命売りの少年

喜島 塔

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「いやあああああああああああああああ!」

 七菊の悲鳴が九賀野邸にこだました。最初に七菊の部屋に飛び込んで来たのは執事の桑原くわばらだった。

 「七菊様、ご無事でしょうか?」

 桑原の行動は迅速かつ冷静だった。桑原のすぐ後に駆け付けた護衛に邸宅内外に不審な人物が潜んでいないか確認するよう指示を出した後で、七菊の脈をとった。七菊は恐る恐る目を開け辺りを見渡した。

「……桑原?」
「はい、七菊お嬢様」
「わたくしは、ずっとこの部屋に居たのかしら? 何処かに出掛けたり、何者かが私を攫ったりはしなかったかしら?」
「はい。昨日、七菊様は私を従え『九賀野研究所』の視察に赴き、夕方六時頃帰宅。旦那様、奥様とご一緒に夕食を召し上がり、その後は、この部屋に籠っておりました。窓を開けた、若しくは開けられた形跡もありませんし、七菊様がお出掛けになる際は、、私が同行することになっておりますから、九賀野邸の使用人全員の目を掻い潜って七菊様がおひとりでお出掛けになることは大変難しいことでしょう」
「では、わたくしは、悪夢を見ていたのかしら?」
「そう……だとは思うのですが」
 桑原は心配そうに七菊の首のあたりを見た。
「わたくしの首に何か?」
 桑原はスーツのポケットから手鏡を取り出し、七菊の前にそっと差し出した。七菊の顔から見る見るうちに血の気が引いていった。七菊の首の上部から鎖骨のあたりにかけて何本もの生々しい引っ掻き傷が残されていたからだ。しかし、奇妙なことに管のようなもので締め上げられた痕跡はなにひとつ残っていないのだ。
「七菊お嬢様、間もなく、旦那様と奥様がこの部屋に参ります。その傷はお隠しになった方がよろしいかと」
 そう言って、桑葉は七菊の肩にふわりとショールを掛けた。
「ねえ、桑原。貴方、四童子竜胆しどうじ りんどうという名の研究員について何かご存じ?」
「さあ……残念ながらそのような御方は存じ上げておりませんが。七菊お嬢様がお知りになりたいのでしたらお調べいたしましょうか?」
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