鉄巨人、異世界を往く

銀髭

文字の大きさ
19 / 33

第19話 名前

しおりを挟む

「…そんな訳でお前さんにはまず、いくつかの質問に答えてもらう」

そう言って、俺の前に紙とペンが置かれる。

「いくら冒険者と言っても、口約束だけでなれちまったら責任が伴わねえ。 だからお前さんの個人的な情報をいくつか先に渡して貰う」

( そうか、筆談って手があったな…!)

ペンを握り、ギルマスの質問に備える。

「お? やる気だな。といっても内容は簡単な情報だけだ」

「まず名前と歳、次に育った町、最後に得意な武器の3つだ」

「正式な書類の方は、後日用意させる。先ずは仮契約ってとこだな」

ギルマスに促され、白紙の紙と向き合う。
しかし、これは困った。

 ( どれもこれも、俺は知らないぞ…!)

俺には、あの地下で目覚める以前の記憶が無い。
当然、名前も生まれも年齢も、何一つ分からない。

 ( う~む…、ここは正直に、記憶が無いと伝えるべきか?)

紙に、「きおくがない」と書く。

「記憶が無い…記憶喪失ってことか? そりゃあ難儀なもんだな」

ギルマスが呆れたように笑う。

 ( 確かに、何重苦だって話だよな )

「ってことは、名前とかも全部忘れちまったってことか…。どうしたもんかな…」

「それならいっそ、ここで今決めたらどうかニャ?」

 ( えっ 今? ここで? )

「それだっ!」

 ( 良いの!? )

「さて…そうだな…」

「どんなのが良いかニャア…?」

早速悩み始める親子2人。
…一体どんな名前になるのか、期待と不安が高まる。

「…よし! ゴリアンデス はどうだ?」

「可愛くないニャ! ペネロッペ が良いニャ!」

「えぇ?なんか弱そうじゃねえかぁ?」

「そんなことないニャ!」

 ( …任せて大丈夫なんだろうか… )

………
……


激しい攻防の末に俺の名前は、「ロイ」に決まった。

疲れ果てた2人が最終的に、半ば投げやりに決めた、「ヨロイ」 から1文字取って「ロイ」となった。

決まり方としてはちょっと悲しいが、字面としては悪くない気がする。
2人が頑張ってつけてくれた名前には違いないので、深々と頭を下げ、有り難く拝命させて頂く。

「なあに、気にすんなってことよ!」

「ニャハハ…、なんだか照れ臭いニャ」

「取り敢えず…それが今からお前さんの名前になる。 これから先記憶が戻ることも有るかも知れんが、まあその時は教えてくれ」

「今からお前さんは、うちのギルドの一員だ。 改めて自己紹介をさせてもらう、ギルドマスターのガイズだ」

「冒険者のシーラって言うニャ!これからよろしくニャ!ロイさん!」

笑顔で迎えてくれる少女とギルマス。 
胸に暖かいものが溢れる。

こうして俺は、名前に居場所、そして強い味方を得ることができた。

「さて、後の細かい調整は俺の方でしておく。ギルドの部屋を貸すから、今日はそこで休むといい。鍵は受付で借りてくれ」

「明日の昼頃、受付を訪ねてきてくれ。 そこで正式にお前さんの身分証を発行する」

「フニャア~…、やっと休めるニャ~…」

立ち上がって伸びをする少女。
それにしても、ギルドマスターにはもう頭が上がらない。

 ( 本当、何から何までありがとうございます )

そうして俺も立ち上がり礼をし、ギルマスに見送られて部屋を出る。

少女と受付に向かい部屋の件を伝えると、階段を上がって二階のニ部屋へ案内される。

「では、ごゆっくりお休み下さい」

そう言ってお辞儀をし、案内役の女性は階段を下りていく。

「ニャア…、大変な一日だったニャ…」
 
少女が疲れ顔でポソリと呟く。
ほんの数時間前には盗賊に捕まっていたのだから、無理もないだろう。
俺も、今日一日だけで色々なことが起き過ぎて、精神的に疲れた。

「ロイさんもお疲れさまニャ、それじゃまた明日ニャア」

彼女…シーラに手を振って部屋へ見送った後、俺も自分の部屋に入る。

部屋の中は木製のベッドや机が置いてあり、1人部屋にしては中々広い部屋に感じる。

早速ベッドで横になろうとするが、何だか重みで壊しそうなので諦めて床に転がることにした。

何となく今日の出来事を振り返りながら、ボーっと天井を見つめていると、強い睡魔に襲われてそのまま抗えずに眠りに落ちた。


 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

処理中です...