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興味
「でもそれは私が決めることです」
「何だと?」
「これ以上私がここにいる理由はありません」
クラリモンドは苛立った。
「マリア!」
その時――廊下の奥から弱々しい声が響いた。
「お兄様……」
シャリルンだった。白い寝間着のまま立っている。
「大丈夫なのか!」
クラリモンドは慌てて駆け寄った。
「起きてはいけないと言っただろう」
「でも……」
シャリルンは不安そうにマリアを見ながら続ける。
「マリア様が……いなくなると聞いて……」
その目は涙で潤んでいた。とても弱々しい表情。きっと男心をくすぐるのだろう。
「私のせいです……」
シャリルンは震える声で言う。
「私が病弱だから……」
クラリモンドはすぐに言った。
「そんなことはない」
「でも……」
「気にするな」
彼は優しく肩を抱く。
「マリアが勝手に拗ねているだけだ」
その言葉に、侍女たちが息を呑んだ。マリアは――少しだけ目を細め、静かに言った。
「シャリルン様」
「は、はい……」
「どうかお気になさらないでください」
マリアは微笑む。
「クラリモンド様がお側にいらっしゃいますから」
シャリルンは一瞬、言葉を失った。クラリモンドは不満そうに言う。
「マリア、いい加減にしろ」
マリアは軽く一礼した。
「お世話になりました」
そして玄関へ向かう。
「待て!」
クラリモンドが声を上げる。だがマリアは止まらなかった。扉を開けると眩しいほどに朝の光が差し込んだ。
外には一台の見慣れない紋章をつけた馬車が止まっていた。マリアは足を止めた。
「……?」
御者が帽子を取り、恭しく頭を下げる。
「マリア・ベルディア様でいらっしゃいますね」
「はい」
「お迎えに参りました」
マリアは驚いた。
「迎え?」
その時、馬車の扉が開いた。中から一人の男が降りてくる。黒い外套、落ち着いた佇まい。彼はゆっくりマリアの前に立ち、丁寧に礼をした。
「突然の訪問をお許しください」
低く穏やかな声。
「私はカイル・コーウェンと申します」
その名前に、執事が息を呑んだ。
社交界でも名の知れた名門侯爵だ。整った容姿は多くの女性の羨望を集めているが、浮ついた噂は一つとして聞いたことがない。カイルは静かに言った。
「マリア様」
「はい」
「少し、お時間をいただけませんか」
マリアは首をかしげる。
「私に?」
「ええ」
侯爵は微かに笑った。
「あなたに、とても興味がありまして」
玄関の中で、クラリモンドが驚いた顔をしていた。マリアはしばらく考え、答える。
「分かりました」
静かに答えた。それが、彼女の人生を大きく変える出会いになるとは……まだ誰も知らなかった。
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