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雑居ビルの一室の錆びた扉を開くと、いつもの香ばしいワインの風味が詰まったシガーの香りが部屋中を駆け巡っていた。いつもは気を使って窓を開けて吸うのに、師匠はご機嫌が斜めなせいか、その日は閉め切ったまま曇った昼過ぎの空をじっと眺めていた。
師匠は自分が帰ってきたのに気づき、「いつものを書斎の上に置いといてくれ」とだけ口にして今吸っている葉巻をシガーカッターで切り落とし、ヒュミドールへとしまった。
「ロミオ イ ジュリエットのチャーチルはどのようなお味なのですか?」買ってきたチャーチルを師匠のヒュミドールの中に丁寧に並べながら尋ねた。
少し間が空き「味もだが、葉巻は完璧なセッティングした場で楽しむもの。景色を眺めてみたり、音楽を聞いたりとまーいろいろだ。気になるなら一本吸ってみるといい」
師匠は建付けの悪い上げ下げ窓と葛藤している。
「そーなんですね」ヒュミドールの蓋を閉めると、上げ下げ窓が開き、新鮮で少し冷たい風がコンクリート造りの部屋の壁や床をなぞる。師匠は自分が葉巻を吸うのではないかと心配になっていたみたいだった。あまりに不自然に蓋を閉めるタイミングと窓が開くタイミングが合ったため、師匠は大袈裟な誤魔化しの咳払いをした。
開いた窓から風と共に1枚のポスターがひらりと室内に入り込む。師匠の視線と自分の視線が1枚のポスターに集まり、そこには゛天使族排除!!再戦開始゛という文字が大きめのフォントででかでかと書かれていた。
師匠はプロパガンダポスターを拾い、じっと数分間何かを考えた後、今朝、師匠が食べた空き皿が残ったテーブルに伏せて置いた。
師匠の考え込んだ時の表情は、そのポスターへの呆れとはまた違う、記憶の奥底にある歴戦王と呼ばれていた頃の火と血だけの世界をフラッシュバックさせたのではないかと。あの日、あの場所で出会うまでの自分の知らない過去と現在の師匠を悩ませる闇がそこにあると思った。
「そこに置いてある本はなんだ?」
書斎に置いた買い物袋の横に立て掛けてあった古びた書物を指す。
「お買い物の帰りに偶然見かけて。そしたらそこの店主さんがくださるとのことだったので、遠慮なくいただきました」
師匠は書物を持ち上げ、表紙に書いてあるよくわからない金色の刺繍で書かれた文字の上をすっとなぞると、表紙が勝手に捲られた。
「これは一体なんでしょう」
「おそらく、ビブリアの中の一冊だろう。全13冊ある中の、、これは9巻のフォビドゥン・ピレーマ。勉強がてら読んでみるといい。なかなか触れることのない稀覯本だ」
「はい。わかりました」師匠はこの本に興味を持ったのか何ページかめくった後、咄嗟にパタンと本を閉じ、自分の目の前に差し出した。
「今夜、その書物を置いていた店に案内してくれ。私は少し準備をしてくる」そういうと師匠はシャワーを浴びに部屋を出た。
それから出発までの数時間、なんとか翻訳しながらその本を読み進めていった。まだ、何十ページかしか解読はできていないが、天使族と悪魔族が行う接吻についての記述だと言うことが先に行くにつれ段々と判明してきた。
「天使族と悪魔族の体内にはフォスとオドゥ....オドゥ…」
「オドゥム。はっ、はっ、くしゅん!」シャワーから帰ってきた師匠は髪はびしょ濡れで水が滴っていた。艶のある濡れた髪にきめ細かな白い肌、あばらの下あたりにある痛々しい大きな痣が目に入った。
「フォスとオドゥム。訳すと光と闇。私の体にはオドゥムというエネルギーが絶え間なく循環しており、ロサの体にはフォスという光のエネルギーが循環している」
「では、何故接吻というものが禁断の行為になっているんでしょう」羞恥心を抑えながらも尋ねると、「それはこれから解読していけば分かる」とだけいった。
師匠は自分の目の前にあぐらをかいて座る。髪を乾かすのはいつもの日課だ。櫛でさらりとした黒髪を梳かしながら乾かし、いつも出かける時は前髪と触覚を残し、高い位置でのポニーテールに、黒のスーツに黒のトレンチコート、最後に光沢がかかった皮手袋をするのが出かける際のコーデである。この同じセットが何十着もあり、服を決めるのが面倒という理由ではあるもの、実際はものすごくこだわりが強いのが師匠らしいと言えば師匠らしい。
いつもは髭でチクチクの師匠もシャワーから出れば中性的な美しい容姿でビフォーアフターで匠が手がけたのではと思うくらい見違える美貌を秘めている。チャーチルを片手に外を眺める師匠は見慣れている自分でも少し近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
「すっかり日は落ちたのに、外は再戦パレードで賑やかだな。きっと過激派が飽きずに踊っているのだろう」
「気になっていたのですが、ビブリアを置いていたお店に何しに行くのでしょう」
「理由はない。だが、事件はすべてその起こりは大河の源のごとく、些細なことに起因すると言うだろ」
師匠はいつもざっくりとした事しか話してくれない。それは確信が持てていないからとか、外れるのがダサいからとかそういうのではなく、知らなくてもいいことがあると遠回しに言うように、その内容から自分を遠ざけている気がした。
黒染め魔法をいつも掛けて外に出る。天使族特有の白髪は停戦状態でも危険だと師匠の教えを守り出かける際は常に髪を黒く染めている。
「そろそろ行くか」チャーチルをカットし、シガレットケースにしまった後、内ポケットに入れ、錆びれた雑居ビルをあとにした。
師匠は自分が帰ってきたのに気づき、「いつものを書斎の上に置いといてくれ」とだけ口にして今吸っている葉巻をシガーカッターで切り落とし、ヒュミドールへとしまった。
「ロミオ イ ジュリエットのチャーチルはどのようなお味なのですか?」買ってきたチャーチルを師匠のヒュミドールの中に丁寧に並べながら尋ねた。
少し間が空き「味もだが、葉巻は完璧なセッティングした場で楽しむもの。景色を眺めてみたり、音楽を聞いたりとまーいろいろだ。気になるなら一本吸ってみるといい」
師匠は建付けの悪い上げ下げ窓と葛藤している。
「そーなんですね」ヒュミドールの蓋を閉めると、上げ下げ窓が開き、新鮮で少し冷たい風がコンクリート造りの部屋の壁や床をなぞる。師匠は自分が葉巻を吸うのではないかと心配になっていたみたいだった。あまりに不自然に蓋を閉めるタイミングと窓が開くタイミングが合ったため、師匠は大袈裟な誤魔化しの咳払いをした。
開いた窓から風と共に1枚のポスターがひらりと室内に入り込む。師匠の視線と自分の視線が1枚のポスターに集まり、そこには゛天使族排除!!再戦開始゛という文字が大きめのフォントででかでかと書かれていた。
師匠はプロパガンダポスターを拾い、じっと数分間何かを考えた後、今朝、師匠が食べた空き皿が残ったテーブルに伏せて置いた。
師匠の考え込んだ時の表情は、そのポスターへの呆れとはまた違う、記憶の奥底にある歴戦王と呼ばれていた頃の火と血だけの世界をフラッシュバックさせたのではないかと。あの日、あの場所で出会うまでの自分の知らない過去と現在の師匠を悩ませる闇がそこにあると思った。
「そこに置いてある本はなんだ?」
書斎に置いた買い物袋の横に立て掛けてあった古びた書物を指す。
「お買い物の帰りに偶然見かけて。そしたらそこの店主さんがくださるとのことだったので、遠慮なくいただきました」
師匠は書物を持ち上げ、表紙に書いてあるよくわからない金色の刺繍で書かれた文字の上をすっとなぞると、表紙が勝手に捲られた。
「これは一体なんでしょう」
「おそらく、ビブリアの中の一冊だろう。全13冊ある中の、、これは9巻のフォビドゥン・ピレーマ。勉強がてら読んでみるといい。なかなか触れることのない稀覯本だ」
「はい。わかりました」師匠はこの本に興味を持ったのか何ページかめくった後、咄嗟にパタンと本を閉じ、自分の目の前に差し出した。
「今夜、その書物を置いていた店に案内してくれ。私は少し準備をしてくる」そういうと師匠はシャワーを浴びに部屋を出た。
それから出発までの数時間、なんとか翻訳しながらその本を読み進めていった。まだ、何十ページかしか解読はできていないが、天使族と悪魔族が行う接吻についての記述だと言うことが先に行くにつれ段々と判明してきた。
「天使族と悪魔族の体内にはフォスとオドゥ....オドゥ…」
「オドゥム。はっ、はっ、くしゅん!」シャワーから帰ってきた師匠は髪はびしょ濡れで水が滴っていた。艶のある濡れた髪にきめ細かな白い肌、あばらの下あたりにある痛々しい大きな痣が目に入った。
「フォスとオドゥム。訳すと光と闇。私の体にはオドゥムというエネルギーが絶え間なく循環しており、ロサの体にはフォスという光のエネルギーが循環している」
「では、何故接吻というものが禁断の行為になっているんでしょう」羞恥心を抑えながらも尋ねると、「それはこれから解読していけば分かる」とだけいった。
師匠は自分の目の前にあぐらをかいて座る。髪を乾かすのはいつもの日課だ。櫛でさらりとした黒髪を梳かしながら乾かし、いつも出かける時は前髪と触覚を残し、高い位置でのポニーテールに、黒のスーツに黒のトレンチコート、最後に光沢がかかった皮手袋をするのが出かける際のコーデである。この同じセットが何十着もあり、服を決めるのが面倒という理由ではあるもの、実際はものすごくこだわりが強いのが師匠らしいと言えば師匠らしい。
いつもは髭でチクチクの師匠もシャワーから出れば中性的な美しい容姿でビフォーアフターで匠が手がけたのではと思うくらい見違える美貌を秘めている。チャーチルを片手に外を眺める師匠は見慣れている自分でも少し近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
「すっかり日は落ちたのに、外は再戦パレードで賑やかだな。きっと過激派が飽きずに踊っているのだろう」
「気になっていたのですが、ビブリアを置いていたお店に何しに行くのでしょう」
「理由はない。だが、事件はすべてその起こりは大河の源のごとく、些細なことに起因すると言うだろ」
師匠はいつもざっくりとした事しか話してくれない。それは確信が持てていないからとか、外れるのがダサいからとかそういうのではなく、知らなくてもいいことがあると遠回しに言うように、その内容から自分を遠ざけている気がした。
黒染め魔法をいつも掛けて外に出る。天使族特有の白髪は停戦状態でも危険だと師匠の教えを守り出かける際は常に髪を黒く染めている。
「そろそろ行くか」チャーチルをカットし、シガレットケースにしまった後、内ポケットに入れ、錆びれた雑居ビルをあとにした。
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