「君は健康だから我慢できるだろう」と言われ続けたので離縁しました。――義妹の嘘が社交界で暴かれます

暖夢 由

文字の大きさ
21 / 26

泣くことで、状況を作る子

子どもたちは夢を描く。 ”お姫様” ”王子様” ”物語の主人公”
だが――侯爵は紙を指先で軽く押さえながら言った。

「問題はこの紙と一緒にあったということですね」

マリアは視線を落とす。
机の上。
古い祈祷書。
そしてその下から出てきた紙。

 「わたしを守るのはわたし」

侯爵は静かに続けた。

「普通の子どもが“お姫様になりたい”と言う時。そこには、守ってくれる誰かがいます」

マリアはゆっくり頷く。物語の中の姫、王子、騎士、家族。
だが…侯爵は低く言った。

「この子は違う」

紙を軽く叩く。

「“自分で自分を守る”」

一瞬、間を置く。

「そして…“お姫様になる”」

マリアの胸に、ゆっくりと理解が広がる。修道女が小さく言った。

「……私は」

少し迷いながら続ける。

「その紙を見た時、ただの夢ではないと思いました」

マリアが顔を上げる。修道女の目は遠い。

「願いではなく目標のように見えたのです」

侯爵が静かに頷いた。

「ええ、私もそう思います」

マリアの手が机の上で静かに重なる。

「……目標」

小さく繰り返す。侯爵は続けた。

「彼女は、おそらく幼い頃から理解していた。”弱い者は守られる”、”泣く者は信じられる”、”可哀想な者は愛される”と。」

マリアの胸に、過去の場面がいくつも浮かぶ。
シャリルンが倒れた日。青ざめた顔。震える声。そして、周囲の言葉。

――「可哀想だから」
 ――「無理させてはいけないから」
 ――「マリア様は健康だから」

マリアはゆっくり目を伏せた。侯爵の声が続く。

「彼女はその仕組みを理解し、そして使った」

部屋の空気が、静かに沈んだ。修道女がぽつりと言った。

「……それでも―――私は時々思うのです」

マリアが首を傾ける。修道女は言った。

「最初から、ああだったのか、それとも…ここで、そうなってしまったのか」

その問いに、誰も答えなかった。窓の外で風が揺れる。古い修道院の庭。侯爵が静かに立ち上がった。

「いずれにせよ」

マリアを見る。

「一つだけ、はっきりしました」

マリアも立ち上がる。

「何がですか」

侯爵は淡々と言った。

「彼女は守られるために泣くのではない。泣くことで、状況を作る子です。自分に有利な状況をね」

マリアは小さく頷いた。

「ええ ――  知っていました」

侯爵が少しだけ眉を上げる。マリアは続けた。

「証拠はありませんでした。誰も信じないと思っていましたし、私自身もそんなこと認めたくなかったのかもしれません」

小さく息を吐く。

「だから言いませんでした」


感想 22

あなたにおすすめの小説

私は不要とされた~一番近くにいたのは、誰だったのか~

ゆめ@マンドラゴラ
恋愛
彼の幼馴染は、いつも当然のように隣にいた。 「私が一番、彼のことを分かっている」 そう言い切る彼女の隣で、婚約者は何も言わない。 その沈黙が、すべての答えのように思えた。 だから私は、身を引いた。 ――はずだった。 一番近くにいたのは、本当に彼女だったのか。 「不要とされた」シリーズ第三弾。

「姉なんだから妹に従え」と命じる両親。でも、その妹、お父様の子じゃありませんよ?

恋せよ恋
恋愛
「姉なんだから、妹に譲りなさい」 その言葉で婚約者も居場所も奪われた。 でもお父様、お母様。 私に押し付けたその妹、実は不義の子ですよね? 狂った愛の箱庭で虐げられた伯爵令嬢が、 真実という名の火を放ち、自由を掴み取る物語。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

鳴宮野々花
恋愛
 伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。  ところが新婚初夜、ダミアンは言った。 「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」  そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。  しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。  心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。  初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。  そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは───── (※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)

戦いに行ったはずの騎士様は、”女”を連れて帰ってきました。

睡蓮
恋愛
健気に騎士ランハートの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のクレア。しかし帰還の日にランハートの隣にいたのは、同じ騎士であるレミリアだった。親し気な様子をアピールしてくるレミリアに加え、ランハートもまた満更でもないような様子を見せ、ついにランハートはクレアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するランハートであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

「あなたの隣で笑い続けた私が、今日から私のために笑います」

まさき
恋愛
伯爵令嬢エリーゼの親友として、5年間笑い続けた。 エリーゼは悪い子じゃない。ただ——私が演じていたことに、一度も気づかなかった。 婚約が決まった日、私は手紙を書いた。引き止めを少しだけ期待しながら。 来なかった。 幼なじみの青年ルカだけが言った。「やっと終わったな」 誰かの隣ではなく、自分の真ん中で生きる。5年間笑い続けた女の、静かな再生の物語。

「今更、あなたの娘のふりなどできません」〜ずっと支えていた手を、そっと引っ込めただけです〜

まさき
恋愛
父が死んだ日から、私は屋敷の「異物」になった。 継母は新しい夫に夢中で、義姉たちは私を使用人のように扱い、継父は三年経っても私の名前を覚えない。 気づいていなかったのだ、あの人たちは。 私の「静寂の手」がずっと、この家を守り続けていたことを。 ある夜、私は静かに荷物をまとめた。 怒りもなく、涙もなく、別れの言葉すら残さずに。 三ヶ月後、屋敷に原因不明の病が広がり始める。 「リーナを探せ」 今更、ですか。 私はもう、別の場所で別の名前で——ちゃんと生きています。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。