鉄巨人、異世界を往く

銀髭

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第1話 目覚め

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 ___目を覚ますと、暗闇の中に立っていた。

 …思考が上手く働かず、体も重い。
 自分は余程暗い場所にいるのか、視線を彷徨わせて周囲に目を凝らしてみる。

 だが、辺りの様子を探ることはできない。

  ( …何処だここ…? やけに暗いな… )

  ( …? あれは… )

 ふと、遠くで火が揺らめいているのに気付く。
 とても弱々しく、今にも消えてしまいそうだ。

 小さな火はあちこちで等間隔に並んでおり、大まかにではあるが、この空間の大きさを浮かび上がらせていた。

 ( ここは一体……? 俺は… )
 
そもそも、どうしてこんな所にいるのかと記憶を遡ってみるが、どうにも思い出せない。

それどころか、自身の顔や名前、家すらも思い出すことができなかった。

  ( 俺は…誰なんだ…? )

答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。

何度も記憶を思い出そうとするが、得られる情報は何も無く、言いようのない不安ばかりが押し寄せる。

 1度思考を切り替える為、考えるのを一旦止める。
 辺りに目を配り、別の事を考える。
 まずは、状況を知るためにも手元に灯りが欲しい。

 光量はあまり強くないが、あの火に近寄れば自分の手くらいなら見えるだろう。

 そう考え、明かりの下へ動き出そうとするが、気持ちとは裏腹に、何故か、身体が動かない。

 どうにか動こうと力を込めると、ガシャンと
 無機質な金属音が響く。

  ( ? 何だ? )

 腕が上がらず、足は床に固定されているのか、
 全く動くことが出来ない。

   ( どうなってるんだ…? )

 何とか脱出を計ろうと試みるも、ガシャンガシャンと
 音が鳴るばかりで動くことが出来ない。

 助けを求め、誰か、と声をあげようとするも、
 その言葉が発せられることは無かった。

   ( 声が…出ない…? )

 何度叫ぼうとしても、声は出ない。

 頭を巡らせて様々な推測をしてみるが、いくら考えてみても答えが出ることは無かった。

 だが、ふと冷静になり、ある違和感に気付く。

 自分は今、激しくしている筈だ。

 こんな状況であれば通常、激しい鼓動が耳へと響いて来ている筈。

この暗闇の中であれば尚更、鮮明に聞こえてくるはずのものだ。

 しかし、自分の胸からは何の音も聞こえては来ない。

 違和感が徐々に、だが確実に確信へと変わっていく。

  ( まさか…、そんな…)

 胸にある筈の、鼓動が聞こえない。
 
 瞬間、様々な考えが脳内を駆け抜け、頭の片隅へと無意識に追いやっていた答えに辿り着く。

 考えたくない答えが、思考を埋め尽くした。

  ( 俺は、もう……死んでる…? )

自分が想像してしまった〈 死 〉という言葉、その途轍もない恐怖の重圧に、押し潰される。

助けてくれ、と懇願するように縛られた身体を動かそうとするも叶わず、身体を縛る何かに阻まれる。

僅かな火の明かりだけがある暗闇に、金属の音だけが何度も響き、やがてその音も、闇に飲まれたかのように消えていった。


____________________


…どれくらいの時間が過ぎただろうか。

数分か、あるいは数時間か、この暗闇の中ではそれすらもわからなくなる。

そんな中で男は再び、ゆっくりと目を開けた。

いつの間にか、意識を失っていたようだ。

ぼんやりとした頭で、虚空を見つめる。

いくらかの後、ハッと自身の状態を再認識して、思考が覚醒する。

  ( ……夢じゃ…無いのか… )

出来ることなら、夢であって欲しかった。

だが、この身体を縛る鎖が、そうではないことをガシャガシャと訴えかけてくる。

依然として、状況は変わらない。

記憶を失い、声を無くし、命の鼓動までもを失くした。

そんな自分が拘束され、この暗闇の中に独り放り込まれている。

理不尽とも思えるような仕打ちに、どこか憤りが込み上げた。

    ( 何で俺は、こんな目に…? この暗闇にずっと閉じ込められたままなのか…?  )

拳を強く握り締め、身体を縛る鉄鎖が悲鳴をあげる。

( …そんなのは、嫌だ!! )




男の目に強い光が宿る。

男は、ここから自由になることを決意した。

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