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偶像の叫び声11
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「魂の奈落。トラウマで構成された心象世界の牢獄へ堕とす霊障か。人によっちゃ致命的な能力だな」
「そうですね。否定すればするほど深みに嵌まる。トラウマを受け入れられなければ目覚められない類いのものです」
アリス姫と前田拓巳は当然の権利のように陽子の霊障から復帰した。
浄化結界に混ざった呪詛も瞬く間に分解されていく。精神勝負をこの二人に挑んでしまった時点でこの結果は分かりきっていたのかもしれない。
悪霊としての質が幾ら高かろうと相性というものはある。アイドルマインドの絶対命令権も精神力さえ高ければ抗える。
重力が何倍にも膨れ上がっているように感じようとも二人は足を止めず陽子に近付き続けていた。
【来ないで。来ないでよぉ……】
涙を浮かべて陽子はイヤイヤと首を振った。アイドルマインドの使いようによっては二人を完封する事も可能な力を陽子は備えつつあったが、肝心の本人がチートを使用している自覚がない。ポン太の言葉通り、陽子は強力で便利なチートを与えられようとも上手く使いこなせはしないのだ。
だが、その事実は何も悪い事ばかりではなかった。
「この馬鹿」
アリス姫の手が陽子の頭をベシッと叩いて撫でた。そう陽子は感じた。
能力の有効射程にまで陽子に近付いた拓巳が降霊術の一種である口寄せで己の肉体に陽子の魂を降ろしたのだ。雑多な地縛霊の集合体から陽子を切り離すには最適な手段だが、それは陽子の纏う呪詛の穢れに自らの肉体を晒す危険行為でもあった。
自分に一切の説明もなく博打行為に踏み切った拓巳を苦い顔でアリス姫は見て、溜息を吐いて陽子に語りかけた。既に制止するのは手遅れだ。浄化と説得に注力するしかアリス姫には選択肢がなかった。
「どいつもこいつも。少しは事前に相談しろよ。弱音を吐け。もっと早く泣きつけ。黙ってちゃ何も伝わらんだろーが」
「あっ……う……」
「俺は博愛主義者でも聖人君子でもねぇ。ただのネカマの姫プレイヤーだ。元社畜のVtuberだ」
だからな、そうアリス姫は笑って陽子に告げた。
「依怙贔屓だってすんだよ。顔も知らん何処かの誰かよりもお前の味方になってやる。だから泣くな」
そう言ってアリス姫は陽子を抱きしめた。
あまりにも身勝手な言い分である。大勢の人間に消えぬ傷跡を残した大事件を招いた下手人への対応ではない。
でも、だからこそ。
陽子はやっと心の底から泣く事が出来たのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「これがディストピア社会の形成された事件の概要さ。地獄への道は善意で舗装されてるとは言うが、因果なものだねぇ」
「ええ? アリス姫と前田拓巳が藤原史郎に殺害されたアイドルの山川陽子を救ったんですよね? 二人は、いえ藤原史郎以外は誰も悪くないのに」
「それが歴史の流れの奥深い所なのだよ。ま、この一連の事件が起きなきゃ日本は海の底に沈んでいるし藤原史郎も含めて良い影響を世界に与えてはいるのだけれども」
殺人鬼、藤原史郎を褒め称えた教師に二桁にもならない少年少女はブーイングの嵐で応えた。
薄気味の悪い殺人鬼は世間の評判が良くない。特に藤原史郎は様々なドラマや映画で悪役として登場する有名人物だ。
この教師以外の発言だったのならば危険思想の持ち主として監視されていてもおかしくはなかったかもしれない。
「そもそも先生が手を出せば、どうにでもなったでしょ?」
「ホントだよ。何してたの先生」
「肝心なところで役立たずなのよね、この人」
ボロカスに貶された教師は困った顔をして額をかいた。
「やれやれ。安倍晴明なんて名乗らなきゃ良かったですねぇ」
「また言ってる」
「責任逃れは見苦しいぞーぅ」
キャッキャと騒ぐ子供達に清明はヤレヤレと肩をすくめた。
「それじゃあアリス姫が山川陽子を救助した事がどうしてディストピア社会の形成に繋がったのかは一先ず置いて、先に藤原史郎の起こした事件を語りましょうかね。舞台は様々な異能者の集うV企業ひめのやの本拠地、ワンダーランドマンション」
その地で藤原史郎は自力で異能者へと覚醒した。
これから語るのは歴史に名を残した伝説の殺人鬼の逸話である。
「そうですね。否定すればするほど深みに嵌まる。トラウマを受け入れられなければ目覚められない類いのものです」
アリス姫と前田拓巳は当然の権利のように陽子の霊障から復帰した。
浄化結界に混ざった呪詛も瞬く間に分解されていく。精神勝負をこの二人に挑んでしまった時点でこの結果は分かりきっていたのかもしれない。
悪霊としての質が幾ら高かろうと相性というものはある。アイドルマインドの絶対命令権も精神力さえ高ければ抗える。
重力が何倍にも膨れ上がっているように感じようとも二人は足を止めず陽子に近付き続けていた。
【来ないで。来ないでよぉ……】
涙を浮かべて陽子はイヤイヤと首を振った。アイドルマインドの使いようによっては二人を完封する事も可能な力を陽子は備えつつあったが、肝心の本人がチートを使用している自覚がない。ポン太の言葉通り、陽子は強力で便利なチートを与えられようとも上手く使いこなせはしないのだ。
だが、その事実は何も悪い事ばかりではなかった。
「この馬鹿」
アリス姫の手が陽子の頭をベシッと叩いて撫でた。そう陽子は感じた。
能力の有効射程にまで陽子に近付いた拓巳が降霊術の一種である口寄せで己の肉体に陽子の魂を降ろしたのだ。雑多な地縛霊の集合体から陽子を切り離すには最適な手段だが、それは陽子の纏う呪詛の穢れに自らの肉体を晒す危険行為でもあった。
自分に一切の説明もなく博打行為に踏み切った拓巳を苦い顔でアリス姫は見て、溜息を吐いて陽子に語りかけた。既に制止するのは手遅れだ。浄化と説得に注力するしかアリス姫には選択肢がなかった。
「どいつもこいつも。少しは事前に相談しろよ。弱音を吐け。もっと早く泣きつけ。黙ってちゃ何も伝わらんだろーが」
「あっ……う……」
「俺は博愛主義者でも聖人君子でもねぇ。ただのネカマの姫プレイヤーだ。元社畜のVtuberだ」
だからな、そうアリス姫は笑って陽子に告げた。
「依怙贔屓だってすんだよ。顔も知らん何処かの誰かよりもお前の味方になってやる。だから泣くな」
そう言ってアリス姫は陽子を抱きしめた。
あまりにも身勝手な言い分である。大勢の人間に消えぬ傷跡を残した大事件を招いた下手人への対応ではない。
でも、だからこそ。
陽子はやっと心の底から泣く事が出来たのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「これがディストピア社会の形成された事件の概要さ。地獄への道は善意で舗装されてるとは言うが、因果なものだねぇ」
「ええ? アリス姫と前田拓巳が藤原史郎に殺害されたアイドルの山川陽子を救ったんですよね? 二人は、いえ藤原史郎以外は誰も悪くないのに」
「それが歴史の流れの奥深い所なのだよ。ま、この一連の事件が起きなきゃ日本は海の底に沈んでいるし藤原史郎も含めて良い影響を世界に与えてはいるのだけれども」
殺人鬼、藤原史郎を褒め称えた教師に二桁にもならない少年少女はブーイングの嵐で応えた。
薄気味の悪い殺人鬼は世間の評判が良くない。特に藤原史郎は様々なドラマや映画で悪役として登場する有名人物だ。
この教師以外の発言だったのならば危険思想の持ち主として監視されていてもおかしくはなかったかもしれない。
「そもそも先生が手を出せば、どうにでもなったでしょ?」
「ホントだよ。何してたの先生」
「肝心なところで役立たずなのよね、この人」
ボロカスに貶された教師は困った顔をして額をかいた。
「やれやれ。安倍晴明なんて名乗らなきゃ良かったですねぇ」
「また言ってる」
「責任逃れは見苦しいぞーぅ」
キャッキャと騒ぐ子供達に清明はヤレヤレと肩をすくめた。
「それじゃあアリス姫が山川陽子を救助した事がどうしてディストピア社会の形成に繋がったのかは一先ず置いて、先に藤原史郎の起こした事件を語りましょうかね。舞台は様々な異能者の集うV企業ひめのやの本拠地、ワンダーランドマンション」
その地で藤原史郎は自力で異能者へと覚醒した。
これから語るのは歴史に名を残した伝説の殺人鬼の逸話である。
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