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10 変態のせいで大変になった
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「っ⁈…王太子殿下がどうしてこんな所へ…⁈」
パニックになったのか、貴族男性はカールを床に突き飛ばすと、慌てた様に扉の外へと逃げ出していく。
そこには既にジョゼル様が控えていたため、呆気なく床の上に取り押さえられることとなった。
「ドルディーノ子爵…先ほどは鍵を開ける違法魔道具を使用していた様だが…。それをどこで手に入れたのかも貴殿には問いたいのだが?」
王太子殿下の言葉に併せて、ジョゼル様が男性の胸ポケットを探ると、銀細工の小さな鍵が出てくるのが見えた。
…カールの目には普通の鍵にしか見えないが…これが本当に違法魔道具なのだろうか。
アーデルハイト王国では魔道具の民間流通はしていない。
国民もほとんどの者が魔力を持っていないためにそれを悪用した犯罪行為が多発したことから、全ての魔道具の輸入が禁止されているのだ。
それをこの貴族はどうやって手に入れていたのだろう…?
「これを使い、今までも王宮内で悪事を働いていたのか?まあ、先ほどの手慣れた様子からも相当の余罪はありそうだが…」
王太子殿下に睨みつけられると、貴族男性は突然カールを指さして、憎々し気に叫んだ。
「コイツが私に色仕掛けですり寄ってきたのです‼ 自分の体を抱かせてやるから金品と、この魔道具を代わりに寄越せと‼…これは私の物ではありませんし、全ての元凶はコイツなのです」
ここまで往生際が悪いと、むしろ清々しい位だな。
初めて来た王宮でこんなひどい目に遭わされたのだから、私は二度と来ないと公言してやろうと心に決める。
「ドルディーノ子爵…話したいことはそれだけか?」
王太子殿下は冷たい声で貴族男性を睨みつけると、ジョゼルにチラリと目配せしてその体を立ち上がらせた。
「彼は私の友人だ。まだ王宮にも日が浅く、色仕掛け出来るだけの手練手管も持ち合わせてはいないデビュタントしたての貴族令息だぞ?…それにこの魔道具がお前の物では無いと叫んでいた様だが、それが胸ポケットに入っていた理由についても問いたださねばならぬようだな。これからたっぷりと余罪を取り調べてやるから楽しみにしておけ」
王太子殿下の眼光に怯えた様子で『お慈悲を…』と繰り返す貴族男性は、そのままジョゼル様と警備兵に引きずられるように廊下の向こうへと消えていった。
「カール…大丈夫だったか?」
手を差し伸べられて、漸く我に返った私は自分が床に座り込んだままだったことに気が付いた。
「本当に怖かった…もう…このまま襲われるのかと…」
言葉にすると、恐怖が蘇ってきて思わず涙が零れる。震える体を、王太子殿下が心配そうにそっと抱き止めてくれた。
「先ほどの貴族は、お前が客間から出てくる様子をずっと覗っていたんだ。一人になったタイミングを見計らって魔道具を使用した処を、お前の様子を見に行った執事が目撃して、不審に思い私達へと知らせてくれた」
“後で褒美をやらないとな”と耳元で王太子殿下の声が響くけれど、先ほどの貴族男性のような不快感はなかった。
「先ほど私を客間に案内してくれた執事さんが助けてくれたんですか?」
グチャグチャに泣きぬれた顔で殿下を見ると、予想外の顔の近さに驚いたものの『そうだ』と頷かれる。
「…執事さんにお礼を言ってきます」
ハンカチで涙を拭うと、客間に居た執事の元へ駆け寄って思い切り縋り付いた。
「た…助けてくれて…本当にありがとうございました。怖くて…このまま襲われちゃうのかと…うっ…ふぇ…」
いきなり抱き付いてきた私の暴挙にも動じず、老齢の執事は優しく頭を撫でてくれる。
「カール様がご無事でようございました。私ども使用人の立場ではドルディーノ子爵様には歯向かえなかったもので、僭越ながら王太子殿下にご進言させていただいたのです」
優しい手の感触に安心したら、また涙が溢れて止まらない。
そのぬくもりに、漸く私が落ち着く頃、不機嫌な顔をした王太子殿下とジョゼル様が戻って来て、お茶会は再会することになった。
「まさか王宮内にあのような不埒な輩がいるとも思わなかった。カールも恐ろしい思いをしたな」
気まずそうな顔をする王太子殿下に、先ほどの自分の醜態を思い出して思わず顔が熱くなる。
「あの…先ほどは助けて頂きありがとうございました。…動揺して…お見苦しいところをお見せしてしまい…申し訳ありません」
頭を下げながらも、“二度と王宮には来ないからな”と心の中で悪態をついていると、シャルル様が苦笑いしながら声を掛けてきた。
「折角王宮に来てくださったのに嫌な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。次回までにはドルディーノ子爵を断罪し、王宮の警備体制も見直すように国王陛下に進言するつもりです」
…はぁ?…次回って…次回⁈ あるの⁈
完全に二度と来ないつもりだっただけに衝撃が大きい。
「あ…の?お茶会は本日で終わりでは…?まだ何かお話があるのでしょうか?」
動揺しながら聞くと王太子殿下が益々不機嫌な顔でこちらを睨んでくる。
「お前と親睦を図るためのお茶会なのに、こちらの不手際でこんなことになっては、私の面目が立たん。次回こそ挽回するからまた来るが良い」
「いえ…お気持ちだけで。美味しいお菓子もお茶も充分に堪能しましたから‼最後に執事さん…お名前は何でしたっけ?」
「執事か?…確かジアンとか言ったはずだ」
ジョゼル様が名前を教えてくれたので、もう一度ジアンさんの元へ向かう。
「ジアンさん、本日は助けて下さってありがとうございました。一生御恩は忘れません。もうお会いすることも無いかと存じますがお元気でお過ごし下さい」
ペコリと頭を下げてから、今度は王太子殿下達に向かって大きく頭を下げる。
「本日はありがとうございました。私は今日で領地に帰りますので、皆様お元気で」
言い捨てて部屋を後にする。…もうこんな恐ろしい王宮にはうんざりだ。
私はさっさと領地へ帰って、また平穏な日々を過ごすのだ。
唖然とする3人には目もくれずに、一人でスタスタと渡り廊下を歩いていると、後ろから追いついてきた王太子殿下に肩を掴まれた。…チッ‼意外と立ち直りが早いな…。
「…まだ話は終わっていないのだから帰るのは許さん。もう一度客間へ戻れ」
「でしたら、ここでお話は伺います。早く領土へ帰らないと病弱な弟が心細がって泣いていると可哀想ですから」
実際のカール兄様はそんな性格ではない。病弱ではあるが、腹黒で意地の悪いところもある。
でもここは嘘も方便だ。私はさっさと帰りたいのだ‼
「…お前が領地に帰るのは病弱な弟の為だけか?それ以外に王都に居たくない理由は無いのだな?」
いや、王都に居たい理由の方が無い…そう言いたいところだが、グッと堪えて頷く。
「では、弟のルイスを王都へ呼び寄せろ。王宮の離宮で王宮医師が弟の治療にあたればルイスの病気も治り、お前も王宮へまた来られるだろう?」
…本気で何を言っているのだ⁈この王太子殿下は⁈
「我が家には高額な王宮医師に支払うだけの金銭もありませんし、弟を離宮に置いていただく理由がありません‼…大体、領土からこちらへ来るのにも弟の体調が心配で…」
「馬車でゆっくり移動させる。道中休み休み時間を掛けて来させれば問題も無いし、医師も同行させれば問題あるまい」
「そこまでしていただく理由がありません‼王太子殿下にお支払いする対価も無いですし…」
「カール、お前だ」
…はい?私が何でしょう…?
「私はお前が気に入った。これから毎日王宮で公務や学術院の勉学をここで共に学んでもらおう。友人として振舞い、私を支える。それがお前の支払う対価だ。…悪い話ではあるまい?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる王太子殿下に目眩がする。
「あの…お返事は…両親に相談してから…」
ルイ―セはそう答えるだけでもういっぱいいっぱいだった。
パニックになったのか、貴族男性はカールを床に突き飛ばすと、慌てた様に扉の外へと逃げ出していく。
そこには既にジョゼル様が控えていたため、呆気なく床の上に取り押さえられることとなった。
「ドルディーノ子爵…先ほどは鍵を開ける違法魔道具を使用していた様だが…。それをどこで手に入れたのかも貴殿には問いたいのだが?」
王太子殿下の言葉に併せて、ジョゼル様が男性の胸ポケットを探ると、銀細工の小さな鍵が出てくるのが見えた。
…カールの目には普通の鍵にしか見えないが…これが本当に違法魔道具なのだろうか。
アーデルハイト王国では魔道具の民間流通はしていない。
国民もほとんどの者が魔力を持っていないためにそれを悪用した犯罪行為が多発したことから、全ての魔道具の輸入が禁止されているのだ。
それをこの貴族はどうやって手に入れていたのだろう…?
「これを使い、今までも王宮内で悪事を働いていたのか?まあ、先ほどの手慣れた様子からも相当の余罪はありそうだが…」
王太子殿下に睨みつけられると、貴族男性は突然カールを指さして、憎々し気に叫んだ。
「コイツが私に色仕掛けですり寄ってきたのです‼ 自分の体を抱かせてやるから金品と、この魔道具を代わりに寄越せと‼…これは私の物ではありませんし、全ての元凶はコイツなのです」
ここまで往生際が悪いと、むしろ清々しい位だな。
初めて来た王宮でこんなひどい目に遭わされたのだから、私は二度と来ないと公言してやろうと心に決める。
「ドルディーノ子爵…話したいことはそれだけか?」
王太子殿下は冷たい声で貴族男性を睨みつけると、ジョゼルにチラリと目配せしてその体を立ち上がらせた。
「彼は私の友人だ。まだ王宮にも日が浅く、色仕掛け出来るだけの手練手管も持ち合わせてはいないデビュタントしたての貴族令息だぞ?…それにこの魔道具がお前の物では無いと叫んでいた様だが、それが胸ポケットに入っていた理由についても問いたださねばならぬようだな。これからたっぷりと余罪を取り調べてやるから楽しみにしておけ」
王太子殿下の眼光に怯えた様子で『お慈悲を…』と繰り返す貴族男性は、そのままジョゼル様と警備兵に引きずられるように廊下の向こうへと消えていった。
「カール…大丈夫だったか?」
手を差し伸べられて、漸く我に返った私は自分が床に座り込んだままだったことに気が付いた。
「本当に怖かった…もう…このまま襲われるのかと…」
言葉にすると、恐怖が蘇ってきて思わず涙が零れる。震える体を、王太子殿下が心配そうにそっと抱き止めてくれた。
「先ほどの貴族は、お前が客間から出てくる様子をずっと覗っていたんだ。一人になったタイミングを見計らって魔道具を使用した処を、お前の様子を見に行った執事が目撃して、不審に思い私達へと知らせてくれた」
“後で褒美をやらないとな”と耳元で王太子殿下の声が響くけれど、先ほどの貴族男性のような不快感はなかった。
「先ほど私を客間に案内してくれた執事さんが助けてくれたんですか?」
グチャグチャに泣きぬれた顔で殿下を見ると、予想外の顔の近さに驚いたものの『そうだ』と頷かれる。
「…執事さんにお礼を言ってきます」
ハンカチで涙を拭うと、客間に居た執事の元へ駆け寄って思い切り縋り付いた。
「た…助けてくれて…本当にありがとうございました。怖くて…このまま襲われちゃうのかと…うっ…ふぇ…」
いきなり抱き付いてきた私の暴挙にも動じず、老齢の執事は優しく頭を撫でてくれる。
「カール様がご無事でようございました。私ども使用人の立場ではドルディーノ子爵様には歯向かえなかったもので、僭越ながら王太子殿下にご進言させていただいたのです」
優しい手の感触に安心したら、また涙が溢れて止まらない。
そのぬくもりに、漸く私が落ち着く頃、不機嫌な顔をした王太子殿下とジョゼル様が戻って来て、お茶会は再会することになった。
「まさか王宮内にあのような不埒な輩がいるとも思わなかった。カールも恐ろしい思いをしたな」
気まずそうな顔をする王太子殿下に、先ほどの自分の醜態を思い出して思わず顔が熱くなる。
「あの…先ほどは助けて頂きありがとうございました。…動揺して…お見苦しいところをお見せしてしまい…申し訳ありません」
頭を下げながらも、“二度と王宮には来ないからな”と心の中で悪態をついていると、シャルル様が苦笑いしながら声を掛けてきた。
「折角王宮に来てくださったのに嫌な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。次回までにはドルディーノ子爵を断罪し、王宮の警備体制も見直すように国王陛下に進言するつもりです」
…はぁ?…次回って…次回⁈ あるの⁈
完全に二度と来ないつもりだっただけに衝撃が大きい。
「あ…の?お茶会は本日で終わりでは…?まだ何かお話があるのでしょうか?」
動揺しながら聞くと王太子殿下が益々不機嫌な顔でこちらを睨んでくる。
「お前と親睦を図るためのお茶会なのに、こちらの不手際でこんなことになっては、私の面目が立たん。次回こそ挽回するからまた来るが良い」
「いえ…お気持ちだけで。美味しいお菓子もお茶も充分に堪能しましたから‼最後に執事さん…お名前は何でしたっけ?」
「執事か?…確かジアンとか言ったはずだ」
ジョゼル様が名前を教えてくれたので、もう一度ジアンさんの元へ向かう。
「ジアンさん、本日は助けて下さってありがとうございました。一生御恩は忘れません。もうお会いすることも無いかと存じますがお元気でお過ごし下さい」
ペコリと頭を下げてから、今度は王太子殿下達に向かって大きく頭を下げる。
「本日はありがとうございました。私は今日で領地に帰りますので、皆様お元気で」
言い捨てて部屋を後にする。…もうこんな恐ろしい王宮にはうんざりだ。
私はさっさと領地へ帰って、また平穏な日々を過ごすのだ。
唖然とする3人には目もくれずに、一人でスタスタと渡り廊下を歩いていると、後ろから追いついてきた王太子殿下に肩を掴まれた。…チッ‼意外と立ち直りが早いな…。
「…まだ話は終わっていないのだから帰るのは許さん。もう一度客間へ戻れ」
「でしたら、ここでお話は伺います。早く領土へ帰らないと病弱な弟が心細がって泣いていると可哀想ですから」
実際のカール兄様はそんな性格ではない。病弱ではあるが、腹黒で意地の悪いところもある。
でもここは嘘も方便だ。私はさっさと帰りたいのだ‼
「…お前が領地に帰るのは病弱な弟の為だけか?それ以外に王都に居たくない理由は無いのだな?」
いや、王都に居たい理由の方が無い…そう言いたいところだが、グッと堪えて頷く。
「では、弟のルイスを王都へ呼び寄せろ。王宮の離宮で王宮医師が弟の治療にあたればルイスの病気も治り、お前も王宮へまた来られるだろう?」
…本気で何を言っているのだ⁈この王太子殿下は⁈
「我が家には高額な王宮医師に支払うだけの金銭もありませんし、弟を離宮に置いていただく理由がありません‼…大体、領土からこちらへ来るのにも弟の体調が心配で…」
「馬車でゆっくり移動させる。道中休み休み時間を掛けて来させれば問題も無いし、医師も同行させれば問題あるまい」
「そこまでしていただく理由がありません‼王太子殿下にお支払いする対価も無いですし…」
「カール、お前だ」
…はい?私が何でしょう…?
「私はお前が気に入った。これから毎日王宮で公務や学術院の勉学をここで共に学んでもらおう。友人として振舞い、私を支える。それがお前の支払う対価だ。…悪い話ではあるまい?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる王太子殿下に目眩がする。
「あの…お返事は…両親に相談してから…」
ルイ―セはそう答えるだけでもういっぱいいっぱいだった。
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