「君は健康だから我慢できるだろう」と言われ続けたので離縁しました。――義妹の嘘が社交界で暴かれます

暖夢 由

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沈黙が語るもの

「あなたは、義妹を虐げたことはあって?」

「“虐げる”、ですか……」 

マリアはわずかに首を傾けた。 

「私は、そのような認識を持てるほど――義妹と深く関わる機会が、そもそもございませんでした」 

それは静かな声だった。言い訳でも、否定でもない。ただ事実を述べているだけの響き。婦人たちの視線がわずかに動く。マリアは続けた。

「男爵家では義妹が体調を崩すことが多く――そのたびに、主人は看病に付き添いました」

淡々と話しを進める。

「私は、屋敷の管理や社交の手配を任されておりましたので、同じ場にいること自体が、あまりなかったのです」

一人の婦人が、ゆっくりと頷いた。マリアは言葉を切る。それ以上は、何も言わない。だが、“言わなかった部分”が、静かに伝わっていく。しばしの沈黙が落ちた。
一人の婦人が、ゆっくりとカップを置く。その視線が、まっすぐマリアへ向く。

「あなたは、ほとんど関わっていない。それなのに―――“いじめていた”という話だけが広がっているのですね」

マリアは静かに頷いた。

「ええ」

伯爵夫人が、扇子を軽く開く。

「つまり――」 

その目が細められる。

「勝手な“物語が作られている”ということね」

空気が、ぴたりと止まった。別の婦人が、穏やかに言う。

「可哀想な義妹、それを守る兄」

そして、マリアを見る。

「姿を見せない妻」

小さく息を吐く。

「そこに“いじめ”という言葉を置けば誰でも物語の方向が理解できる」

マリアは静かに聞いていた。伯爵夫人が言う。

「もう一つ伺いたいの。義妹は――いつから“病弱”なのかしら?」

その問いに、マリアの中で、何かが静かに繋がった。 

「先日……修道院に、足を運びました」 

ゆっくりと言葉を選ぶ。婦人たちの視線が集まる。 

「シャリルン様がいらした場所です。そこではすでに――“身体が弱く、可哀想な子”として扱われていたそうです」 

静かなざわめき。

「だからこそ前男爵家の当主は、彼女を引き取った。保護するために」

マリアは目を伏せる。流れる沈黙。
やがて――

「……なるほどね」

誰かが、小さく呟いた。その声には、同情ではなく。 “理解”が滲んでいた。

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