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89.選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
しおりを挟む私は必死に最後まで声を絞りだした。
自分で決めて自分で選択するなんて事、これが初めてかもしれない。
マクレド家で暮らすことを決めたときだって、あの時はそれしか選択肢がなかった。
でもこれは違う。
自分で望んだことを口に出した。
それがこんなにも勇気が必要だなんて知らなかった。
反応がこわい………
エミリオ様ももしかしたらそうだったのかもしれない。
それでも言葉にしてくれた。
それがどんなにありがたい事なのか。
私の言葉にエミリオ様は手で口を覆い、上を向いた。
その顔は微笑んでいるように見える。
「もちろん!
もちろん!!
努力だって、なんだって一緒にする。
楽しいことだって幸せなことだって一緒にすれば倍以上嬉しい。
でも悲しみや辛さは半分にしよう。苦しいときはため込まないで言ってほしい。
そうして一緒に、年を重ねていきたいんだ」
そう言いながらまた私を包み込んでくれる暖かい身体。
誰かと”一生”を約束することなんてないかと思っていた。
それなのにこんなに幸せな瞬間が訪れるなんて………
「じゃあ、一つだけ頼ってもいいですか?」
「もちろん!!なんなりと!!」
「あのね………そろそろ立ってるの苦しいかも………」
「立ってるの…え?あ、ごめん!!」
私の言葉を聞いたエミリオ様はバッと私を抱きしめていた手を離した。
その瞬間、バランスが崩れた私は身体がグラッと揺れたのを感じた。
まずい……力が入らない………
フワッとしたのを感じたと思い、目を開けると困ったようなエミリオ様の顔がとても近くにあった。
「ごめん!!
病み上がりなのに長い時間立ったまま話をさせるなんて!」
エミリオ様が私を抱き上げたままそう話した時、屋敷の方から私を呼ぶ声が聞こえた。
「ナタリア様、ナタリア様」
その言葉にエミリオ様は振り返り、手を挙げた。
「ナタリー、ごめんね。
無理をさせてしまった。
とりあえず部屋に送っていく。さっきの話はナタリーが良くなってからにしよう」
そう言って部屋に向かって歩き始めた。
思った以上に体の力が抜けていて自分でも驚いている。
久しぶりに歩いたのと、頭が混乱し、頭を使ったことで疲労が出たのかもしれない。
でもどうしても伝えたい一言があった。
「はい。よろしくお願いします。
あのね……… エミちゃん……… 大好き…… 」
私のその一言にエミリオ様は何も答えてくれなかった。
うつむいたままエミリオ様の服を掴んでそう言っていた私は不安になり、思わず顔を見上げる。
そこには天を見上げている彼の姿があった。その顔は上を見ていても赤く染まっているのがわかる。
こんな何気ないやりとりが嬉しく思えるだなんて…
元婚約者は私ではなくアルバを選んだ。体調不良で寝ている私を放っておいて、アルバと愛し合っていた。そのことに絶望した。生きていても意味がないと思った。
でも実際は違った。
選ばれたのは私ではなかったというだけ。ただそれだけ。
でもそれは私も同じ。
あの時の人生を選ばなかったのは私。新しい人生を選択した。ただそれだけ。
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