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子と母と
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真っ先に左腕が切り飛ばされた。
それはいい。覚悟の上だ。
サトルの二刀は元々、自身の身長をゆうに超える六尺二寸の大太刀。
巨漢揃いのサヴロスを相手にするのだからと、美術館という名の倉庫で埃を被っていたものを手入れして使っていた。
だがそれもデビュー戦で対戦相手に折られ、打ち直して二刀に。ベスの指導の下で練習はしていたが一刀では法術ギアを使っても取り回しに不安があったので、これはむしろ好都合ととらえていた。
右で攻撃、左で防御。気まぐれに入れ替えつつ相手をギアで底上げしたスピードで翻弄しつつ少しずつ体力を削っていく戦法でサトルは勝利を重ね、御前試合に出られるようになった。
それを、初手で潰された。
そのことこそが、重要だ。
「はあっ、……はぁ……っ!」
開始から三分。
切り飛ばされた左腕はトルアが確保し、法術で防腐と止血処理を施している。片膝をついてふたりを見守る彼女の右脇に置かれた左腕が赤い膜で覆われているのは、高位の法術には自らの血液を触媒にするから。
接合には時間がかかるからあとでゆっくりやってもらう。
その際に左肩に付けていた法術ギアも破壊されたが、肝心の左腕が無いので無視する。
残った右腕もどうにか動く、というレベル。
採れる選択肢は、いくらもない。
「あらあら、もう降参? あのオスの護衛を買って出たわりにだらしないのね」
挑発的に蠱惑的に流し目を送り、サョリは口元に手を当てて哄笑する。
「サョリさんこそ、それで全力ですか?」
哄笑がぴたりと止んだ。
「なにを言っているのかしらこの子は」
凪いでいた殺意が一気に膨れ上がる。
「そんな風に育てた覚えはないんだけど?」
そりゃそうだ──サトルは苦笑する──ぼくを育てたのはナリヤ・フウコとベスなんだから。
「強い者に傅くのがユヱネスの本性でしょうが!」
「そんなこと聞いた覚えもないです。ぼくが母さんから教わったのは、例え力が弱くても、決してくじけるな、おもねるなってことです!」
サョリの殺気が弾け、暴風の法術へと姿を変えてサトルへ殺到する。
いまだ。
右手を小さく折りたたみ、前傾姿勢で切っ先を前に。
ギアの出力を最大にして、ツタまみれのヘリポートを蹴り出す。
細かな刃を無限にはらむ暴風にサトルは臆することなく突っ込む。三分の間に何度か食らって、この法術の欠点が正面突破であると見抜いた。
四方八方上下左右から迫る風は、実は正面からは来ていない。そこに罠があることも想定しつつ、だが最大出力での突撃ならカウンターも容易ではないはずと踏んでの一撃。
「だああああっ!」
風よりも速く。
暴風がサトルを食らい尽くすよりも、サトルの右腕が肩から真上に切り飛ばされるほうが速かった。
「遅い遅い。カウンターにするまでもないわ」
剣をまっすぐ上に掲げ、余裕たっぷりの流し目。
ここからが本命。
「だあああああああああっ!」
切り上げられ、反動でめくれ上がった上体。その勢いを利用してサトルはつま先でサョリの顎を狙う。
「やるじゃないの」
だがこれを上体を反らすだけで避ける。
その視線の先に、逆さまになったサトルの後頭部。掲げている剣を斜めに振り下ろせばそれでもう今生の別れとなる。
そう思った。
からだが、ほんの僅か、抵抗した。
次の瞬間には後頭部がサョリの鼻を強かに打ち据え、その次の瞬間には挙げた右腕がサトルの両足に絡め取られていた。
「くっ!」
足だけで器用にヒジを手首を極められ、あろうことかサョリは剣を手放してしまう。はやく振りほどかなければ、と焦るサョリ。
「この! 離れなさい!」
しかし絶妙なバランスを発揮し、サョリは自分から倒れ込むことすら出来ないでいる。
切り飛ばされたサトルの右腕が落ちてくる。拘束を解き、サョリを踏み台にしてジャンプ。落ちてくる右腕の手首を蹴って刀を外し、柄を咥える。
「わあああああああああっ!」
切っ先をサョリの胸に。全身の力を顎と首に集め、突き下ろす。
踏まれてバランスを崩し、さらに逆光で目がくらんだサョリにもはや防ぐ手段はなく。
これで、終わる。
三人が三人ともそう思い、
「それまでだ」
サングィスがそれを制した。
「母子で殺し合うなど、あってはならぬ」
* * *
「なんで……、まだ、時間……」
サングィスが治療を終えるまで、まだ五分以上はあるはず。なのに彼はサトルが振り下ろした刃を左手で掴み、右腕でサョリを抱いていた。
「見ていられなかった。こんなものは私闘ですらない」
柄を口から離し、ぽろりと剥がれるように降り立つサトル。即座にトルアがサトルの両腕を抱えて駆け寄り、自身の牙歯で親指を切って法術を展開。防腐処理をしていない右腕から治療を始める。
『サングィスさま! はやくお戻りください! お体に障ります!』
ベスがモニターから船外スピーカーから一斉に叫ぶ。
「わかっておる。だが、……サョリ。目を覚ませ、サョリ」
優しく、サョリの瞳の奥底をのぞき込み、壊れ物を扱うように名を呼びかける。
「さ、サングィス……さま……? わ、わたしは……、おまえを……っ!」
「無理せずとよい。法術で記憶が上書きされておるのだろう。そなたは我が愛する雌《おんな》。我に身も心も委ねるのだ」
まだ握ったままのサトルの刀。その切っ先をサョリの胸の谷間に当て、すっと線を引く。
あぁっ、とサョリのからだが小さく跳ねる。
なにを、と一歩踏み出したサトルをトルアが制する。
「大丈夫です。おそらく、血の盟約を行われるおつもりです」
血の盟約、とつぶやいて。以前サョリと交わした血の約定よりももっと強い拘束力のあるものだと直覚し、サトルは成り行きを見守ることにした。
「我、竜族の王デネヴラエ・ウィンクルム・サングィス。汝オゥマ・サョリと血の契を結ぶ」
握った刀から、サングィスの血がぽたりと、サョリの胸の傷へ落ちる。
「いまこのときより汝は我を愛し、崇拝する僕《しもべ》となる。オゥマ・サョリ、我に従え」
そんな、と焦るサトル。いくら妻だからといってそこまで強制力を持たせた約定なんておかしい。
「大丈夫です。僕《しもべ》の盟約は効果が強い代わりに、長くても一日程度しか持続力がありません。相手を精神ごと永続的に支配するなんて、全身の血液全部使っても無理です」
そうなんですか、と納得しつつも、たった一日でも母がそんな状態になることに釈然とはしなかった。
そんなサトルの内情を知ってか知らずか、サングィスは握っていた刀をゆっくりとツタまみれのヘリポートに置き、血に濡れた掌をサョリの胸の傷に当てる。
あ、あっ、と短くあえぐサョリともう一度しっかりと視線を合わせ、
「よいな。汝は我の僕。承諾したならば、誓いの口上を述べよ」
「は、はい、わた、わたしは、サングィスさまのしもべ、」
言い終えた直後、サョリのからだが、どくんっ! と強く跳ねる。
「主上! サョリさまから離れてください!」
しかし、と渋るサングィスを、右腕の仮止めが終わったサトルが駆け寄り、サョリから引き剥がして置いてある刀を器用に鞘に戻し、トルアの元へ戻る。
残されたサョリは仰向けに、小さく大きく痙攣しながら横たわっている。
『サングィスさま、もう限界です。お戻りください』
「ならぬ。サョリが苦しんでいる」
「サョリさんはぼくがなんとかします。お願いです。戻ってください」
「サトルの頼みであっても無理だ。サョリの苦しみは、我の苦しみ。サョリが苦しんでいるのに安穏と治癒を受けることはできぬ」
「ほんとうに危なくなったら強引に引きずり込みますから。いいですね」
「……、サョリが」
「わがままは無しです。ここは、ぼくの家でこの船はユヱネスの城。家主で王の言うことぐらいは聞いてください」
「……わかった」
内心胸をなで下ろし、サョリを見やる。
三人が問答していた間にもサョリのからだは痙攣と呼ぶには激しすぎる脈動を続け、十《とお》を数えた頃にはっきりと異変が起きはじめる。まずは足。
「ああああっ!」
ぼごんっ! と音を立ててサョリの太ももが膨張。瞬く間に大木の幹を超える太さへ成長。胴体もそれに合わせて肥大化していく。
年に数件も報告されているというのに、その理由はわからないまま。
サヴロスの学者たちは「先祖返り」だとしているが、それにしたって元の肉体を遙かに凌駕する体躯へ変貌する理由はなにか。
そもそもなにがきっかけで起こるものなのか、さっぱり分かっていない。
先祖返りを起こした者たちに共通点は見当たらず、正気に戻ったあとの証言も曖昧で、唯一共通するのは夢の中にいるような感覚だった、という点のみ。
知ったことか。
いまのサトルにとって重要なのは、気絶させればサョリは元の姿に戻るということ。
気絶している間にベスの医療ポッドに入れて、改ざんされている記憶を戻せばこの件は終わるということ。
そしてそれは、完全に自分と縁が切れるということ。
それでいい。
自分は、母にもサョリにも捨てられたのだから。
半ば自棄のような思考を中断させたのは、トルアのささやきだった。
「サトルさま、右腕の接合が終わりました。左腕の接合より、わたくしに少し考えがありますので、それを行う承認をいただけますか?」
なんでぼくに、と思うが、それを問い質している時間はない。
「なんでもいいです。お願いします」
はい、と頷いて今度は左手の親指を牙歯《きば》で切り、血液を滴らせ、法術を起動する。
右手をサングィスに当て、応急処置ではあるが治癒の術を同時に起動させ、サトルに言う。
「いまは、サョリさまの気を逸らして、時間を稼いでください」
うん、と返した時にはもう視線はサョリに向けられている。
先のロンガレオよりも二回りは大きなティラノサウルスがそこにいた。
あれが、いまのサョリの姿。
異変が始まってから、一分もかからなかった。
ぐるりと起き上がり、大気を船を、隣接する大森林の木々を震わせる咆哮をあげる。それに驚いた鳥たちが一斉に飛び立ち、大森林は動物たちの鳴き声で騒然となる。
この姿になったサヴロスを戻す方法はひとつ。
気絶させ、意識を奪うこと。
「いきます」
それはいい。覚悟の上だ。
サトルの二刀は元々、自身の身長をゆうに超える六尺二寸の大太刀。
巨漢揃いのサヴロスを相手にするのだからと、美術館という名の倉庫で埃を被っていたものを手入れして使っていた。
だがそれもデビュー戦で対戦相手に折られ、打ち直して二刀に。ベスの指導の下で練習はしていたが一刀では法術ギアを使っても取り回しに不安があったので、これはむしろ好都合ととらえていた。
右で攻撃、左で防御。気まぐれに入れ替えつつ相手をギアで底上げしたスピードで翻弄しつつ少しずつ体力を削っていく戦法でサトルは勝利を重ね、御前試合に出られるようになった。
それを、初手で潰された。
そのことこそが、重要だ。
「はあっ、……はぁ……っ!」
開始から三分。
切り飛ばされた左腕はトルアが確保し、法術で防腐と止血処理を施している。片膝をついてふたりを見守る彼女の右脇に置かれた左腕が赤い膜で覆われているのは、高位の法術には自らの血液を触媒にするから。
接合には時間がかかるからあとでゆっくりやってもらう。
その際に左肩に付けていた法術ギアも破壊されたが、肝心の左腕が無いので無視する。
残った右腕もどうにか動く、というレベル。
採れる選択肢は、いくらもない。
「あらあら、もう降参? あのオスの護衛を買って出たわりにだらしないのね」
挑発的に蠱惑的に流し目を送り、サョリは口元に手を当てて哄笑する。
「サョリさんこそ、それで全力ですか?」
哄笑がぴたりと止んだ。
「なにを言っているのかしらこの子は」
凪いでいた殺意が一気に膨れ上がる。
「そんな風に育てた覚えはないんだけど?」
そりゃそうだ──サトルは苦笑する──ぼくを育てたのはナリヤ・フウコとベスなんだから。
「強い者に傅くのがユヱネスの本性でしょうが!」
「そんなこと聞いた覚えもないです。ぼくが母さんから教わったのは、例え力が弱くても、決してくじけるな、おもねるなってことです!」
サョリの殺気が弾け、暴風の法術へと姿を変えてサトルへ殺到する。
いまだ。
右手を小さく折りたたみ、前傾姿勢で切っ先を前に。
ギアの出力を最大にして、ツタまみれのヘリポートを蹴り出す。
細かな刃を無限にはらむ暴風にサトルは臆することなく突っ込む。三分の間に何度か食らって、この法術の欠点が正面突破であると見抜いた。
四方八方上下左右から迫る風は、実は正面からは来ていない。そこに罠があることも想定しつつ、だが最大出力での突撃ならカウンターも容易ではないはずと踏んでの一撃。
「だああああっ!」
風よりも速く。
暴風がサトルを食らい尽くすよりも、サトルの右腕が肩から真上に切り飛ばされるほうが速かった。
「遅い遅い。カウンターにするまでもないわ」
剣をまっすぐ上に掲げ、余裕たっぷりの流し目。
ここからが本命。
「だあああああああああっ!」
切り上げられ、反動でめくれ上がった上体。その勢いを利用してサトルはつま先でサョリの顎を狙う。
「やるじゃないの」
だがこれを上体を反らすだけで避ける。
その視線の先に、逆さまになったサトルの後頭部。掲げている剣を斜めに振り下ろせばそれでもう今生の別れとなる。
そう思った。
からだが、ほんの僅か、抵抗した。
次の瞬間には後頭部がサョリの鼻を強かに打ち据え、その次の瞬間には挙げた右腕がサトルの両足に絡め取られていた。
「くっ!」
足だけで器用にヒジを手首を極められ、あろうことかサョリは剣を手放してしまう。はやく振りほどかなければ、と焦るサョリ。
「この! 離れなさい!」
しかし絶妙なバランスを発揮し、サョリは自分から倒れ込むことすら出来ないでいる。
切り飛ばされたサトルの右腕が落ちてくる。拘束を解き、サョリを踏み台にしてジャンプ。落ちてくる右腕の手首を蹴って刀を外し、柄を咥える。
「わあああああああああっ!」
切っ先をサョリの胸に。全身の力を顎と首に集め、突き下ろす。
踏まれてバランスを崩し、さらに逆光で目がくらんだサョリにもはや防ぐ手段はなく。
これで、終わる。
三人が三人ともそう思い、
「それまでだ」
サングィスがそれを制した。
「母子で殺し合うなど、あってはならぬ」
* * *
「なんで……、まだ、時間……」
サングィスが治療を終えるまで、まだ五分以上はあるはず。なのに彼はサトルが振り下ろした刃を左手で掴み、右腕でサョリを抱いていた。
「見ていられなかった。こんなものは私闘ですらない」
柄を口から離し、ぽろりと剥がれるように降り立つサトル。即座にトルアがサトルの両腕を抱えて駆け寄り、自身の牙歯で親指を切って法術を展開。防腐処理をしていない右腕から治療を始める。
『サングィスさま! はやくお戻りください! お体に障ります!』
ベスがモニターから船外スピーカーから一斉に叫ぶ。
「わかっておる。だが、……サョリ。目を覚ませ、サョリ」
優しく、サョリの瞳の奥底をのぞき込み、壊れ物を扱うように名を呼びかける。
「さ、サングィス……さま……? わ、わたしは……、おまえを……っ!」
「無理せずとよい。法術で記憶が上書きされておるのだろう。そなたは我が愛する雌《おんな》。我に身も心も委ねるのだ」
まだ握ったままのサトルの刀。その切っ先をサョリの胸の谷間に当て、すっと線を引く。
あぁっ、とサョリのからだが小さく跳ねる。
なにを、と一歩踏み出したサトルをトルアが制する。
「大丈夫です。おそらく、血の盟約を行われるおつもりです」
血の盟約、とつぶやいて。以前サョリと交わした血の約定よりももっと強い拘束力のあるものだと直覚し、サトルは成り行きを見守ることにした。
「我、竜族の王デネヴラエ・ウィンクルム・サングィス。汝オゥマ・サョリと血の契を結ぶ」
握った刀から、サングィスの血がぽたりと、サョリの胸の傷へ落ちる。
「いまこのときより汝は我を愛し、崇拝する僕《しもべ》となる。オゥマ・サョリ、我に従え」
そんな、と焦るサトル。いくら妻だからといってそこまで強制力を持たせた約定なんておかしい。
「大丈夫です。僕《しもべ》の盟約は効果が強い代わりに、長くても一日程度しか持続力がありません。相手を精神ごと永続的に支配するなんて、全身の血液全部使っても無理です」
そうなんですか、と納得しつつも、たった一日でも母がそんな状態になることに釈然とはしなかった。
そんなサトルの内情を知ってか知らずか、サングィスは握っていた刀をゆっくりとツタまみれのヘリポートに置き、血に濡れた掌をサョリの胸の傷に当てる。
あ、あっ、と短くあえぐサョリともう一度しっかりと視線を合わせ、
「よいな。汝は我の僕。承諾したならば、誓いの口上を述べよ」
「は、はい、わた、わたしは、サングィスさまのしもべ、」
言い終えた直後、サョリのからだが、どくんっ! と強く跳ねる。
「主上! サョリさまから離れてください!」
しかし、と渋るサングィスを、右腕の仮止めが終わったサトルが駆け寄り、サョリから引き剥がして置いてある刀を器用に鞘に戻し、トルアの元へ戻る。
残されたサョリは仰向けに、小さく大きく痙攣しながら横たわっている。
『サングィスさま、もう限界です。お戻りください』
「ならぬ。サョリが苦しんでいる」
「サョリさんはぼくがなんとかします。お願いです。戻ってください」
「サトルの頼みであっても無理だ。サョリの苦しみは、我の苦しみ。サョリが苦しんでいるのに安穏と治癒を受けることはできぬ」
「ほんとうに危なくなったら強引に引きずり込みますから。いいですね」
「……、サョリが」
「わがままは無しです。ここは、ぼくの家でこの船はユヱネスの城。家主で王の言うことぐらいは聞いてください」
「……わかった」
内心胸をなで下ろし、サョリを見やる。
三人が問答していた間にもサョリのからだは痙攣と呼ぶには激しすぎる脈動を続け、十《とお》を数えた頃にはっきりと異変が起きはじめる。まずは足。
「ああああっ!」
ぼごんっ! と音を立ててサョリの太ももが膨張。瞬く間に大木の幹を超える太さへ成長。胴体もそれに合わせて肥大化していく。
年に数件も報告されているというのに、その理由はわからないまま。
サヴロスの学者たちは「先祖返り」だとしているが、それにしたって元の肉体を遙かに凌駕する体躯へ変貌する理由はなにか。
そもそもなにがきっかけで起こるものなのか、さっぱり分かっていない。
先祖返りを起こした者たちに共通点は見当たらず、正気に戻ったあとの証言も曖昧で、唯一共通するのは夢の中にいるような感覚だった、という点のみ。
知ったことか。
いまのサトルにとって重要なのは、気絶させればサョリは元の姿に戻るということ。
気絶している間にベスの医療ポッドに入れて、改ざんされている記憶を戻せばこの件は終わるということ。
そしてそれは、完全に自分と縁が切れるということ。
それでいい。
自分は、母にもサョリにも捨てられたのだから。
半ば自棄のような思考を中断させたのは、トルアのささやきだった。
「サトルさま、右腕の接合が終わりました。左腕の接合より、わたくしに少し考えがありますので、それを行う承認をいただけますか?」
なんでぼくに、と思うが、それを問い質している時間はない。
「なんでもいいです。お願いします」
はい、と頷いて今度は左手の親指を牙歯《きば》で切り、血液を滴らせ、法術を起動する。
右手をサングィスに当て、応急処置ではあるが治癒の術を同時に起動させ、サトルに言う。
「いまは、サョリさまの気を逸らして、時間を稼いでください」
うん、と返した時にはもう視線はサョリに向けられている。
先のロンガレオよりも二回りは大きなティラノサウルスがそこにいた。
あれが、いまのサョリの姿。
異変が始まってから、一分もかからなかった。
ぐるりと起き上がり、大気を船を、隣接する大森林の木々を震わせる咆哮をあげる。それに驚いた鳥たちが一斉に飛び立ち、大森林は動物たちの鳴き声で騒然となる。
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