ネカマ姫のチート転生譚

八虚空

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バッドエンドの向こう側7

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 物部摩耶は果てしなく続く時空の狭間で必死に走り続けていた。
 マーブル模様に色が混ぜ合わされた景色の中で、上下の違いすらも分からないような場所を霊視で覗き見る。

 まるでポップコーンのように弾けて膨れ上がる橙色の泡はビックバンで宇宙開闢の時を迎えた宇宙だ。触れると時空間の隔たりがあろうと火傷をしてしまう。気を付けなければ。
 藍色の急速に縮んでいく氷のような物体はビッグクランチの最中だ。宇宙終焉の時を迎えた宇宙であり、一点に収束して新たな宇宙のエネルギーとなろうとしている。不用意に近付くと引きずり込まれる。気を付けなければ。
 真っ黒な漂っている水溜まりのような場所は宇宙が熱的死を迎えたパターンだ。絶対零度に近い停滞して変化をしなくなった宇宙は触れると凍傷を負ってしまうだろう。気を付けなければ。

「お釈迦様の娑婆(サハー)は何処にあるの!?」

 幾つもの宇宙を見ても自分の居た宇宙の過去の世界線どころか、生命体のいる宇宙すら滅多に発見出来ずにいた物部摩耶は混乱して走らずにはいられなかった。
 最初に世界の外側へと現れた場所にあった宇宙は隈無く見ていった。だが、ウネウネと蠢く深海生物のようなモノが星を食べていたのを遠目に見れたくらいで人間の痕跡は発見できなかったのだ。
 まさか、その深海生物すらも宇宙では貴重な生命体だったなんて思いもしなかった。自分に見付けられずにいるだけかもしれないけど。

 物部摩耶はそうクトゥルフ神話の悍ましき外なる神を評した。
 世界の内側にいれば直視するだけで発狂するような邪神も、世界の外から見たら魚介類の一種にしか見えないのだ。
 視点が大きくなりすぎて、そういう次元の存在しか目に入らなくなっている。邪神に星毎、捕食されて悲鳴を上げていた生き物達の姿が目に入らないのだ。

 悟りの境地に至っておらず五感と低次元の第六感でしか世界を認識できない物部摩耶は世界の外側を利用するにはあまりにも未熟なのである。

「先生、分からない。分からないよ……」

 ポロポロと涙がこぼれて物部摩耶の足が止まった。
 考えないようにしていた疑念が物部摩耶の脳裏に浮かんでくる。

 何故、安倍晴明は自分で過去改編を実行しようとしなかったのか。
 何故、オカルトが広く社会に認知をされた日本で隠れるように自分達は指導を受けていたのか。
 何故、自分達の世界の名前が分かるというだけで世界の外から正確に過去の世界線へと帰還できると判断していたのか。

『大丈夫。世界を救うなんて簡単ですよ』

 安倍晴明の声が聞こえる。少しでも何かの足しになればと必死で耳を傾けていた偉大な陰陽師の声が。
 ああ、だけど。
 彼は一度も言わなかった。儀式が成功するとは一言も。

「誰か」

 何かに気付いて絶望しそうになる自分を抑えきれず物部摩耶は求めた。

「助けて」

 かつてのようなヒーローを。

「皆を助けて!」

 物部摩耶の心からの叫びに、何時かのように気楽な調子でソレは応えた。

「ラィエゥ?」
「えっ、コティン……ちゃん?」

 12年前に見たままの姿でSCP-007-AW-時空妖精コティンは物部摩耶の目の前に現れたのだ。キラキラと輝く羽が透き通った色合いで優しく目に映る。
 パチパチと瞬きをして見間違いじゃないのかと目を擦っていた彼女の前に遅れて彼もまた、現れた。

「無事に見付かりましたか」

 渇いた声だ。低い成人男性の枯れた声だ。だが、その声の持ち主が誰なのか、物部摩耶には直ぐに分かった。
 たった一度、会ったきりの魔法使いの王子様。
 黒い包帯越しの姿でもボロボロに疲れ切っているのが分かるような彼の姿を見て、物部摩耶はふにゃっと相好を崩した。

 この瞬間の為に彼女の12年間はあったのだ。
 きっとそうなのだと、人の悪い陰陽師の先生のニヤニヤと笑う顔が彼女の脳裏には浮かんでいた。



「駄目です。触れてはっ」
「何も起こらんよ。物部摩耶は時空の流れに完全な耐性がある。そう、安倍晴明が調整しておる」

 抱きついてきた物部摩耶を制止しようとした包帯男をリコールマンはそう言って笑った。
 もう一人の救世主の長き旅路の同行者として安倍晴明は八咫烏の子供達を鍛えてきたのだ。リコールマンが包帯男に接触を持つ前からである。

 世界が救われる事を前提として世界を救った後のことを考えて布石を打つ。
 これが歴史に名を残した陰陽師、安倍晴明の知謀である。
 現実世界から介入したリコールマンすらも安倍晴明の駒の一つであったのだ。それを理解して尚、リコールマンは安倍晴明の頼みを引き受けた。

 これだから創作世界への通話は止められないとリコールマンは満足であった。
 創作という形で異なる世界を観測しているからこそ、その世界で最も面白い人物がピックアップされる。現実世界で過ごすだけでは得られないカタルシスが得られるのだ。

「まあ、彼でさえも未来は予知しきれなかったようではあるが」

 そう言ってリコールマンはさり気なくティンカーベルと入れ替わってキャラキャラと笑っている時空妖精コティンの描写を見た。
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