公開婚約破棄? では公開廃嫡でお返ししますわ ~王太子と義妹を地の底へ落とした公爵令嬢の静かな逆転劇~

けろ

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第二十五話 セシル孤立

第二十五話 セシル孤立

王宮の廊下は、やけに長く感じられた。

セシルはひとり立ち尽くしている。

昨日まで、自分は王太子妃候補だった。

周囲は媚び、微笑み、称賛していた。

だが今――

誰も目を合わせない。

侍女が通り過ぎる。

一瞬だけ視線を向け、すぐに逸らす。

小さな声が背後でささやかれる。

「主犯と明言されたそうよ」
「王太子殿下が」

「……保身でしょう」

その言葉が胸を抉る。

「違うわ……」

思わず口に出る。

だが、否定してくれる者はいない。

私室へ戻ると、机の上に一通の書簡が置かれていた。

アーディン家からだ。

震える手で封を切る。

内容は簡潔だった。

――当家は王宮の調査に全面協力する。
――本件に関する責任はセシル個人の判断によるもの。
――家としての関与はない。

目の前が暗くなる。

「……嘘」

父も、継母も、自分を切った。

守るはずだった家が。

味方だったはずの血縁が。

逃げた。

「わたくしのためにやったのでは……」

違う。

最初から、王家の資金を利用したのは彼らだ。

都合が悪くなれば切る。

それだけ。

王宮の別室。

重臣たちが報告をまとめている。

「アーディン家は関与否定」

「証拠はセシル嬢の指示に集中」

「庇う者は?」

「なし」

一言で終わる。

味方ゼロ。

それが現実だ。

アルヴァリオは自室で書簡を握り締めていた。

セシルを切った。

それで王位が守れると信じた。

だが――

重臣の態度は変わらない。

父の視線も冷たいまま。

「……俺は正しかった」

自分に言い聞かせる。

だが心は揺れる。

舞踏会の夜の言葉が蘇る。

守ると誓った。

それを、自分で壊した。

公爵邸。

報告は簡潔だった。

「アーディン家、関与否定。義妹様単独扱い」

私は紅茶を置く。

「家も切りましたか」

「はい」

「当然ですね」

感情はない。

予想通りだ。

孤立は始まっている。

王都では噂がさらに広がる。

「家族にも見捨てられたらしい」
「王太子にも切られた」
「哀れ……」

哀れ。

それは最も残酷な評価だ。

怒りや嫉妬ではない。

同情と軽蔑。

セシルは廊下で立ち尽くす。

誰も声をかけない。

誰も助けない。

扉がひとつ、ふたつと閉じられていく。

王太子妃候補の座は事実上消えた。

支えはない。

家も、恋人も、味方も。

孤立。

それは処罰よりも重い。

夜。

セシルは鏡の前に立つ。

涙で滲む顔。

かつては“可憐”と呼ばれた表情。

今は、不安だけが残る。

「……お姉様」

ふと呟く。

怒りか、後悔か。

だがヴェルミリアは何もしていない。

選んだのは自分。

盗んだのも自分。

資金を動かしたのも自分。

そして、信じた相手に切られたのも――

自分の選択の結果。

公爵邸の庭。

私は夜風を感じる。

「孤立しましたね」

執事が静かに言う。

「ええ」

星空を見上げる。

戦いは終盤に向かっている。

孤立は前兆。

支えを失った者は、崩れるのが早い。

セシル孤立。

それは静かな宣告。

守ると誓った男に切られ、家族に切られ、社交界に背を向けられた。

王太子の延命策は、彼女を差し出すことだった。

だがその代償は――

王太子自身の信用を、さらに削る結果となる。

孤立は連鎖する。

そして、転落は加速する。
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