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第21話 騎士
しおりを挟む一体何事かと1人物陰でオロオロしていると、相手の男が口を開く。
「だからよぉ?お前はあの鎧野郎に騙されてるって忠告してやってんだよぉ!」
( 何だって!? )
思いがけない物言いに若干憤る。
「 ロイさんはアタシを盗賊から助けてくれた命の恩人ニャ!バカにするニャ!」
「それが怪しいってんだよぉ!」
…どうも話題の中心は自分のようだ。
シーラはかなり頭に来てるのか、猫耳をピンと尖らせ今にも机から跳びかからんとしている。
対する男は面白がっているのかニヤニヤとした笑いを浮かべていた。
( …どうする?ここで今すぐ止めに入るか? )
尚も男が続けざまにまくし立てる。
「俺様の推測じゃあ、…あの鎧野郎は魔物が化けた魔族のスパイだ!」
「大方、街の人間を助けて恩を売り、そこに取り入ってやがては街を牛耳ろうって魂胆よぉ! 」
それを聞いて周囲の人々がざわつき始める。
「つくづく運の無ぇ冒険者だなぁオイ? あのギルドマスターの娘ともあろう者がよぉ? 魔物を街に引き込んじまうなんてよぉ~?」
顔を彼女に近づけ、煽りに煽る男。
シーラは我慢の限界なのか、俯いて肩を震わせている。
俺は堪らず物陰から飛び出し、人垣の前に立つ。
ズシズシという足音に気付いて人々が振り返ると、瞬く間に左右へ人垣が裂けていった。
一歩、二歩と踏み出し、怒りに震える彼女の側へ歩み寄ると、ハッとこちらに気付いて顔を上げる。
「! …っ、…ロイさん…」
その表情は怒りというよりも情けなさ、悔しさが募った様子で、目尻には涙が浮かんでいた。
「っ、へ、へっ! 噂をすりゃあ騎士様の登場かよ。魔物のクセして正義の騎士気取りかぁ!?」
男の声にシーラがピクッと反応するが、拳をギュッと握りしめて耐えている。
彼女はきっと俺の事情を話すに話せないでいたのだろう。
この状況で 鎧の中身は空っぽです なんて話せば、間違いなく魔物として信じられてしまうだろう。
手を出してしまえば厄介なことになるからと、自身が罵倒されようとも我慢してくれていたのだろう。
ならばこそ。
「んニャッ!?」
俺は彼女を両手で抱え、相手の男には目もくれずに人だかりから出る。
相手の男が何か騒いでいるようだが無視する。
腕の中で、驚いた顔のままこちらを見上げる彼女と目を合わせ、俺は感謝を込めて、何度も頷く。
シーラは頭に?を浮かべていたが、何かを察したのか俯いてしまう。
そのまま食堂を抜けると、受付のカリーナさんが立っていた。
「ありがとうございます、ロイ様。…あの場を穏便に収めてくれたこと、深く感謝致します」
そう言ってカリーナさんが頭を下げる。
俺は慌てて首を振り、彼女のおかげ、と言うように抱えたままのシーラを示す。
「ニ、ニャ?」
「…謙虚なのですね。 先程の彼…グドーは以前からああして人に絡んでは騒ぎを起こしていまして…なまじそこそこの実力もあるためその場にいる者では抑えられず、手をこまねいていた状況だったのです」
そう言って額に手を当て困った顔をするカリーナさん。
「ともかく、今回の件はギルドマスターにも報告して今後の対応を打診しておきますのでご安心下さい」
それだけ伝えると礼をして、カリーナさんは踵を返して受付の方へ戻る…と思いきや少し歩いて振り返り、柔らかく微笑む。
「…ふふ。お姫様抱っこ、楽しそうね、シーラ?」
「…………ニャッ?!」
今の状態を思い出し、途端に真っ赤になるシーラ。
「お、降ろすニャ!下ろしてニャ!」
腕の中で手足をばたつかせて暴れるので、慌てて下に降ろす。
「…ふふ」
笑みを浮かべてカリーナさんは去っていった。
シーラはよっぽど恥ずかしかったのか、床にうずくまって顔に手をやっている。
騎士らしい動きとして行ったつもりだったが、そこまでされるとこちらも何だか照れ臭くなってくる。
鎧の身体でモジモジしていると、ようやく収まったのかシーラがスッと立ち上がってこちらへ向き直る。
頬にはまだ、赤みが残っていた。
「…ロイさん、さっきはありがとうニャ」
照れながらも、笑顔でそう呟く彼女だった。
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