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真美とおとんのポジティブチューニング
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「おはようございます、真美さん。今日は爽やかないい天気ですね」
「なんや、おとん。朝から気色悪い。なんか、悪いもんでも食ったか?」
「ハハッ。相変わらず口が達者でいらっしゃる。さすがは我が娘、といったところでしょうか、たいしたものです」
「その気色悪い標準語やめえや。春の陽気で頭おかしくなったんか?」
「まあ、確かに標準語はむず痒いな。頭おかしくなったんやない。ポジティブなんや」
「はあ?また、わけのわからんことを……」
「わけのわからんことやないで。ちょっとこの記事見てみい。凄いものを見つけたで」
「どれどれ。ポジティブチューニング? なんやそれ」
「要約するとやな、水の研究をしとる偉いひとがおってな。そのひと曰く、ポジティブな思念を注いだ水は凍らすと綺麗な結晶をつくり、ネガティブな思念を注いだ水は凍らすと不揃いな結晶をつくるそうなんや」
「なんやそれ。胡散くさいわ」
「胡散くさくなどありませんよ」
「その気色悪いポジティブな標準語やめえや」
「つまりな、ポジティブな思念はポジティブな現象と共鳴をする。であるならば、や。ポジティブな思念に心をチューニングするように過ごせば、なんや、良いことがあるで、ということなんや。これをポジティブチューニングと呼ぶらしい」
「おとんのポジティブのイメージは標準語なんか。ちょっとずれてへんか?」
「やかまし……いやいや、騒々しいのも悪くはありませんよね。どうですか? 素晴らしいでしょう?」
「あほくさ。だいたいポジティブな思念を水に注ぐって、どないしてやるんや?」
「そら、おまえ、褒めるんやろ」
「水をか?」
「せや」
「どないして?」
「そら、おまえ、あれやわ。お水ちゃん、今日もとっても透明ですよね、とか言うんやろ。水にとっては澄んでいるかどうかは一大事や」
「あほくさ。なら、どないして水を貶すんや?」
「そら、おまえあれやわ。おまえドブ臭えな、とか言うんやろ。臭いとか言われると凹むからな」
「おとんの靴下、納豆の匂いがするで」
「くっ。ギリ食品で助かりました。ありがとうございます」
「なんやそれ。そこまで無理してポジティブになって、なんかええことあったんか?」
「おっ! さすがは我が娘! 目の付け所がシャープだねっ!」
「うざいわ、ほんまに……」
「ポイントはここや。ポジティブな現象と共鳴する、ということや」
「はあ? だからなんなんや?」
「少し鈍くていらっしゃる。ようごさんす。教えて差し上げましょう」
「腹立つわ、ほんまに……」
「ほら、これや」
「なんや、宝くじやんか」
「せや、宝くじや。せやかて、ただの宝くじと違うで」
「何が違うんや?」
「昨日買うてきたんやけどな。わし、めっっっちゃポジティブな状態で買うたんや。つまりや、この宝くじはポジティブな思念を注がれた宝くじなんや。宝くじにとってポジティブな現象ってのはなんや?」
「三億円……」
「せや。三億円当たるというのがポジティブな現象なんや。つまりは数日後にはわしは億万長者という寸法や」
「おめでたいというか何というか……そらおかんも愛想尽かして出て行くわ……」
「くっ。おまえそんなん言うなら三億円当たっても分け前やらへんで」
「おとん、ポジティブやないで」
「うぐっ。しゃあない、一万円くらいは小遣いやるわ」
「三億円当たって一万円か。ケチな男やで……。ん? でもこの宝くじって
……」
「なんや?」
「いやいや、なんでもあらへん」
「いや、いまおまえ、ん?って言ったやないか。なんや? 気になるやんか」
「いや、ほんまに何でもあらへん。世の中には知らん方が幸せってこともあるからな」
「なんや。その意味深な言い回し。気になるやんか。はよ言ってみ? この宝くじがどうしたって?」
「なんや、せっかく黙っておこうと思たのに。なら言うで。おとん、何で宝くじ十枚も買うたんや?」
「なんや、わしの小遣いで買うたんや。別にあれこれ言われる筋合いは無いで」
「ちゃうちゃう。そうやない。ほんまにポジティブやったなら、十枚も買わんでええやろ」
「!」
「前後賞合わせても三枚で事足りるはずやろ」
「!!」
「こんな、保険かけるような買い方でほんまにポジティブやいえるんか?」
「!!!」
「そんなん、ほんまのポジティブと違う。つまりや、この宝くじは不完全なポジティブさで買うたんや。よってポジティブな現象と共鳴はせんな」
「それってつまり……」
「そうや。宝くじは外れる。ポジティブチューニング、失敗や」
「うおおおおぉぉぉぉおおぉぉぉっっ!」
「まじやったんか……どんだけやねん……」
「うおおおおおぉぉぉぉおおおおうおぅ」
「ちょっ。怖いわ。そ、そんなら、う、うちちょっと出掛けるで。その…おとん? おまえ大丈夫か?」
「うおううおううおうおおおおぉぉぉぉ?」
「ほなな。なんや、おとん……すまんかったな……」
「うおおおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおろろーん!」
数日後
「おはようさん」
「おはようさん、おとん。そういえば宝くじは当たったんか?」
「今日は少し肌寒いな」
「宝くじは当たったんか?」
「阪神、また負けてもうたな。やっぱ先発ピッチャーやで、野球は」
「だから、宝くじは当たったんかと聞いとるやろ」
「阪神は負けるし、巨人は勝つし、美智子は出てってまうし……」
「宝くじは外れるし、もやろ?」
「はぁー。わしは何をやらせてもダメダメなダメ男やで。人生真っ暗やわ」
「おい。ポジティブチューニングはどうした? めっちゃネガティブやんか」
「やかましいわ! あんな嘘っぱちやめたったわ! あほくさ! すっかり騙されたわ! あの水の研究者、えらいペテン師やんか!」
「えらい八つ当たりに会うてしもうたな、水の研究者」
「そこで、や。真美この記事ちょっと見てみいや。ネイティヴアメリカンのある部族に伝わる話なんやけどな……」
「また胡散くさいこと言い始めたで。懲りんやっちゃ。まあ、ある意味ポジティブやで、おとんは。どれどれ、話だけでも聞いたるわ……」
了
「なんや、おとん。朝から気色悪い。なんか、悪いもんでも食ったか?」
「ハハッ。相変わらず口が達者でいらっしゃる。さすがは我が娘、といったところでしょうか、たいしたものです」
「その気色悪い標準語やめえや。春の陽気で頭おかしくなったんか?」
「まあ、確かに標準語はむず痒いな。頭おかしくなったんやない。ポジティブなんや」
「はあ?また、わけのわからんことを……」
「わけのわからんことやないで。ちょっとこの記事見てみい。凄いものを見つけたで」
「どれどれ。ポジティブチューニング? なんやそれ」
「要約するとやな、水の研究をしとる偉いひとがおってな。そのひと曰く、ポジティブな思念を注いだ水は凍らすと綺麗な結晶をつくり、ネガティブな思念を注いだ水は凍らすと不揃いな結晶をつくるそうなんや」
「なんやそれ。胡散くさいわ」
「胡散くさくなどありませんよ」
「その気色悪いポジティブな標準語やめえや」
「つまりな、ポジティブな思念はポジティブな現象と共鳴をする。であるならば、や。ポジティブな思念に心をチューニングするように過ごせば、なんや、良いことがあるで、ということなんや。これをポジティブチューニングと呼ぶらしい」
「おとんのポジティブのイメージは標準語なんか。ちょっとずれてへんか?」
「やかまし……いやいや、騒々しいのも悪くはありませんよね。どうですか? 素晴らしいでしょう?」
「あほくさ。だいたいポジティブな思念を水に注ぐって、どないしてやるんや?」
「そら、おまえ、褒めるんやろ」
「水をか?」
「せや」
「どないして?」
「そら、おまえ、あれやわ。お水ちゃん、今日もとっても透明ですよね、とか言うんやろ。水にとっては澄んでいるかどうかは一大事や」
「あほくさ。なら、どないして水を貶すんや?」
「そら、おまえあれやわ。おまえドブ臭えな、とか言うんやろ。臭いとか言われると凹むからな」
「おとんの靴下、納豆の匂いがするで」
「くっ。ギリ食品で助かりました。ありがとうございます」
「なんやそれ。そこまで無理してポジティブになって、なんかええことあったんか?」
「おっ! さすがは我が娘! 目の付け所がシャープだねっ!」
「うざいわ、ほんまに……」
「ポイントはここや。ポジティブな現象と共鳴する、ということや」
「はあ? だからなんなんや?」
「少し鈍くていらっしゃる。ようごさんす。教えて差し上げましょう」
「腹立つわ、ほんまに……」
「ほら、これや」
「なんや、宝くじやんか」
「せや、宝くじや。せやかて、ただの宝くじと違うで」
「何が違うんや?」
「昨日買うてきたんやけどな。わし、めっっっちゃポジティブな状態で買うたんや。つまりや、この宝くじはポジティブな思念を注がれた宝くじなんや。宝くじにとってポジティブな現象ってのはなんや?」
「三億円……」
「せや。三億円当たるというのがポジティブな現象なんや。つまりは数日後にはわしは億万長者という寸法や」
「おめでたいというか何というか……そらおかんも愛想尽かして出て行くわ……」
「くっ。おまえそんなん言うなら三億円当たっても分け前やらへんで」
「おとん、ポジティブやないで」
「うぐっ。しゃあない、一万円くらいは小遣いやるわ」
「三億円当たって一万円か。ケチな男やで……。ん? でもこの宝くじって
……」
「なんや?」
「いやいや、なんでもあらへん」
「いや、いまおまえ、ん?って言ったやないか。なんや? 気になるやんか」
「いや、ほんまに何でもあらへん。世の中には知らん方が幸せってこともあるからな」
「なんや。その意味深な言い回し。気になるやんか。はよ言ってみ? この宝くじがどうしたって?」
「なんや、せっかく黙っておこうと思たのに。なら言うで。おとん、何で宝くじ十枚も買うたんや?」
「なんや、わしの小遣いで買うたんや。別にあれこれ言われる筋合いは無いで」
「ちゃうちゃう。そうやない。ほんまにポジティブやったなら、十枚も買わんでええやろ」
「!」
「前後賞合わせても三枚で事足りるはずやろ」
「!!」
「こんな、保険かけるような買い方でほんまにポジティブやいえるんか?」
「!!!」
「そんなん、ほんまのポジティブと違う。つまりや、この宝くじは不完全なポジティブさで買うたんや。よってポジティブな現象と共鳴はせんな」
「それってつまり……」
「そうや。宝くじは外れる。ポジティブチューニング、失敗や」
「うおおおおぉぉぉぉおおぉぉぉっっ!」
「まじやったんか……どんだけやねん……」
「うおおおおおぉぉぉぉおおおおうおぅ」
「ちょっ。怖いわ。そ、そんなら、う、うちちょっと出掛けるで。その…おとん? おまえ大丈夫か?」
「うおううおううおうおおおおぉぉぉぉ?」
「ほなな。なんや、おとん……すまんかったな……」
「うおおおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおろろーん!」
数日後
「おはようさん」
「おはようさん、おとん。そういえば宝くじは当たったんか?」
「今日は少し肌寒いな」
「宝くじは当たったんか?」
「阪神、また負けてもうたな。やっぱ先発ピッチャーやで、野球は」
「だから、宝くじは当たったんかと聞いとるやろ」
「阪神は負けるし、巨人は勝つし、美智子は出てってまうし……」
「宝くじは外れるし、もやろ?」
「はぁー。わしは何をやらせてもダメダメなダメ男やで。人生真っ暗やわ」
「おい。ポジティブチューニングはどうした? めっちゃネガティブやんか」
「やかましいわ! あんな嘘っぱちやめたったわ! あほくさ! すっかり騙されたわ! あの水の研究者、えらいペテン師やんか!」
「えらい八つ当たりに会うてしもうたな、水の研究者」
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了
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