた。
 車で一日かかる距離とか、想像もつかない。
 冬は、ここより寒くなるって。
 向こうでもトレィスはずっと泣くんだろうか?

「…………プレマルジナ!今日は味噌田楽の気分っ!」
 二人で食べた味噌田楽は、美味しかったです。

 そして、遂に今。
 私は七歳になっていて、お父さんが慌てる様子を眺めていた、
「どうしたの?」
『第一ドームの生存者が、生身で外に出たとの連絡があったんだ……』
「バカなの?」
『他の子達は、トレサ程知識を身に付けてないのだよ』
「なぜ?」
『子供……だからだよ』

 私は?て聞きたかったけど、聞いちゃいけない気がして。
 だったら、
「ねえ?お父さん?私、その子に会いたい!」

 お父さんは盛大にかたかたかたかた音を鳴らすし、プレマルジナは湯葉の鍋を落としそうになったよ。
 勿体ない。
 
 

 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「モブ子で結構。クラスでパシリにしていたあなたより、フォロワーが100万人多いので、趣味の合わない方とはお話ししない主義なので」

まさき
ライト文芸
静はイヤホンをつけ、眼鏡を外した。 「ごめんなさい——趣味の合わない方とはお話ししない主義なの」 ——これは、モブ子と呼ばれた少女が、誰にも媚びなかった夏の話。 学校では地味で目立たない女子高生・葛城静。分厚い眼鏡、冴えない服装、クラスのリア充グループには「モブ子」と呼ばれ、パシリにされる日々。「ブスに夏休みは似合わないよね」——そんな言葉を笑顔で浴びせてくる同級生たちは、知らない。 彼女が、フォロワー100万人を誇る超人気ストリーマー「シズネ」だということを。 夏休み。秘密の別荘プールから配信した100万人記念ライブが大バズり。特定班の動きは早く、やがて「シズネ=あのモブ子」という事実がXのトレンドを席巻した。 翌朝の教室。昨日まで見下していた同級生たちが、一斉に満面の笑みを向けてくる——。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...