【完結】あやかし街の看板娘

MURASAKI

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六狼ろくろうを知らない?栗栖六狼くりすろくろう。私の、ふたつ下の弟なんですが。」

「えっ!!?」


栗栖くんは下の名前六狼ろくろうって言うのか!と、言われてはっとする。
音だけしか聞いたことが無いので、私はてっきり<クリス>という下の名前だと思っていた。


あれだけ日本人離れした───本性があやかしなんだから日本人かどうかも怪しいけれど───見た目なのに<ろくろう>って名前なのかあ。
日本人みたいで親近感持つなあ。


そんなことを考えながら、栗栖の兄を名乗る美青年の問いに返答する。


「はい、栗栖くんでしたら知っています。リーフ亭でお世話になっています。あなたは栗栖くんのお兄さんなんですね?」

「ええ。」


私の問いを肯定すると、さわやかな笑顔を浮かべた美青年は自分の名前を紫狼しろうと名乗った。
どうやら、栗栖くんがリーフ亭であった出来事をお兄さん達に話しをしたらしく、私に興味を持った紫狼しろうさんが見に来たそうだ。


「私は、ちょっとした会社を経営していてね。今は外注に出しているが、丁度社内に担当が欲しいところだったんだ。それで、あなたを勧誘できないかと思いまして。
 ただ、流石に人となりが分からなければ採用は難しい。だからこうして逢いに来たんですよ。」

「ええ!?それって、スカウトですか?」

「はい。六狼ろくろうの話では、すばらしく腕のいいデザイナーと聞いております。」

「いえ、私はまだ駆け出しですから。そこまで凄いわけでは・・・。」

「謙遜しなくていいのですよ。私もメニューを見せていただきましたが、狐の店には勿体ない出来でした。」


!?私のことを助けてくれた狐崎こざきさんを、狐呼ばわり?


栗栖の兄ということで、少し解きかけていた警戒をもう一度締める。狐崎こざきのことを狐扱いする紫狼しろうに、少しカチンとしてしまったからだ。


狐崎こざきさんともお知り合いなのですね?」

「ええ、もちろん。私たちは神の眷属ですから、昔からずっと知っておりますよ。と言いますか、あの狐とは同じ年齢なので良く比べられました。六狼おとうとも随分懐いていて・・・。」


狐崎こざきの話になると、物腰が柔らかそうな紫狼しろうの顔が歪み、語尾も少し荒くなっているように感じる。
なんだかこの人と話している事が、狐崎こざきを裏切っているような気持ちさえしてくる。
少し後ろに後ずさり、徐々に距離を取る。
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