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第19話 名前
しおりを挟む「…そんな訳でお前さんにはまず、いくつかの質問に答えてもらう」
そう言って、俺の前に紙とペンが置かれる。
「いくら冒険者と言っても、口約束だけでなれちまったら責任が伴わねえ。 だからお前さんの個人的な情報をいくつか先に渡して貰う」
( そうか、筆談って手があったな…!)
ペンを握り、ギルマスの質問に備える。
「お? やる気だな。といっても内容は簡単な情報だけだ」
「まず名前と歳、次に育った町、最後に得意な武器の3つだ」
「正式な書類の方は、後日用意させる。先ずは仮契約ってとこだな」
ギルマスに促され、白紙の紙と向き合う。
しかし、これは困った。
( どれもこれも、俺は知らないぞ…!)
俺には、あの地下で目覚める以前の記憶が無い。
当然、名前も生まれも年齢も、何一つ分からない。
( う~む…、ここは正直に、記憶が無いと伝えるべきか?)
紙に、「きおくがない」と書く。
「記憶が無い…記憶喪失ってことか? そりゃあ難儀なもんだな」
ギルマスが呆れたように笑う。
( 確かに、何重苦だって話だよな )
「ってことは、名前とかも全部忘れちまったってことか…。どうしたもんかな…」
「それならいっそ、ここで今決めたらどうかニャ?」
( えっ 今? ここで? )
「それだっ!」
( 良いの!? )
「さて…そうだな…」
「どんなのが良いかニャア…?」
早速悩み始める親子2人。
…一体どんな名前になるのか、期待と不安が高まる。
「…よし! ゴリアンデス はどうだ?」
「可愛くないニャ! ペネロッペ が良いニャ!」
「えぇ?なんか弱そうじゃねえかぁ?」
「そんなことないニャ!」
( …任せて大丈夫なんだろうか… )
………
……
…
激しい攻防の末に俺の名前は、「ロイ」に決まった。
疲れ果てた2人が最終的に、半ば投げやりに決めた、「ヨロイ」 から1文字取って「ロイ」となった。
決まり方としてはちょっと悲しいが、字面としては悪くない気がする。
2人が頑張ってつけてくれた名前には違いないので、深々と頭を下げ、有り難く拝命させて頂く。
「なあに、気にすんなってことよ!」
「ニャハハ…、なんだか照れ臭いニャ」
「取り敢えず…それが今からお前さんの名前になる。 これから先記憶が戻ることも有るかも知れんが、まあその時は教えてくれ」
「今からお前さんは、うちのギルドの一員だ。 改めて自己紹介をさせてもらう、ギルドマスターのガイズだ」
「冒険者のシーラって言うニャ!これからよろしくニャ!ロイさん!」
笑顔で迎えてくれる少女とギルマス。
胸に暖かいものが溢れる。
こうして俺は、名前に居場所、そして強い味方を得ることができた。
「さて、後の細かい調整は俺の方でしておく。ギルドの部屋を貸すから、今日はそこで休むといい。鍵は受付で借りてくれ」
「明日の昼頃、受付を訪ねてきてくれ。 そこで正式にお前さんの身分証を発行する」
「フニャア~…、やっと休めるニャ~…」
立ち上がって伸びをする少女。
それにしても、ギルドマスターにはもう頭が上がらない。
( 本当、何から何までありがとうございます )
そうして俺も立ち上がり礼をし、ギルマスに見送られて部屋を出る。
少女と受付に向かい部屋の件を伝えると、階段を上がって二階のニ部屋へ案内される。
「では、ごゆっくりお休み下さい」
そう言ってお辞儀をし、案内役の女性は階段を下りていく。
「ニャア…、大変な一日だったニャ…」
少女が疲れ顔でポソリと呟く。
ほんの数時間前には盗賊に捕まっていたのだから、無理もないだろう。
俺も、今日一日だけで色々なことが起き過ぎて、精神的に疲れた。
「ロイさんもお疲れさまニャ、それじゃまた明日ニャア」
彼女…シーラに手を振って部屋へ見送った後、俺も自分の部屋に入る。
部屋の中は木製のベッドや机が置いてあり、1人部屋にしては中々広い部屋に感じる。
早速ベッドで横になろうとするが、何だか重みで壊しそうなので諦めて床に転がることにした。
何となく今日の出来事を振り返りながら、ボーっと天井を見つめていると、強い睡魔に襲われてそのまま抗えずに眠りに落ちた。
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