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00 廃墟前に立つ
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そもそもどうしてそんな事態になったのか、なぜだったのか、カナはずっと思い出せないでいた。
いよいよ行動開始という、その時になってさえも。
もともと世の中には『理由』なんてものは存在しないんだ。
カナの父はよく、もっともらしくそう語る。
どんな過激なテロの場面だろうが、どんな悲惨な事故現場からのレポートだろうが、父は顔色も変えずに、いや、少しだけ……ほんの少しだけ眉根を寄せて、ほら、みてごらんと缶ビールを傾ける。
――いいか、奏子。
父は缶ビールから口を離してから、よく言ったものだった。
――どんな出来事も、あり様も、なぜそんなことが? と誰もが聞く。
しかし、そんなものには理由なんて何一つない。あるのはただ、出来事の始まりと展開と終わりだけだ。
そんなことが起きたのは何故? というのは「そんなことが起きたからだ」としか言いようがないんだ。
理由なんてものは、人間が勝手に作り上げた、自分を納得させたいだけのゴタクなんだよ。
第二中学2年3組、にわかチームの六人は、廃墟となった小さなアパートの前に立っていた。
古墳の丘から山に向かって少し林道じみた狭い道を上り、今ではすっかり林に取り囲まれた、山の中腹にひっそりと隠れるように残された、その場所に。
誰かがごくりと唾を呑んだ。
カナは脇のサクをそっと見上げる。
幼馴染のサクはすっかり背が伸び、紺のジャージからすらりと伸びた首筋がみえる。
緊張はあるようだが、表情は少し、楽しげだ。
次にこっそりと、小柄なユウマの方を見る。
一行の中で少し下がって廃墟を見ている彼も、緊張は隠せないようだ。
それでも、なんとなく目がきらきらしているようにも見えた。
あのふたりが楽しみにしていたんなら、とカナもまた前を見る。
――あたしも、めいっぱい楽しもう、探検を。
いよいよ行動開始という、その時になってさえも。
もともと世の中には『理由』なんてものは存在しないんだ。
カナの父はよく、もっともらしくそう語る。
どんな過激なテロの場面だろうが、どんな悲惨な事故現場からのレポートだろうが、父は顔色も変えずに、いや、少しだけ……ほんの少しだけ眉根を寄せて、ほら、みてごらんと缶ビールを傾ける。
――いいか、奏子。
父は缶ビールから口を離してから、よく言ったものだった。
――どんな出来事も、あり様も、なぜそんなことが? と誰もが聞く。
しかし、そんなものには理由なんて何一つない。あるのはただ、出来事の始まりと展開と終わりだけだ。
そんなことが起きたのは何故? というのは「そんなことが起きたからだ」としか言いようがないんだ。
理由なんてものは、人間が勝手に作り上げた、自分を納得させたいだけのゴタクなんだよ。
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古墳の丘から山に向かって少し林道じみた狭い道を上り、今ではすっかり林に取り囲まれた、山の中腹にひっそりと隠れるように残された、その場所に。
誰かがごくりと唾を呑んだ。
カナは脇のサクをそっと見上げる。
幼馴染のサクはすっかり背が伸び、紺のジャージからすらりと伸びた首筋がみえる。
緊張はあるようだが、表情は少し、楽しげだ。
次にこっそりと、小柄なユウマの方を見る。
一行の中で少し下がって廃墟を見ている彼も、緊張は隠せないようだ。
それでも、なんとなく目がきらきらしているようにも見えた。
あのふたりが楽しみにしていたんなら、とカナもまた前を見る。
――あたしも、めいっぱい楽しもう、探検を。
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