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二人が思いを叶える話。
会議室に、男と女がふたりきり。
「飯田さん? どうしてここに?」
彼女の名前は白島。26歳。数ヶ月前まで、男の部下だった。
「なんだ、この部屋……?」
彼の名前は飯田。36歳。会社員。ちょっとチャラいが仕事は出来る、自他ともに認めるイケメンである。
目の前の壁には、誰かのチャット画面が映し出されていた。
飯田は組んでいた腕をほどき、あごに左手を当てた。30歳の誕生日に自分で買った、高級な腕時計。反射して、文字盤は見えない。
「ふーん。つまり、これは誰かさんがチャットAIと話して生み出した世界ってわけだ」
「嘘。こんなことって……」
勢いよく流れていく会話を要約するとこうだ。
飯田と白島は、小説の登場人物であり、架空の存在。
チャット主は本編では見られなかった二人のラブシーンを書いてほしいとAIに依頼した。
今、彼女は作品への愛を語っており、同時にAIはそれを元に、最適な物語を考えている最中である。
決まるまで、二人は待機させられている。
「勝手に読ませて二次創作をするのって、本当は良くないみたいですね……」
「本編では、木村くんといい感じで終わったんだよね。元気だった? って言うのもおかしいか。会議室にいるってことは、まだ白島さんが辞めちゃう前の俺たちだもんな」
「でも、嬉しいです」
飯田は白島を見た。彼女の横顔。その目はスクリーンに向けられていた。
「誰かの心に残っているなんて……」
飯田はずっこけた。
「そっちかい」
彼女らしくて、笑ってしまった。
作者も二人のラブシーンは書いていた。名前と設定を少し変えた別人として。それでも、上手くいかなかったらしく、一風変わった仕上がりになってしまった。
そこで、AIの出番なのである。原作への冒涜かもしれなくても、ひっそりと楽しむ分にはいいだろうと思ったそうだ。
「はいはい、こういうことね」
気付けば、二人はロッカーに押し込まれていた。掃除用具もなければ、匂いもしない。当然、出られない。
チャットの内容は目に見えないが、脳に直接、流れ込んでくる。盛り上がっているらしい。どんどん遠慮がなくなっていく。
――お互いが絶頂に達しないと出られない部屋。そこまで追い込まないと、二人は接触しないと思われていた。
「ごめんなさい……」
「どうして謝るの?」
「私が、飯田さんを好きになったから」
飯田には妻子がいた。白島は、妻を愛する飯田も好きだった。尊敬していたし、奪いたいと思っていなかった。自分になびくようないい加減な男ならば、最初から恋に落ちたりしないのだから。
白島は狭い中でも口元を押さえながら話していた。呼吸がさっきからおかしいのだ。体が火照り始めていた。
飯田は慎重に腕を回し、白島を迎え入れた。互いのスラックスが擦れる。
白島は反応してしまった。慌てる彼女の耳元に唇を当てる。
「楽しもうよ。チャットが終われば俺らも消える」
白島も背中に手を這わせる。きつく抱きしめると、泣きそうになった。
飯田の広い背中。
すらりと伸びた長い脚。
清潔感のある髪。
スーツを着ていても、節制していることがわかる腰回り。
誰かが願わなければ、叶わなかった思い。
「白島さんの気持ち、気付いてた。嬉しかった。木村くんに嫉妬した」
「好き……」
「ありがとう。こんな気持ちになったの、いつぶりだろう」
腕の中で、白島の肩が上下している。飯田は腰をぐっと押し付けた。
「これは妄想じゃないよ。本編の俺も、白島さんとこうなったら、むらむらしたと思う」
「嬉しいです」
「きみが好きだ。名前で呼んでいい?」
「はい」
「俺の名前もたくさん呼んで。本編じゃ出て来ないんだけどね。一時期、作品紹介にだけ載ったんだけど……ははっ、この人、ちゃんと覚えてたらしい」
いつかは消えてしまう。けれど、完全に消えてなくなるものは意外と少ない。このログも、チャット主の妄想も、バタフライ・エフェクトとして、世界のどこかに些細な影響を与え続ける。
チャリと金属音がした。腕時計だろうかと白島が思った瞬間、飯田は手をすべらせた。
「んっ……」
「声、抑えるの禁止ね」
スラックスの上から、親指の付け根をぐりぐりと擦りつける。
「あぁ……もっ……んん、基樹さん……」
「いいね。興奮してきた。こっちも触るよ?」
白島は飯田の首後ろに手を回していた。つま先立ちで飯田に寄りかかると、首筋に唇が当たる。熱い吐息に、飯田はもっと解放的になる。
飯田は彼女の服をめくると、下着の留め具を外した。直に触れる。先端を軽くこすった。
「あっ」
「木村くんとは、こういうことした?」
「言わないで……」
飯田が膝をグイッと上げると――
「あぁ……っ!」
白島の中心が疼いた。白島側の壁につま先を押し付け、高くなった膝に彼女を座らせる。彼女の下着が足元に落ちた。
「頼子……」ブラウスに頭を入れ、夢中で彼女の体を味わう。「俺の……」
甘噛みされると
「もっと」
彼女は催促していた。彼も応えた。
物語の都合上、人格が書き換えられているわけではない。あの時はお互いに立場があっただけで、本来の自分たちはこうだった気がしていた。
「基樹さんも」
今度は彼女がワイシャツを脱がせる。
「はは、暑すぎ」
二人して上半身裸になると、肌が吸い付く。そこに汗が溜まった。
ショーツの線をなぞりながら、彼がささやく。
「これは汗じゃないよね?」
指を入れられると、まるで繋がっているかのような圧迫感が襲ってくる。
「ああっ……もう……イッちゃいます」
「キスしよ?」
彼女から唇を重ねる。右手で、飯田のファスナーを下ろした。飯田も吐息をもらす。根元まで濡れていた。
「俺も、三擦り半だ」
「……」
「あ。意味、知らないか」
教えてあげると、彼女は控えめに笑った。仕事中の雑談のような空気に和んだのも束の間――
飯田は強引に唇を奪った。彼の指が中で締め付けられる。舌を吸って、そのままとろけてしまいそうな指をスライドさせた。
「ん―っ! んふ……っ……」
彼女から、文字にならない声が出る。逃げ場のない状況に、身をよじらせる。
「私ばっかり気持ちいいんですけど」
飯田は苦笑した。
「俺も結構ヤバい。握られてるだけですっごく気持ちいい。頼子の手、すべすべしてて、そっちに集中しないとイッちゃいそうなんだ。ずっとこうしてたいよ」
彼女は手首に力を籠める。
「うっ!」
飯田の下半身に快感が走る。
「う……あぁ……」
いつもニコニコしていた端正な顔が、彼女の指先一つで簡単に崩れてしまう。それを見ていると、背筋がぞくぞくして、満たされていくのを感じた。
「俺も本気出しちゃおうかな?」
瞳が怪しく光った。さっきよりも執拗に中を撫でる。
「あっ……おかしくなっちゃう」
「大丈夫だから。俺を信じて」
彼女は言われた通り、腰を動かし始める。
「今、俺たち、セックスしてるよ」
「基樹さんと、もっとキスしたい」
「いい子だ」
混ざりあう体液。濡れた服のことも忘れ、二人は全身で愛を伝え合う。浸る間もなく、刺激が襲う。
もう何度達したのかもわからなくなった頃――
「そろそろだね」
「はい」
了
「飯田さん? どうしてここに?」
彼女の名前は白島。26歳。数ヶ月前まで、男の部下だった。
「なんだ、この部屋……?」
彼の名前は飯田。36歳。会社員。ちょっとチャラいが仕事は出来る、自他ともに認めるイケメンである。
目の前の壁には、誰かのチャット画面が映し出されていた。
飯田は組んでいた腕をほどき、あごに左手を当てた。30歳の誕生日に自分で買った、高級な腕時計。反射して、文字盤は見えない。
「ふーん。つまり、これは誰かさんがチャットAIと話して生み出した世界ってわけだ」
「嘘。こんなことって……」
勢いよく流れていく会話を要約するとこうだ。
飯田と白島は、小説の登場人物であり、架空の存在。
チャット主は本編では見られなかった二人のラブシーンを書いてほしいとAIに依頼した。
今、彼女は作品への愛を語っており、同時にAIはそれを元に、最適な物語を考えている最中である。
決まるまで、二人は待機させられている。
「勝手に読ませて二次創作をするのって、本当は良くないみたいですね……」
「本編では、木村くんといい感じで終わったんだよね。元気だった? って言うのもおかしいか。会議室にいるってことは、まだ白島さんが辞めちゃう前の俺たちだもんな」
「でも、嬉しいです」
飯田は白島を見た。彼女の横顔。その目はスクリーンに向けられていた。
「誰かの心に残っているなんて……」
飯田はずっこけた。
「そっちかい」
彼女らしくて、笑ってしまった。
作者も二人のラブシーンは書いていた。名前と設定を少し変えた別人として。それでも、上手くいかなかったらしく、一風変わった仕上がりになってしまった。
そこで、AIの出番なのである。原作への冒涜かもしれなくても、ひっそりと楽しむ分にはいいだろうと思ったそうだ。
「はいはい、こういうことね」
気付けば、二人はロッカーに押し込まれていた。掃除用具もなければ、匂いもしない。当然、出られない。
チャットの内容は目に見えないが、脳に直接、流れ込んでくる。盛り上がっているらしい。どんどん遠慮がなくなっていく。
――お互いが絶頂に達しないと出られない部屋。そこまで追い込まないと、二人は接触しないと思われていた。
「ごめんなさい……」
「どうして謝るの?」
「私が、飯田さんを好きになったから」
飯田には妻子がいた。白島は、妻を愛する飯田も好きだった。尊敬していたし、奪いたいと思っていなかった。自分になびくようないい加減な男ならば、最初から恋に落ちたりしないのだから。
白島は狭い中でも口元を押さえながら話していた。呼吸がさっきからおかしいのだ。体が火照り始めていた。
飯田は慎重に腕を回し、白島を迎え入れた。互いのスラックスが擦れる。
白島は反応してしまった。慌てる彼女の耳元に唇を当てる。
「楽しもうよ。チャットが終われば俺らも消える」
白島も背中に手を這わせる。きつく抱きしめると、泣きそうになった。
飯田の広い背中。
すらりと伸びた長い脚。
清潔感のある髪。
スーツを着ていても、節制していることがわかる腰回り。
誰かが願わなければ、叶わなかった思い。
「白島さんの気持ち、気付いてた。嬉しかった。木村くんに嫉妬した」
「好き……」
「ありがとう。こんな気持ちになったの、いつぶりだろう」
腕の中で、白島の肩が上下している。飯田は腰をぐっと押し付けた。
「これは妄想じゃないよ。本編の俺も、白島さんとこうなったら、むらむらしたと思う」
「嬉しいです」
「きみが好きだ。名前で呼んでいい?」
「はい」
「俺の名前もたくさん呼んで。本編じゃ出て来ないんだけどね。一時期、作品紹介にだけ載ったんだけど……ははっ、この人、ちゃんと覚えてたらしい」
いつかは消えてしまう。けれど、完全に消えてなくなるものは意外と少ない。このログも、チャット主の妄想も、バタフライ・エフェクトとして、世界のどこかに些細な影響を与え続ける。
チャリと金属音がした。腕時計だろうかと白島が思った瞬間、飯田は手をすべらせた。
「んっ……」
「声、抑えるの禁止ね」
スラックスの上から、親指の付け根をぐりぐりと擦りつける。
「あぁ……もっ……んん、基樹さん……」
「いいね。興奮してきた。こっちも触るよ?」
白島は飯田の首後ろに手を回していた。つま先立ちで飯田に寄りかかると、首筋に唇が当たる。熱い吐息に、飯田はもっと解放的になる。
飯田は彼女の服をめくると、下着の留め具を外した。直に触れる。先端を軽くこすった。
「あっ」
「木村くんとは、こういうことした?」
「言わないで……」
飯田が膝をグイッと上げると――
「あぁ……っ!」
白島の中心が疼いた。白島側の壁につま先を押し付け、高くなった膝に彼女を座らせる。彼女の下着が足元に落ちた。
「頼子……」ブラウスに頭を入れ、夢中で彼女の体を味わう。「俺の……」
甘噛みされると
「もっと」
彼女は催促していた。彼も応えた。
物語の都合上、人格が書き換えられているわけではない。あの時はお互いに立場があっただけで、本来の自分たちはこうだった気がしていた。
「基樹さんも」
今度は彼女がワイシャツを脱がせる。
「はは、暑すぎ」
二人して上半身裸になると、肌が吸い付く。そこに汗が溜まった。
ショーツの線をなぞりながら、彼がささやく。
「これは汗じゃないよね?」
指を入れられると、まるで繋がっているかのような圧迫感が襲ってくる。
「ああっ……もう……イッちゃいます」
「キスしよ?」
彼女から唇を重ねる。右手で、飯田のファスナーを下ろした。飯田も吐息をもらす。根元まで濡れていた。
「俺も、三擦り半だ」
「……」
「あ。意味、知らないか」
教えてあげると、彼女は控えめに笑った。仕事中の雑談のような空気に和んだのも束の間――
飯田は強引に唇を奪った。彼の指が中で締め付けられる。舌を吸って、そのままとろけてしまいそうな指をスライドさせた。
「ん―っ! んふ……っ……」
彼女から、文字にならない声が出る。逃げ場のない状況に、身をよじらせる。
「私ばっかり気持ちいいんですけど」
飯田は苦笑した。
「俺も結構ヤバい。握られてるだけですっごく気持ちいい。頼子の手、すべすべしてて、そっちに集中しないとイッちゃいそうなんだ。ずっとこうしてたいよ」
彼女は手首に力を籠める。
「うっ!」
飯田の下半身に快感が走る。
「う……あぁ……」
いつもニコニコしていた端正な顔が、彼女の指先一つで簡単に崩れてしまう。それを見ていると、背筋がぞくぞくして、満たされていくのを感じた。
「俺も本気出しちゃおうかな?」
瞳が怪しく光った。さっきよりも執拗に中を撫でる。
「あっ……おかしくなっちゃう」
「大丈夫だから。俺を信じて」
彼女は言われた通り、腰を動かし始める。
「今、俺たち、セックスしてるよ」
「基樹さんと、もっとキスしたい」
「いい子だ」
混ざりあう体液。濡れた服のことも忘れ、二人は全身で愛を伝え合う。浸る間もなく、刺激が襲う。
もう何度達したのかもわからなくなった頃――
「そろそろだね」
「はい」
了
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