命売りの少年

喜島 塔

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「久方ぶりだな、直理。元気そうで何よりだ。外は寒かろう。丁度、朝食の支度ができたところだ。さあ、中に入りなさい」

 居間のちゃぶ台の上には、炊き立ての白いごはんと豆腐の味噌汁と胡瓜の漬物が用意されていた。それを見た直理は、目を丸くして、

「これ、全部、お父さんが作ったのですか?」
 と尋いた。

「ああ。うちには、女中を雇う余裕などないからな。昔は一流の雇い入れコックが作ったビーフシチューだのオムライスだの高級な料理を食べるのが日常になっていたが、こうした質素な食事も存外悪くないものだ。最初は米を炊くのにも四苦八苦したものだが、今では漬物までつけることができるようになった。調理は少し実験と似ているのかもしれん。どうしたらより美味くなるのか色々試すのも楽しいものだ。そんなものしか用意できなくて申し訳ないが、冷めないうちに食べてくれ」
 牡丹に促されて味噌汁を飲んだ直理は、
「美味しい……」
 と呟き、涙ぐんだ。
「おいおい! それは流石に大袈裟だろう。寮の食事はそんなに不味いのか?」
 牡丹は嬉しそうに笑った。
「いえ……そういうわけではないのですが……どんな高級な料理よりもお父さんの手料理に勝るものはないと思います」
「そうか、喜んでもらえて良かった……やはり、食事は、独りでとるよりも家族と一緒の方が数段美味く感じるな……医専での生活はどうだ? まあ、お前のことだから、授業についていけないということはないと思うが、まわりの学生はお前より年少者が多いだろう? 人間関係がうまくいっていないと心身に支障をきたしかねない。私は、そのことを心配しているのだよ」
 牡丹は、そう言った後で、食後の茶を啜った。
「それでしたら、ご心配には及びません。確かに、私は若くはありませんが、私より年上の方も少なくありませんし、同じ志を持つ者同士の間で年齢による差別などはありません。少なくとも、僕の周りには、そのような器の小さい者はおりませんのでご安心ください。それに、僕は、お父さんから直々に英才教育を施していただいたお陰で、成績優秀で、同志たちから“先生”などというあだ名で呼ばれ親しまれているのですよ。さすがに“先生”は恥ずかしいのでやめてくれないか、と言っているのですが……鷹山たかやまという、僕より十も年下の同志は、特に、僕を慕ってくれていて……何というか……年が離れた弟のようで、ついつい世話を焼いてしまうのです」

 照れくさそうに同志の話をする息子の顔を見て、牡丹は大笑いした。

「ちょ、ちょっと、お父さん! 揶揄わないでくださいよっ」
 直理は頬を膨らませながら言った。
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