命売りの少年

喜島 塔

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「では、私の物語のはじまり、はじまり。私の名前は、先ほど申し上げたように八坂百合と申します。お分かりかと思いますが、『八坂』は旧姓。主人と結婚して、四童子百合しどうじ ゆりとなりました。この姿は、私が主人と出逢った頃の姿ですから、十六歳! 花も恥じらう乙女! 嗚呼、若いって素晴らしいですね。私の故郷は帝都から遠く離れた東十七区の片田舎の小さな宿場町。私の家も宿屋でした。風光明媚な土地でしたし寒過ぎず暑過ぎず自然災害も少ない土地でしたから、帝都から疲れを癒しにお越しになるお客様が多かったと記憶しています。私には、年の離れた兄が一人、弟が二人、妹が一人おりました。両親と祖父、祖母も合わせて九人の大所帯でした。貧しいとまで感じたことはございませんが、家族九人が食べていくために、兄は勿論、私も、弟妹たちも早くから店の手伝いをして、家族一丸となって働きました。私がまだ小さい頃は、商人は卑しいと見下す元武家のお客様などもいらっしゃいましたが、私の両親や祖父、祖母は『これからは商人の時代だから、何を言われても気にすることはない』と常々私たちに言っておりましたから、私たちは何を言われてもにこにこと笑顔でいることができました。そして、立派な商人になるには学問も必要だからと言って、兄と私は高等小学校に進学させてもらったのですよ。まあ、帝国内最高峰の千時丸帝国大学に進学された七菊様のような優秀な御方から見たら、馬鹿同然なのかもしれませんけどね。うふふ」
「無事、高等小学校を卒業した私は本格的に『八坂屋やさかや』。あっ、屋号はお伝えしていませんでしたね。私の実家の宿屋は『八坂屋』といいます。後継者の兄夫婦や弟、妹たちが頑張ってくれて、今ではちょっとした有名旅館にまでなったと、妹が手紙でこっそり教えてくれました。私も竜胆さんと駆け落ちなどせずに故郷でおとなしくしていたら、こんなことにはならなかったのかしら? なんて言ったら、主人に怒られてしまいますね。うふっ」
「先ほども申し上げましたが、『八坂屋』には帝都からおいでになるお客様が多かったので、私は帝都のお話を耳にする機会が多く、密かに帝都に憧れを抱いていたのです。西洋建築風の建物、髪を切り洋装で闊歩する人々、ダンスホール、自動車……ある日、帝都からいらしたお客様が私に一冊の少女雑誌をくださいました。私はその雑誌に夢中になりました。帝都で活き活きと暮らす女性たちの写真、流行の服装や髪の結い方、女流作家による小説……特に私の好奇心をくすぐったのは喫茶店で働く給仕さんの写真でした。ああ、こんなハイカラなお店で働いてみたいなあと夢見るようになりました。毎晩寝る前に私はこっそり布団の中でその雑誌を見ては帝都への憧れを膨らませていたのです。しかし、そのことは誰にも言いませんでした。他所へ嫁ぐのか、婿養子をもらって『八坂屋』を切り盛りしていくのかは分かりませんが、両親は、決して裕福な家ではないのに、私を立派な商人にするために高等小学校まで行かせてくれたのですから。私は、一生この村で生きこの村に骨をうずめるつもりでいました」
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