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記録 Ⅲ:ウノスとトレサ
記録III-3:いしずえ
しおりを挟む「で?生身で外に出るとどうなるの?」
トレサからのこの質問は一体何度目だろう?
ここに来て三年、おれは、十六歳、トレサは十一歳になっていた。
「目はどろどろで落ちそうだし、口からは涎がぼたぼた止めどなく出るし、胸は息が出来なくて引きちぎれそうに痛いし……この話、そんなに面白いか?」
きらきらした目で、おれを見つめるトレサに訊ねる。
「うん!だって外の事を情報で知ってたら、絶対、出てみようなんて思わないもの!」
これも、幾度となく繰り返された答え。
はあぁぁ、溜め息しか出ない。
「…私と話すの、いや?」
そんな目で見られたら……はあぁぁ。
黙ってれば可愛いのに何て口にした暁には、おれが泣くまで攻め立てられるから言わないでおいてやる。
──────────────
だいたい、今地上に生きている人間は十二人です、って言われても、そもそもが私が初めて会った人間はトレィスだ。
十二人のうち、二人がここにいるって飛んでもないことだと思った。
五歳にもならないうちに、その事実を重く受け取ってしまって、トレィスみたいにびぃびぃ泣けなかった。
トレィスは、遠くに行ってしまったけど、
プレマルジナやお父さんとの生活は苦ではないけれど、
――――面白いを実感したくなった。
プレマルジナも、お父さん達も、私を楽しませようとしてくれるけれど、一緒に『面白い』を『楽しみ』たいと思うの。
我が儘なのかな?と諦めていた時、
見つけたのよ!
面白そうを!!
ウノスを!!!
──────────────
――――「そういえば」
と、プレマルジナが口を開く。
トレサに付き添っている、おれと共にあるポステアの存在。
トレサに教えてもらって、知ることになった人工生命体という存在。
「何を言う気?」
トレサが冷めた表情を見せている。
…………おや?珍しい。
「そこにある、通気口にトレサは、饅頭を捩じ込んでましたよね」
「プレマルジナ!」
「ウノスばかり茶化すのもフェアじゃないでしょう?ちょっとくらいトレサの面白話も必要でしょう?」
トレサは顔を真っ赤にして、唇を噛んでいる。
何があったのだろう?
おれが聞いても良いものなんだろうか?
すると、トレサがおれとは目を合わさずに、明後日の方向を向いて言い出した。
「だって、お父さんの口はそこだと思ったのだもの。美味しいものはみんなで食べたいじゃない」
プレマルジナは、「ね?」とおれに言い、“お父さん”は、ピコピコと音を出している。
──────────────
おれは、トレサの頭を撫でて、
「おまえって可愛いよな」
と、言ったら、きっ!と睨まれた。
「……今日は怪獣は出てこないわけ!」
「どうせ嘘だって分かってるんだろうが!うきー!」
信じるわけもない出鱈目な話を、並べ立てたこともあったけど、トレサが引っ掛かることはない。
もう、怒ったふりでもして、追っかけ回すしかないよ。
──────────────
「うきー!ていえば、子供の頃、おさるさんの形をしたロボットがあったわよね?」
ふと、思い出してプレマルジナに聞く。
「ああ、トレサが口にお団子を詰め込んだやつですか?」
なんとも澄ました顔で、プレマルジナが返してくる。って!
「トレサはおやつを詰め込むのが趣味だったの?」
ウノスが訊いてくるので
「分けてたのよ!一緒に食べたいじゃない!」
と正直に答えた。
一体何時からおさるさんを忘れていたのだろう……て分かってる。
ウノスが来たからだ。
トレィスみたいに、泣いてばかりじゃない、ウノスと話すのが楽しかったからだ。
「探しにいこう。まだあるよね?」
プレマルジナに聞くと、ひょこっと別のところから、とぼけた声がした。
「ここにおるぞい?」
──────────────
さるってやつを初めて見た。
何だろう、おれらと似てるけど、毛が身体中に生えてて、お尻に長いものがついてる。
トレサはさるを抱き締めて頬擦りまでして…何だろ?もやっとする。
「やきもちですか?」
とプレマルジナが訊いてきたので、
「この、頭のこの辺がもやっとするのが、やきもちなの?」
と額を指差して言った。
すると、プレマルジナ目を細めて、くすっと笑い、
「こんな、おもちゃにやきもちなんて勿体無いですよ」
と、トレサの手から『さる』を奪った。
トレサが奪い返そうと背伸びをするけれど、プレマルジナが届かせようとしていない。
「プレマルジナ!」
「ほら、トレサ。ウノスに紹介してあげないと、仲間はずれみたいですよ」
トレサはプレマルジナにそう言われ、おれのことを思い出したようだった。
ようやく、プレマルジナからさるを返して貰えたトレサは、さるを抱えておれに走りよる。
「ウノス!これ、おじさまって言うの!さる!」
と、何とも雑な紹介をされた。
さっき、喋ってたよな?じゃあおれも挨拶するか。
「ウノ…」
トレサの手から飛び出したさるは、おれの口に手を突っ込み、うにーと両端に引っ張った。
──────────────
「何をしてるの!」
わたしの手から飛び出したおじさまは、挨拶もそこそこに、ウノスの顔を伸ばしている。
都合が悪くなると、猿のふりをするのはおじさまのパターンだ。
ウノスの顔から、おじさまの首根っこをつまんで引き離す。
「ウノス、大丈夫?」
「…ほごっ、ん、らいりょうぶ」
「じゃないわね。おじさま…」
「だって、寂しかったんだもん」
「…って、どうせすぐ出てきたってことは、お父さんとそこで見てたんでしょ!」
「俺様もいるぞ!」
「大おじさま…」
「トレサ、ウノスに説明してあげなきゃ、呆気にとられてますよ」
「ごめんね、ウノス。このさるはおじさま。で、お父さんとモニター取り合ってるのが大おじさま。何でこう呼ぶのかは知らない。こう呼べって言われたから呼んでる」
すると、おじさまのせいで真っ赤に顔を腫らしたウノスが、
「う、ウノスれすっ!」
と言った。
あらあら、懐かしいわね。
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