命売りの少年

喜島 塔

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「……菊様、七菊様」

 消失した筈の意識が新たに芽生えるような不思議な感覚の中、零が七菊を呼び掛ける声が聴こえてきた。頭が吹き飛んでいたらどうしようとビクビクしながら七菊はゆっくりと目を開けた。七菊は白熱灯に照らされて手術台の上に寝かされていた。

「いやあ、さすがは九賀野財閥のご令嬢。初めてとは思えない見事な死にっぷりでした。脳髄と血液が打ち上げ花火みたいにパーッと咲き乱れて、思わず見惚れてたら、僕、返り血浴びちゃいました」

 零の陶器のような白い顔、首筋、ナース服に赤い墨で描きなぐられたような様々な模様が描かれていた。七菊は、それを見て、反射的に自分の頭に手をあててみたが、頭が欠損した形跡はないし、血の生温い感触もない。

「七菊様が死に損なった時のために院長先生も待機してくれていたのですが大丈夫でしたね」
「はっ? さっきもあなた言っていたけど、院長先生って何よ? ここには、わたくしとあなたしか居ないじゃない?」
「いらっしゃるじゃないですか? 七菊様のすぐそばに」

 カチャカチャという金属音が薄暗い手術室に不気味に響いた。その音が聴こえる方に七菊が視線を向けると、手術用ゴム手袋をした手だけが宙に浮いて円刃刀メス剪刀せんとうをまるで自分の手先のように動かしていた。この廃病院に足を踏み入れてから、というより、この「零」と名乗る得体の知れない少年と出逢ってからというもの、科学的研究の探究では到底解明することが不可能なオカルティックな光景を目の当たりにし過ぎている七菊は、そろそろ驚いたり慄いたりすることにも耐性がつき始めてきていた。

「そうね。いらっしゃるようね。『命の受け渡しの儀式』が成功したっていうのは本当のようね。だいぶ、動悸も治まったし呼吸も楽になったわ。この『命』で私はあとどれくらい生きることができるの? もう、こんな悍ましい儀式は御免蒙りたいものだわ」

 少し安堵した七菊は溜息を吐きながら言った。

「実は、僕も『命の受け渡しの儀式』については、あまり良く知らないんですよねえ。拳銃自体は本当に軍などで使われているポピュラーな拳銃。普通の銃弾を装弾すれば、普通に怪我をさせたり急所に当たれば命に関わります。死に至れば生き返ることはありません。それが自然の摂理でしょう? でも、この銃弾……」

 零は肩掛け胴乱の中から深紅の銃弾を一弾取り出して七菊に見せた。それは、生きている人間の心臓のように収縮したり弛緩したりして一定の形を保っていなかった。

「まるで、生きているみたいでしょう? 僕が七菊様と運命的な出逢いをしたあの雪の日……僕は、この弾のことを、とりあえず『命弾めいだん』と呼びましたが、まさに“名は体を表す”といった感じなので、正式に『命弾』と呼ぶことにしましょう。七菊様が今回の『命弾』でどれくらい寿命が延びるかは僕にも解りません。一番重要なのは『命弾』との相性らしいです。極端に言えば、七菊様と『命弾』との相性が良ければ何十年も生き永らえることができるかもしれませんし、相性が悪ければ、一日しか持たないかもしれません」
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