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しおりを挟む朝、登校して気兼ねなく挨拶が交わせる存在が嬉しかった。
ゲームや漫画の話など、他愛の無い会話をして過ごせる休み時間が本当に楽しいし、たとえ会話が途切れてもその沈黙が全然苦痛じゃない。
授業中に当てられて答えに詰まっても、横からこっそりと助けてくれる頭脳明晰さも心強いし、その優しさに安心する。
「あ、遥。俺ちょっとトイレ寄ってくから」
「わかった。なら小夏の荷物も持って先に教室行ってるよ」
「わるい、ありがとな」
休み時間の移動教室中。
尿意をもよおした小夏が、遥にそれを伝えると快く荷物を預かってくれた。
3ヶ月間のブランクなど、まるで感じさせない居心地の良さ。
やっぱりこんなに気の合う友達は遥しか居ないと小夏は改めて実感していた。
冷え切った日常に、温かい春風が舞い込んだよう。
小夏にとってはそのくらい大きな変化だったが、もともと地味で目立たない二人組。
そのうちの片方が久々に学校に来て良かったね、といった程度で他のクラスメートは普段と特段変わった様子はなかった。
――ある一人を除いて。
「良かったね、木田クン?」
「ッ!?」
トイレの小便器で用を足している中、急に背後から声をかけられ、小夏はビクッと肩を揺らした。
「あいつ来てたね。仲直りできたんだ?」
「別に関係ないだろ・・・・・・ってかなんで隣に来るんだよ!?」
小夏が使用している小便器のすぐ隣に来て、同じくファスナーを下ろして用を足そうとする敷島に声を上げる。
「えー、木田クンってこういうの意識しちゃう感じ?」
「いや意識するしないじゃなくて・・・っ!こんだけ空いてんだから、普通はひとつかふたつ距離空けるだろ!?」
自分たち以外には誰もいないガラ空きのトイレを見渡して小夏は訴える。
「大~丈夫だって。こっちからはギリ見えてないから。あー・・・、でもそんな風に言われちゃったらなんか目が行くよね」
「は、はぁっ!?」
「木田クンも分かるだろ?ほら、ミニスカでパンツが見えそうで見えない時の、あの男心くすぐられる感じ」
見えないように便器スレスレまで身体を寄せる小夏に対して、わざと覗き込むようにしてくる敷島。
そのニヤリと悪戯っぽく笑う敷島に小夏はキッと睨み返す。
「ほんっと、お前、意味分かんねぇ!」
クラスの派手なグループの中心人物で、普段から男女ともに囲まれてキラキラしている敷島が、同じクラスの男に何を言っているのか。
「え~、ただの下ネタ話じゃん」
それともこんな下ネタなんて友達同士では日常茶飯事で、自分の反応が過剰なのか。
遥以外の友達がいない小夏にはその判断基準が不明だ。
何にせよ人が自然と集まってくる様なカリスマ性のある敷島とは感覚が違うから居心地が悪いのだ。
小夏は慌ててズボンを引き上げ、足早に手洗い場へと移動する。
そして猛スピードで手を洗うと、手が濡れたままなのも構わずその場から駆け出した。
「逃げるのはやっ」
急いで慌てふためく小夏の動作がまるで小動物のよう。
敷島は笑いながら独り言を漏らした。
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