2 / 4
2話「もしかしてゲームと同じ?」
しおりを挟む思い出した……。
思い出したけど、今わたしの目の前には話を聞いてくれそうな人どころか、わたしを餌認定してそうな獣しかいない。
(加護とか祝福とか言ってたクセに、どうなってんのよ女神さま!)
獣たちの中でいちばん小柄な1頭が、わたしに向かってうなり声を上げ跳びかかってきた。
(喰われる!)
痛みを覚悟し、咄嗟に頭を抱えてうずくまる。しかし恐れていた痛みは無く、それどころか獣の重みも臭いも感じない。
「……助かった……の?」
ゆっくりと腕の隙間から覗くと、手を伸ばせば届きそうなくらい近くに、獣のむき出しの歯が見えた。
「ひいいい! 全然助かってない!」
驚いて腰を抜かし、そのまま後ずさるが、獣はそれ以上近づいてこなかった。いや、そうではなくて……。
「もしかして……、近づけない?」
獣は前に進もうと前足を上げるが、見えない何かに阻まれるように、ざりざりと足元の地面を蹴っていた。
目を凝らしてよく見ると、獣の鼻先辺りに、薄い虹色の幕の様なものが光っている。
「良かった……。いきなり獣の餌にならずにすんだみたい」
とはいえ、いつまでもこんな獣たちの近くにいたくはない。できるだけ早く獣たちから離れて、どこか安全な所に移動しないと。
(さっき、あのぺかぺか女神さま、この世界の事をアルブレアって言ってたよね)
もし女神の言うアルブレアがわたしの知ってるゲーム世界のアルブレアなら、威力の差はあれど魔法は誰でも使えるはず。ましてやわたしのことを『聖女』と呼んでいたなら、魔力は保証されたようなものだ。
ダメで元々。どうせ近くに誰も居ないのだし、多少大声で叫んだって、聞かれてないなら恥ずかしくない。恥ずかしくなんてない……!
「火の精霊達よ、我が声に応え力を貸したまえ! ファイヤーアロー!」
ゲームのキャラクターよろしく、右手を獣たちの方に向けて、『アルブレアの神獣』内で使われている『乙女ゲームのくせに厨二くさい』呪文を唱える。
轟音を立ててわたしの横を、巨大な火の矢が何本か獣たち目がけて飛んで行く。矢、というより大砲なんじゃないかな? これ。火系の一番弱い全体攻撃魔法のはずなんだけど。
ドン、ドン、と矢とは思えないような着弾音と共に、獣たちが一瞬で焼かれ、消し炭すら灰にする。
(火力が……強すぎる)
わたしの魔力がどの程度かは分からないが、『聖女』と呼ばれるにふさわしい魔法レベルだ。聖女が破壊力ありすぎるのはどうかと思うけど。
ぶわりと上がった熱風の向こう、獣たちがいた辺りにキラリと赤く光るものが見えた。
「……ジェムだ」
ゲーム内でミニゲームをクリアした時に貰える『ジェム』というドロップアイテムにそっくりだ。
『アルブレアの神獣」ではジェムを街の神殿に持ち帰ると、自分のスキルを上げる事ができる。スキルも種類がいくつかあって、上げるスキルによって職業を決められるし、変えることもできる。ゲーム内での必須ドロップアイテムだ。
「てことは。今の獣って魔物だったんだ」
一本角に狼の様な見た目、ゲーム内ではかわいいデザインになっていたので気付かなかったが、角で獲物を突き刺して殺す『串刺しウルフ』で間違いないだろう。
(結構強い魔物だったよね。いきなりチュートリアルで出てくるレベルじゃない。いや、それよりも――)
「『聖女』って、ゲームに居ないんだけど……」
わたしの大好きなゲーム『アルブレアの神獣』は、街に住む普通の少女がマップ内のミニゲームをクリアして、色んな職業を経て攻略対象の男性達と出会って恋する恋愛シュミレーションゲーム。
そして選べる職業にも、その他のキャラクターにも『聖女』なんて存在しなかった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!
夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。
彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。
価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い!
これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。
乙女ゲーの世界に聖女様として召喚されたけど興味がないので妹に譲ります
ゆずぽんず
恋愛
ある日、ユウとチカの姉妹が乙女ゲームの世界に聖女様として召喚された。
好きなゲームの世界に入れたと喜ぶ妹のチカ。
本来、聖女様として召喚されるのだったの一人。どちらかが死に、召喚された。
妹のことが大切な姉のユウは、妹がこの世界にいたいのならば私が偽物となってこの世界から消えようと決意する。
*乙女ゲーマーによる小説です。乙女ゲーになろう設定混ぜ込んでみました。
*乙女ゲーによくある設定(共通ルートやバッドエンドなどのよくある設定)の説明があります。分かりにくかったらすみません。
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる